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攻略対象は剣王を見続けていく

本日からKADOKAWAさまよりカドコミ(WEB・アプリ)とニコニコ静画にて本作のコミカライズがスタートします‼

カドコミ(WEB)

https://comic-walker.com/detail/KC_006932_S/episodes/KC_0069320000200011_E

ニコニコ静画

https://manga.nicovideo.jp/comic/74034


詳細は活動報告よりご確認ください。


 前世時代、この世界を乙女ゲームでプレイしていた私は、元々身体がものすごく弱かった。家よりも病院のベッドの上で過ごす時間のほうが長かった。


 毎日白い天井の下で、代わり映えのない窓の外を見る。たまに、季節の行事としてクリスマス会をしたりするけど、テレビで見る『普通の子が当たり前に参加できるクリスマス会』よりは程遠い。


 なおかつ私は、他の子がかかってもなんともないような病気にかかればすぐに死んでしまうことで、いつも一人だった。


 両親は毎日お見舞いに来てくれたけど、だんだん来なくなった。でも、中学校に上がる段階で治療薬が認可されて、私は劇的に回復した。両親と一緒に住めるようになって、ぎこちないながらも、窓越してはなく、何の隔たりもなく会話をすることは嬉しかった。


 けれどその一年後に私は大きな事故に遭い、また病院に逆戻りになった。リハビリをして動けるようにはなっても、関節をわずかに曲げたりする以上のことはできない。それどころか、二十歳になるまで生きることは難しいと言われ、私は全部がどうでもよくなった。


 どうせ死ぬんだから何も食べたくない。どうせ歩けるようになるわけじゃないからリハビリなんてしない。毎日鬱々としていた時に、お母さんが送ってくれたゲームソフトの中にあったのが、「聖女の光と恋の伽」だった。気力もないけど毎日は退屈で、始めこそ惰性でプレイしていたけど、私はエヴァルトに救われた。


 いつも明るく、笑いかけてくれる彼。みんなが傷つかないよう、自分が傷ついてしまう行動ばかりとる正義感とその不器用さに、焦がれたし、尊敬した。そうなりたいと思った。。


 だから救ってあげたいと思ったけれど、同時に私は救われたのだ。彼を守れるちゃんとした人間になりたいと、強く、強く願ったのだ。


「エヴァルトは、本当にかっこいいんです。弱くて、優しくて、矛盾するけれどとても強い人で。一緒に頑張ろう、君なら出来る、ずっと一緒にいてあげるって……画面越しで決められた言葉を話す彼の言葉が、どれほど私を勇気づけてくれたことか……」

『……もし、お主の話が幻覚じゃないとして……今のあいつは、お主が好きになったやつではないんじゃないのか?』

「そうかもしれません。でも、私はどちらのエヴァルトも好きなのです。もちろんかっこいいというのもありますけど、彼は突然現れた不審な私にも優しく接してくれたんです。一緒に出かけたときも、ずっと歩幅を合わせてくれていました。それだけじゃありません。語り足りないくらい、もう、何百回も私は今の彼と、恋に落ちてるんです」


 だからこそ、エヴァルトや――彼と幸せになりたいと頑張ったことで出会った皆を、この世界を、守りたい。


「私は何があっても、エヴァルトと出会えたこの世界を守れるように、そしてリリーや、かけがえのない人々が悲しまないように、魔災を消滅させます。この世界の、今代の聖女として」


 宣言すると同時に、木々の影からがさがさと音がした。音のする方向に目を向けると、エヴァルトが現れ、その後ろから、レティクスがばつの悪そうな顔で出てきたのだった。


◇◇◇


 レティクスと亡霊騎士様と二人で話しをしてもらうことにして、私達は一旦その場を離れることにした。といっても勝手に帰ってしまうのではなく、サンズ北食堂前の広場にある東屋にて話をする二人を、エヴァルトと一緒に見守っていた。


「俺は……初代ウーティエ王様のこと――剣王様のこと、死ぬほど尊敬してます」


 レティクスが、じっと居心地悪そうにしている亡霊騎士様に頭を下げた。


『でもお主、我のこと知らない雰囲気出してなかったか……?』

「違います……、本当の剣王様のお姿を拝見したことはないので、実際どうであったかは分かりませんが、現状史実と……さらに今まで間違って広まっていた情報も含めて……全部記事も本も集めています」

