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143 げんえいぐまに出会ったら睨み返せ

マフバマの役職ですが、神官と司祭とが使われていましたのですべて司祭に統一しました。

チェックが甘く、申し訳ございませんでした。

 未だ目を覚まさないリゼルはウルガーが背負って帰り、マフバマさんの家に寝かせてある。

 その後、障壁用エネルギー(プラネア)補充のためにリコッタをチャリクの間に連れて行く事になったのだが、案の定ウルガーは「俺はここで待っておく」と言い出したので、マフバマさんの付き人さん(よく飲み物とか出してくれる人ね)と一緒にリゼルを見ていてもらう事にした。


 そんな事があって、俺達はチャリクの間へと向かう薄暗い地下への階段を降りている。


 以前来た時と違って今回はマフバマさんではなく回転師匠(リコッタ)が光の玉を生み出して足元を照らしてくれている。

 輝力が少ないとは思えない見事な光球。マフバマさんの時よりも明るく広範囲を照らしているのだ。


 何階分かの階段を降り、チャリクの間へとたどり着いた。

 相変わらず地下とは思えない明るさだ。


 マフバマさん来訪にどよめくクシャーナの民達だが、前回同様プラネア充填を優先するようにとのお達しで、各々が得意なポーズに戻っていく。

 そう言えばマフバマさんはこの人たちに黙って戦場に来たんでしたっけね。


 そして……今回の騒動の中で最も難易度が高いと思われる『仲直りイベント』が今、始まる!


 リコッタのお役目仲間であるジニちゃん、マルシャちゃん、バレットちゃん、クラちゃんの四人と対面する。

 予定では彼女達からごめんなさいすることになっている。

 とは言え、なかなか言い出しにくいのだろう。4人とも黙ったまま、沈黙の時間が過ぎる。


「ジニ……」


 クラちゃんがリーダー格のジニちゃんに謝罪を促し、バレットちゃんとマルシャちゃんもジニちゃんの目を見てこくんと頷く。


「い、いやだ! やっぱり納得がいかない!」


 え、ええー!?

 ジニちゃん、ここにきてそれは……。


「ふん。やっぱりそうだ。私がみなしごだからって嫌がらせするんだろ!」


 あっあー、こじれた!

 ちょっとマフバマさん何とかしてくださいよ。御威光パワーで何とか!


「ジニ、悪い事をしたのなら謝らなくてはなりませんよ。テラマギオ様もお嘆きです」


「そうだよジニ、謝ろうよ」


「ごめんなさい。はい謝った。じゃあこれは終わり!

 リコッタ、あんたがいなくても私達で十分にお役目は果たせるんだから!

 ほら見なよ、このプラネアの光。どうよ!」


 ああもう。ジニちゃん、頭に血が上ってしまってる。自分で引くに引けない状況を作ってしまって……。


「そうですねジニ。多くの方に手伝ってもらっているとはいえ、この輝きはあなた方の力ともいえるでしょう」


「だったら!」


 マフバマさんはスッと手を前に出しジニちゃんの発言を遮る。


「リコッタ、あなたもやってみなさい」


「分かりました」


 リコッタは部屋中心部の光り輝く石柱に向き直ると静かに目を閉じ、祈るように手のひらを組むと、ゆっくりと両手を正面に向けた。


 瞬間、辺りの輝力濃度が下がった気がした。


 そしてリコッタは俺達素人でも明確に分かる答えを示してくれた。


「そ、そんな……」


 ジニちゃんが口を大きく開けて目を見開いている。

 他の3人も、いや周囲の大人たちもその動きを止めてその光景に見入っていた。


 天まで伸びる石柱の輝きはこれまでの比ではなく煌々(こうこう)と光り、(まばゆ)い黄金色を放ち始めたのだ。


 そんな様子にマフバマさんはうんうんと頷く。

 リコッタがぐうの音も出ないほどの力を見せた事を静かに喜んでいるようだ。


「プラネアは満ちました。結界師の方々、防御結界を!」


 チャリクの間の上方に向けてマフバマさんは声を放った。


 一呼吸の後、微細な振動が俺達の体を襲い始めた。

 クシャーナが震えているのか? これが防御結界なのか?


