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光の聖女

本日からKADOKAWAさまよりカドコミ(WEB・アプリ)とニコニコ静画にて本作のコミカライズがスタートします‼

カドコミ(WEB)

https://comic-walker.com/detail/KC_006932_S/episodes/KC_0069320000200011_E

ニコニコ静画

https://manga.nicovideo.jp/comic/74034


詳細は活動報告よりご確認ください。


 レニちゃんに突っ込んだ瞬間、ざぶん、と水の中に飛び込むような感触がした。生き物とぶつかったはずなのに、目を開けば私は暗闇に一人で立っていた。目を凝らすと、四角張った画面みたいなものがいくつも浮かんでいて、そこにはノヴァ様の幼少期の姿が映っている。


「スフィア!」


 振り返ると、ざぶん、とまた水の音が響いて、エヴァルトが落ちてきた。彼は私を見るなり「無茶なことを!」と泣きそうな顔をする。


「ごめんなさい。でも、やっぱり人を切るというのは、良くないと思いますし。まだレニさんは人を殺していません。ミアプラキドスを食べてしまいましたが……あれは闇の魔力も影響している……ようですし」

「同じことだ」

「……国に法律がある以上、法で裁くべきだと思うんです。それに、レニちゃんはただのライバルで、敵じゃなかったから……」

「でも……」

「お願いします」


 エヴァルトに頭を下げると、彼は「君が危なくなったら、君だけでもここから出すよ」と、堪えるように呟いた。私はしっかりと頷いて、暗闇の奥へと進んでいく。


 そうして二人で進んでいくと、徐々に周りを浮遊する映像が鮮明になってきた。やがて音のなかった映像から、声までもが響いてくる。


「アン! 来て! ケーキを焼いたのよ! あたたかいうちに食べてみて!」

「足が速いぞノヴァ……足が引きちぎれそうだ……もう少しゆっくり走ってくれ……」

「大丈夫よ! この間も引きちぎれなかったじゃない! 人間の足はそう簡単に千切れないわよ! ほらほら!」


 幼いアンテルム王子と、ノヴァ様が城内を駆け回って――いや、ノヴァ様がアンテルム王子を引きずっていた。映像は切り替わっていき、今度は庭園でお茶会をするアンテルム王子とノヴァ様が映った。


「アン! 見て! とっても綺麗なお花よ!」

「ノヴァ! 早いぞ! 腕が抜けてしまう!」

「大丈夫よ! この間抜けた時だって、すぐ戻せたでしょう?」


 そう言って、映像の中のノヴァ様は幼いアンテルム王子の腕を引っ張って走っていった。


「これは、昔の映像でしょうか?」

「多分……」


 幼き頃のノヴァ様は、もしかして相当お転婆だったのだろうか。逆にアンテルム王子は彼女に圧倒されて見える。映像を横目に進むと、今度は険悪そうなノヴァ様とアンテルム王子の映像が流れた。


「殿下、婚約の内定取り消しとはどういうことです?」

「言葉通りだ。王の判断だ。今の我にはどうしようもできん」

「そんな……」

「我はすることがある。今宵はもう遅い……帰れ。護衛もつける」

「……っ! 分かりましたわ。失礼いたします」


 ノヴァ様はうっすら涙を浮かべ、アンテルム王子の前から去っていった。王子はじっとノヴァ様を見つめている。


 きっと、暗闇の奥にノヴァ様がいる。私はエヴァルトと共に駆けていくと、闇の中心にノヴァ様が体育座りで顔を伏せていた。


「ノヴァ様!」

「……放っておいて」

「ノヴァ様! ここから出ましょう! ノヴァ様! ノヴァ様! ノヴァさまああああああああああ!」

「もう……あっちに行って! わたくしは……殿下の顔を見るのは嫌なの……」


 声をかけても、ノヴァ様は顔を上げることをしない。彼女の正気を取り戻すため、一生懸命浄化魔法をかけた。でも、瘴気にあてられてはいないらしい。私は思い切って彼女の肩を掴み、ジェットコースターを疑似体験してもらうつもりで揺すり続けると、彼女は「うっぷ」と気持ち悪そうに口元を押さえた。


「う……うぇ……」

「出ましょう! ここから!」

「なに……貴女……、あれ、聖女様……?」


 ノヴァ様は青い顔で目を見開いた。その腕を掴み「さぁ行きましょう!」と引っ張ると、彼女は「嫌」と私の手をはねのける。


「何故?」

「だから、殿下に会いたくないの」

「会いたくないなら会わなくていいんじゃないですか? さぁ行きましょう!! さぁ出ましょう! 脱出です! さぁさぁ!」

「えっ、なに……? 会わなくていい……?」

「えっ会いたいんですか? ともかく出ましょう! 出てから色々決めましょうね!」


 ひとまず、ここから出るのが最優先だ。ここを出てからアンテルム王子と会うか決めればいい。人生、生きていたら選べることはいっぱいだ!