「え」

「小さい頃から頭が良くて、それで剣術も出来るってすごいって思って……部屋は祭壇みたいになっていますし、壁一面に肖像画も貼っています。剣王様の人形も、これだけじゃないんです。剣王様が活躍する小説も書こうと思いました、でも、上手くいかなくて、絵心もなくて歌は作ったんですけど――曲が思いつかなかったりして、色々、紙がベッドの下に埋まっています」


 それは、オタクというやつでは。ゲームでレティクスが初代ウーティエ王大好き描写は無かったけど、彼の部屋が出ていたわけでもないし、「レティクスは初代ウーティエ王のオタクではない」という描写もなかった。


 夏の共通シナリオは、初代ウーティエ王だと分からず倒してしまったということなのかもしれない。実際、亡霊騎士様のビジュアルがきちんと出たのは、ネットの光補正画像だった。スチルは真っ黒な影に近い。


「本当は、剣王様のことを尊敬しているんです。でも、認知されるのが怖かったんです」

『……ええっと、それは具体的に……どういう気持ちで……』

「俺のファン、こんなやつか……とか、俺が好きだって知られて、貴方がわざわざ気遣ってくださるのが申し訳ないし……でも、さっきジークエンドと話をして、俺このままだと後悔するなって思って――」

『後悔?』

「はい。なので、どうか俺の部屋に、来てくれませんか……?」


 レティクスは、頭を下げた。エヴァルトと彼は一体何の話をしたのだろう。


「エヴァルト、どうやってレティクスを説得したんですか?」

「……明日の朝、亡霊騎士様は消えると言った」

「嘘じゃないですか?」

「うん」


 エヴァルトは平然と二人を見ている。ゲームのエヴァルトは、自分が死ぬとき以外、嘘はつかなかったけれど……結局彼はそのまま何も言わなくて、二人でレティクスと亡霊騎士様の後を追ったのだった。


◇◇◇SIDE Las◇◇◇

 わたしは、ウーティエ王国の最初の王だった。といっても元は小さな村の生まれで、村長同士が話し合い、たまたま中央の村の長だったわたしが村を束ね国として、最上位に君臨しろと祭り上げられただけに過ぎない。


 わたしは人望があったわけでも、民に慕われていたわけでもなかった。たまたま剣術の才に秀でて、猪や熊を殺すのが上手かっただけ。ようするに命を奪うことに長けていたから、内乱が度々起きるであろう立国初期には、殺しにくい人間を立てておこうというのが皆の総意だった。


 それでも、与えられた役割は果たしたい。


 村には父や母、兄弟たちがいる。わたしは皆に見られている。少しでもおかしな振る舞いをすれば、悪く言われるのはわたしだけではない。自分が大切に想っている者に矢が向いてしまう。だから、戦が起きれば先陣を切って向かい、誰よりも速く馬を走らせ敵国の首を取ってきた。民が傷つかないよう強い騎士団を作り、戦は血統ではなく実力だけで軍を作った。


 でも、そのことが原因で、わたしの家族は皆、死んだ。


「えっと、その、剣王様……ここが、俺の部屋です」


 わたしの子孫を補佐することを将来付けられた青年が、おずおずと案内してきたのは、わたしの生きた証を残すような部屋だった。壁にはわたしの戦う様子が描かれ、机にはわたしの系譜図がある。本棚にはわたしの半生を記した本があり、それを見て苦々しい気持ちになった。


「すごいですね! いい部屋です!」


 今代の聖女は、部屋を見回し拍手をした。それを見て、次期宰相の青年はじっとこちらをうかがう。わたしは静かに壁の真ん中へと近づいて、肖像画を見上げた。


「これは、我が晩年の頃か」

「はい。お、お、俺は! 剣王様のように年を重ねることが出来たら! と思っております」


 肖像画のわたしは、今なお呪いのように身を包んでいる甲冑を着て、天高く剣を掲げていた。額にはもう何百年と呼ばれていない、わたしの名前が記されている。その名前を、聖女はなんてことないように、「へー、亡霊騎士様ってラスさんって言うんですね! じゃあ今度からラスさんって呼びますね!」と屈託なく呼んだ。