 チャリクの間にいる人々もオロオロと慌てた様子を見せていたが、マフバマさんが何も言わずにどっしりと構えているのを見て落ち着きを取り戻していった。


 その微振動はしばらく続いたが、黄金色に輝いている石柱の光が僅かに陰ったかなという変化を見せた頃にピタリとおさまった。


「皆様、防御結界は無事に張られました!」


 マフバマさんの声を皮切りに辺りが歓声に包まれる。


 これでこのクシャーナは災害クラスのグロリア、カラミティドラゴンがやってきても大丈夫というわけだ。


「このプラネア量なら秘匿結界の構築も可能でしょう。結界師の方々、引き続き秘匿結界を!」


 おお、凄いな。確か話によると数日間プラネアを貯めてようやく防御結界の展開が可能で、追加で秘匿結界を張るにはさらに何日もかかるって言ってた気がしたが……もしかしてさっきの戦いを経てさらに強くなったのかもしれないな、リコッタは。


 シーンとするチャリクの間。人々も展開は今か今かと上方を見上げている。


 ……。

 …………。

 ………………。


 ん? もう始まってるのか? 微振動しないタイプの結界?

 どうなんだろうなレナ。


 んーん、分からないよ、とレナも首を振る。


 マフバマさんも無言で上を見つめている。


 瞬間、ふっと黒い物が上方に現れたかと思うと、ふよふよゆっくりと下に降りて来た。

 黒いものの正体はどうやらひらひらの大きなローブ。もちろん人、というかきっとクシャーナの民だな。


「結界師マーサ、どうされました?」


「うむ。少しまずい事になってな」


「まずいことですか? 秘匿結界が構築できないということでしょうか」


「端的に言うとそのとおりじゃ。防御結界の構築技法は伝わっておるが、クシャーナが空に浮いてから今日(こんにち)まで防御結界を構築した事は無かった。つまりは初めて構築したことになるのじゃが、思った以上に反動が大きくてな」


「まさかお体が……」


「わしももう年じゃて。そこにいるナバラと先代司祭の座を争ったぐらいじゃからのう。この腰痛には勝てぬ」


「それでは秘匿結界は……」


「まあそう心配するでない。秘匿結界は構築して見せよう。リコッタよ、こちらへ」


「あ、あたし?」


 急に名前を呼ばれたリコッタはくるくると視線を辺りに向ける。


 そんなリコッタにマフバマさんがコクリと頷いて、返答するようにリコッタも頷いて。

 そうして黒ローブの結界師マーサおばあちゃんの前へと進む。


「リコッタよ。秘匿結界はわしの代わりにお主に構築してもらう」


「えっ!? 無理です! 私そんなのやったことない」


「なに、大丈夫じゃて。何も一人で結界を構築するわけじゃない。5人の結界師の力を合わせて構築するのじゃからな」


「でもマーサ様の代わりなんて出来ない……」


「案ずるな。お主はまだ幼いがその才能はわしらに引けを取る物ではない。むしろ大きくなればわしらの力を凌ぐじゃろうて」


「……」


 不安だ、無理ぃ、と、もっと反論したいのだろうが、場の雰囲気によってその言葉を喉から出すことが出来ないのだろう。


「『げんえいぐまに出会ったら睨み返せ』、と言うじゃろ。おっと、お主には難しかったのう。そうじゃな、やってみたら簡単にできちゃった、と言うような感じじゃ。ほれ」


 不安そうなリコッタの頭の上にマーサおばあちゃんは手を乗せる。

 リコッタの猫耳がくすぐったそうにピコピコと動いている。


「わわっ、なにこれ、文字が頭の中に!」


「そうじゃ、それが秘匿結界の構築技法。構築が始まると文字が順番に光っていくから、脳内でその文字を強く思い浮かべるのじゃ。難しかったら文字を口に出しながらでもよいぞ」


 文字が現れて順番に光っていく。それを口に出す。

 あれだ、カラオケの字幕だ!