「大事なのは! 生きることです! ノヴァ様は何にでもなれますよ! 結婚してもしなくても、王妃になってもならなくても、アンテルム王子が好きでも嫌いでもノヴァ様はノヴァ様です! 一人でも二人でも幸せになれます!」

「……」

「さぁ出ましょう!」


 ノヴァ様は、ためらいがちに立ち上がった。生きる気力が湧いてきたみたいで良かった。エヴァルトと三人で来た道を戻っていけば、彼女はぽつりと自分の話をし始める。


「……実は、ここ最近ずっと殿下と上手くいっておりませんでしたの」

「私と婚約なんて話が出来上がってしまったからですか?」

「えっと……そ、それもありますけれど、その、根本的に……殿下は私を避けるような態度を取っていて……元々、私のほうが一方的に好意を持っていたこともあって、でも、殿下も同じ想いを抱いてくれているのではと……思っていた時期もあって……」

「わー! お気持ち分かります! もしかして! って期待する瞬間ありますよね!」


 私も、エヴァルトもしかして私のこと好きでは? なんて妄想をして生きる活力を得ることが多々あった。ノヴァ様に同意していると、エヴァルトがほんの少し悲しげな顔をしている。


「でも、殿下はアカデミーに入学して、私が声をかけるとどこか上の空になって……魔力も劣っていますし、もう、失望されているのだとばかり……」

「そんなことありませんよ! 魔力が少ないからって、他に好きで楽しいことを見つければいいだけです!」


 私はエヴァルトとノヴァ様、二人を掴んでぐいぐい引っ張る。このまま光の魔法で暗闇に大穴を開けたら、風船が破裂するみたいに出れるだろう! 詠唱を口にしながら光の魔力をレーザービームのように発射しようと構えると、ズズ……と不気味な音を立てて地面が波打ち、黒い靄に包まれたレニちゃんが現れた。彼女は満足げに笑っている。


「ふふ……これで、夢が、叶うわ……やっと、死ねる」

「駄目です! 貴女の夢は後で聞きますが、今は一緒に逃げましょう!」


 私はレニちゃん目がけて突進した。彼女も、彼女を囚えている闇の魔力の塊も予想外だったらしく、動きを止める。そして思い切り飛んだ私は彼女の腕を掴み、浄化を最大出力で放出すると、ぱっと黒い靄がかき消され、彼女は意識を失った。私はレニちゃんを採れたての魚のように抱えて、エヴァルトとノヴァ様に振り返った。


「さぁ、四人でここから脱出です! 聖なる力よ、全てに彩りを! 祝福を! 光を!」


 スフィアが乙女ゲームのエンディングで使っていた必殺魔法を唱えると、私の手から光の魔力で出来た光線が発射される。光線は闇を晴らすように放たれ、一瞬にして暗闇に光の筋を作った。


「ほら! 行きますよ!」


 私はエヴァルト、ノヴァ様を押して、レニちゃんを抱えながら飛び降りた。しかしその瞬間、ノヴァ様が暗闇から伸びた触手に掴まれる。触手はレニちゃんにも伸びてきて、私は彼女を闇の魔力から遠ざけるため、大きな声でリリーを呼んだ。


「リリー!」

「なによ!」

「よろしく!」


 私はリリーに向かってレニちゃんを飛ばした。リリーは驚いた顔ですぐさま水魔法を繰り出し彼女を受け止める。


「いい加減にして!」

「怒るの後でにして!」


 私はノヴァ様を囚える闇の魔力の集合体へとに向き直った。エヴァルトが魔法で焼き尽くしていくけれど、無数の触手はノヴァ様を囚えて離す気配がない。


「このままだと、ノヴァ様が……!」

「王の血脈よ、我は次期に王となる者なり――ノヴァ! 伏せろ!」


 ひゅっと風を切る音がしたと同時に、ノヴァ様を捕らえていた触手が切断され、誰かが――アンテルム王子がノヴァ様を抱えた。


「殿下……!」

「ノヴァ、遅くなってすまない。話は後で――なに!?」


 アンテルム王子の腕に、触手が巻き付いた。明らかに魔災の集合体はミアプラキドスを吸収したことで強くなってしまっている。


「仕方ないな……王の血脈よ、我は次期に王となる者なり――我の腕を落とせ」


 王子の唱えた魔法により、彼の腕に魔法陣が展開する。そのまま彼の右腕は落とされ、触手に吸収された。


「なっ殿下、どうして……!」

「王族は浄化は出来ぬものの、光の魔力に溢れている。聖剣の資格者ならばよりそれは強いだろう。闇は光の対極の存在だ。そしてこんなこともあろうかと、手にはアンドリアの娘の爆弾が握られている……聖女! あとは任せたぞ!!」

「はい! 王様!」


 アンテルム王子は、微笑みかけるとそのまま瞳を閉じた。王子とノヴァ様はゆっくりと地上へ下降していく。下には彼らを受け止めるために魔術師たちが詠唱を始める。けれど、先程最大出力の技を出してしまったせいで、少し頭がくらくらした。


 でも、負けない。私はこの世界を守りたい。


「スフィア、駄目だ!」

「いいえエヴァルト! 私は貴方のいるこの世界を、貴方を守るために! この世界に生まれてきたんです!」


 迫りくる強大な闇の魔力に向かって手を伸ばす。そして私は、思いきり地面を踏みしめた。


「神の力よ、私は聖女の資格を持つものなり。私が望むのは――皆の幸せ。皆の笑顔。だから、神の加護を、力をこの手に! 光よ!」


 大きな声で詠唱を唱える。そうして発動した魔法は、蠢く闇の魔力の集合体に、光の雨として降り注いだ。


「負けない……絶対! 負けたくない! 私が……みんなを、守る!」


 その為なら、もうなんだっていい! この身がどうなろうと、幸せだって言える。私は全力で魔力を解放して、闇の魔力にぶつけた。全身の力がふっと抜けて、目が回る。最後にエヴァルトやみんなの顔が見えて、その後ろには確かに晴れ渡った空があった。


 よかった。本当に。


 みんな、無事だ。


本日からKADOKAWAさまよりカドコミ(WEB・アプリ)とニコニコ静画にて本作のコミカライズがスタートします‼

カドコミ(WEB)

https://comic-walker.com/detail/KC_006932_S/episodes/KC_0069320000200011_E

ニコニコ静画

https://manga.nicovideo.jp/comic/74034


詳細は活動報告よりご確認ください。

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