「ああ。これは、我の名前だ」


 あたたかな春の日に、治めることは絶望的だと言われるほどの内乱を、起こした。


 わたしは誰も傷ついてほしくはなかった。わたしは当時、国の中で自分が一等強いと思っていたし、今もなおそう思う。けれど、強いだけだった。わたしが強い騎士団を作り、自分で武功を上げ続けることを危険視した者たちは、あの王の強さは人のそれではない。このままだと王に――魔王に国を支配されると言って、国に反旗を翻した。


 妻と子供を内々に国外へ退避させ、鎮圧にあたった。しかしひとつの村が燃えると、またひとつ、またひとつと争いが生まれる。隣国と戦をするのとはわけが違う。守りたいと思っていた民がわたしに牙を向ける。やがてその牙は、わたしの村や家族に向けられた。わたしの足手まといに、弱みになるのは嫌だとわたしの村や両親は自らに火を放ち、灰となって星の裏側へ発ってしまった。


 それから、すぐのことだ。わたしは反旗を翻した者たちを統べる者の首を取り、内乱は治まった。


 頭領の首をとった時、わたしの心はただただ、何も感じていなかった。妻と子供が帰ってきたというのに、わたしの中は空洞のようだった。ただただ何も感じず、何も残せず、子供に毒殺されかけ、最期には病に侵され生涯を終えた。


 けれど、わたしが先立った家族のもとに、村の皆の元へ行くことは叶わなかった。気づけば自らが死に絶えた場所に甲冑を着たまま佇んでいて、そこから移動することは叶わなかった。やがて自分の死んだ建物が崩され、魔法学園の校舎が建てられ、建物が朽ち、忘れ去られてもなお、わたしはそこにいた。


「この、自分が雷撃を纏って戦う方法や、隣国が攻め入った時王の機転で危機を脱した話を読んで……俺、この時代に俺がいたらって思ったんです。こんな王様を支えたいって……、俺、ずっと憧れてて……」


 故郷を殺してから、わたしを見てくれるものは消えた。妻は、わたしではなくいつだって地位と富を見ていた、子供は常にわたしに怨嗟の目を向けていた。寂しさで胸が張り裂けそうだった。どんなに国を統治しても何も報われないと、すべて投げ出したい気持ちをひた隠しにして生きていた。でも、


『良かったなぁ。我のやってること、誰も分かってくれないって思ってたから。やってる意味なんて無いって思ってたから、嬉しいなぁ』


 もう流せないはずの涙が、溢れてくる気がする。いつかきっと、星の裏側へと行ける日が来たら、この日のことを皆に話したい。ただただ、そう思った。


◆◆◆


「リリー! ルモニエちゃん! 書物燃やしてきたんで! 来週の朝に湖を爆破しましょう!」

「はぁ?」

「わーい」


 レティクスの部屋に亡霊騎士様――ラスさんを置いてきて部屋に戻った私は、早速二人を爆破に誘った。リリーは「また始まった……」と頭を抱え、ルモニエちゃんは「ばっくは! ばっくは!」とダウナーテンションで目をきらきらさせている。


「ようやくこれでハッピーエンドですよ! 魔災のない世界! 魔災がないことは! 皆死なない! エヴァルトも死なない! 悪役令嬢のノヴァ様だって死刑にならな――」


 そう言ってハッとした。そうだ。悪役令嬢の彼女と仲良くしたいと思っていたのに、亡霊騎士様を捕まえに行ったり魔災の書物を燃やしに行ったり爆弾を集めたりととにかく魔災対策に時間を費やし、全く彼女に会えていない。


 でも、とりあえず魔災のある池を爆破しなければ。


本日からKADOKAWAさまよりカドコミ(WEB・アプリ)とニコニコ静画にて本作のコミカライズがスタートします‼

カドコミ(WEB)

https://comic-walker.com/detail/KC_006932_S/episodes/KC_0069320000200011_E

ニコニコ静画

https://manga.nicovideo.jp/comic/74034


詳細は活動報告よりご確認ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『星の裏側へ発ってしまった』が何か面白かったです。 「星になる」とはまた違う、死後の世界観を垣間見る感じで。 地球平たい説の世界で、生者の住んでる面の裏側は死者の世界なのかな?とか。 […
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