「結界師の皆よ。準備は整った。今より秘匿結界を構築するぞい!」


 ◆◆◆◆


 静まり返ったチャリクの間にリコッタのたどたどしい声が響いていき、それが5分ほど続いた後、中心部の石柱の光が急激に失われて辺りが闇に包まれる。


 急な出来事にザワザワする民達を静め、燭台に火を灯すマフバマさん。


 皆の顔が見えるようになったところで改めて秘匿結界が構築されたことを宣言し、その瞬間ドッと沸き上がった歓声を聞いて俺もようやく肩の荷が下りた感じがした。


「やはりわしらの見込んだとおりじゃったな……。これで誰も文句はあるまい。マフバマ様、この子を……リコッタをわしの、結界師の後継者とするがよろしいかな?」


「ええ、ええ、ええ!」


 普段の物静かな様子とは違い、心躍らせているようなトーンで答えるマフバマさん。


「わたしが……結界師に……」


「そうじゃ。これからはお主がこのクシャーナを守っていくのじゃ。『ラグランダの滝登りの如く』……おっと、そうじゃなあ、つまりは死んでしまうくらい大変なお役目じゃ」


「うん。分かってる。司祭のマフバマ様の次に偉いのが結界師でしょ」


 これは分かっていないなリコッタ。


「リコッタが結界師なんて……そんな、そんな!」


 圧倒的な力を見せつけられて大人しくなっていたジニちゃんだ。

 しばらく間を置いたから持ち直したようだ。


「ふふん。そうだよ、ジニよりも偉くなったんだ。これからはリコッタ様って呼んでもらうからね!」


「これ、リコッタ! 慢心してはならぬ。結界師になるとはいえお主はまだ未熟。一人前になるまでこれから沢山修行してもらうからのう」


「ええっ! そんな!」


「結界師という身分に胡坐をかいているとこの子達に追い抜かれてしまうぞ。この子達もお役目を行う才能ある子達じゃ。結界師と言わずに司祭になるやもしれん」


「結界師マーサの言う通りですよリコッタ。

 それに、今回の件で私も司祭として未熟であることを痛感しました。伝統と教義に縛られて後進の育成を疎かにしていました。これからは私が直接お役目の指導を行っていこうと思います。

 ジニ、バレット、マルシャ、クラ、いいですね?」


 はいっ、と子供たちの返事がそろった。


 私だって負けないから、とリコッタは火花を散らしていた。


 このクシャーナの平和を守るためのお役目と結界の維持。それらはこれからもずっと続いていくのだろう。だけど新しい風と若い力によって活性化していくはずだ。

 お互いが競い合い自らを高めていく。それこそが成長に必要な要素の一つなのだから。


げんえいぐまに出会ったら睨み返せ


げんえいぐま(ワッキーテイルベアー)は全長4mほどのクマのようなグロリアで、一番の特徴はクジャクの羽根のように広がって相手を威圧する尻尾である。強大な咆哮と奇妙なしっぽによって相手を怯ませている間に襲い掛かり獲物をしとめるのが彼らの狩の方法であるが、げんえいぐま自身の戦闘力は決して高くは無く、臆病でもあるためこのような方法を採っている。そのため、げんえいぐまに遭遇した際はその容姿に怯えずに睨み返すことで追い払う事が可能である。初見では恐ろしい唸り声と目玉のように見える模様の尻尾に抗って睨み返すのは勇気が必要だが、やってみると簡単に撃退できる。そのため、大変そうに見えてやってみたら簡単な事(案ずるより産むが易し)、を表すことわざとして「げんえいぐまに出会ったら睨み返せ」が広く使用されている。


ラグランダの滝登りの如く。


命を賭けて物事をなす事を表す慣用句。小型のゾウのようなグロリア、ラグランダは成長過程で100mはあろうかという高さの滝を滝つぼから登っていく習性ががある。これは進化の特殊条件であり、登り切った個体のみが上位のグロリアに進化し群れをまとめていくのだが、僅かな個体しか成功事例はない。上位グロリアであるエグラグランダに率いられる群れは天敵からの攻撃による生存率が劇的に上がるため滝登りを成功させることは群れ全体の悲願であり、まさに身命を賭して行う儀式なのである。


ちなみにクシャーナにはげんえいぐまもラグランダもいないため、地上にいた頃から伝わっている言葉だと推察される。

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