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111 自由騎士の従者 その2

 案内し終えた若い騎士君は「それでは失礼いたします!」とバチっと敬礼を決めて足早に去っていった。


 そんなこんなで無事に自由騎士邸にたどり着いたわけだが……これはちょっとしたお屋敷だ。庭付きの2階建ての建物で、エルゼ―にあるブライス家のお屋敷と同じくらいだ。さすがは自由騎士様。この国最強の騎士だな。


「ほら、入った入った。ちょっと散らかってるが許してくれ」


 案内された中はちょっとどころの散らかりようではなかった。

 玄関からして何やら書類のようなものが散乱しているし、歩を進めると足の踏み場もないほどに散らかされた日常生活品やゴミに混じって、シャツやらの洗濯物が姿を覗かしている。


 おいこれ、パンツとか混じってないだろうな。

 レナはお嬢様なんだぞ。


 散らかり放題のリビングに置かれているデスク。どうやらそこが仕事机のようだが、もちろんその上も書類などで散らかっている。その隙間からチラリとペンやインクが顔をのぞかせて、いつでもいけますぜ、という感を出しているが文字を書くスペースなんか存在しない。


「仕事の話は後でするとして、まずはお前の部屋へ行こう」


 案内されたのは二階の一室。さすがに家の中では迷わないようだ。

 ここは来客用の部屋との事。しばらく使っていないということだったが、何のことは無い。ドアを開けて目に飛び込んで来た光景は綺麗そのもの。階下の惨状を見ていると使われていないこの部屋のほうがどれだけ綺麗なのかが良く分かる。


 肝心の部屋自体はこじんまりとしたもので、奥にだけ窓があるタイプ。その中にベッドと机とタンスが一つづつ。来客用のためそれなりに装飾も施されており、普通のホテルの部屋と比べても水準以上のものだ。


「よし。荷物を置いたらさっそく行ってもらいたいところがある。なに、仕事の前にお前の服を受け取りにいってもらうだけだ」


 なるほど制服ね。

 たしかにドレスで仕事をするわけにはいかないからな。


 場所はここだ、と渡された地図の場所に向かう俺達。


「すみませーん」


 目的地は城内にいくつかある建物内の一室。沢山の文官の方が働いている場所だった。

 皆が忙しそうに書類とにらめっこし、バタバタと慌ただしく動いている中、申し訳なさそうに小声で自己主張するレナ。


 そんなレナの様子に気づいた一人のお姉さんが「きゃー、何この子可愛い!」って声を上げると、たちまち人に囲まれてしまった。


「あの……ウルガー様のお使いで来ました」


 円陣を組まれて中心で全員の視線を浴びているとさすがに恥ずかしいなレナ。


「お嬢ちゃんが噂の……。あのウルガーさんが従者を付けるなんてね」


 中年のおじさんからの返答。


「はい、レナ・ブライスと申します。よろしくお願いいたします」


「お嬢ちゃんが来てくれて、これからは意思疎通がやりやすくなりそうだ」


 うんうんと頷き、したり顔をする中年のおじさん。そして「ほれ、散れ散れ、仕事に戻れ」と周りの文官たちを現実に引き戻した。


 不満そうな文官達をしり目におじさんは「ついて来な」と俺達を連れ立って歩き始めた。


「さて、お使いと言う事だが制服の事だろ。実は準備できていないんだ。ウルガーさん、先日突然現れて制服を用意してくれって言うんだよ。女もののだ、よろしくってな。それだけ言うとすぐに帰ってしまってな。こちらも忙しくてとりあえず要件だけメモっておいたんだが、用意しようにもお嬢ちゃんの服のサイズが分からないと来た。確認しようにもウルガーさん家にいないことも多くて、毎度毎度すれ違いも大変だから手紙を残しておいたんだ。だけど返事が無くてね。まあそんなわけで服の準備は出来ていない」


 大雑把だなウルガー。ま、その大雑把な部分をフォローするのがレナの従者としての役割なんだろう。


 おじさんに連れられてとある一室に入る。

 そこは倉庫らしく、いくつも並んだ大きな棚のなかに色々なものが整理整頓されて保管されていた。おじさんは倉庫の中にいた女性の文官にレナの背丈を図るように指示し、その情報を元に二つの制服を持ってきた。


「うーん、お嬢ちゃんのサイズにあう制服の在庫はこの二つだけだったな」


 一つはスカート。膝辺りまでの丈のもの。もう一つが長ズボン。最近はパンツって言うんだっけ?


「本当はハーフパンツ型とロングスカート型があるんだけど、いかんせんお嬢ちゃんの様にちっちゃな子の制服は需要が無くてな。あまり作られていないのと需要が無いので補充されていないってわけだ」


 あぁ、レナの身長が平均よりちょーっとちっちゃいのはあるけど、そもそもこの年齢で城勤めする人なんかいないからな。ましてや騎士団には。


 さあどっちにする? と問いかけるおじさん。

 スカートは可愛いけど動きやすいズボンにします、とレナはズボンを選択した。

 残念そうなおじさんに女性文官からお小言が飛んでいた。


 ◆◆◆


 無事に制服を受け取ったので自由騎士邸に戻る。

 俺達が戻ってきたことを察したのか「制服に着替えてくるんだ」と裏庭からウルガーの声が聞こえてきた。


 レナと俺は一度部屋に戻ってお着換えタイム。来ているドレスを脱いできちんとたたみ、受け取った制服に袖を通す。小さい頃はメイドさんに着替えを手伝ってもらっていたのが懐かしいな。


 着替え終えたレナが「スー、どうかな?」と腕を横に伸ばして変な所が無いかの確認を求めてきたので、俺は周囲をぐるりとまわって様子を確認する。


 うんうん。きちんと着れているな。

 白ベースの中に黒でいくつか模様が入ったカッコいい制服だ。良く似合ってるぞレナ。


 レナはくるんと一回転して見せると、その遠心力によって後ろで三つ編みにくくられた髪がふわりと浮き上がっていた。


 レナはここ数日の間に自分一人で髪を三つ編みにすることを習得していた。ライザママに教えてもらったのだ。練習の様子は親子仲睦まじくてほっこりしたよ。親子っていいものだ。


 ライザママは後ろ髪を左側に垂らす一本三つ編みだが、レナはまっすぐ背中に垂らす背後一本の三つ編みだ。肩の上辺りから始まって背中の途中までの長さの金色の三つ編み。俺は好きだ。


 最後にウエストポーチを付けて、肩掛けカバンをその逆側に身に着ける。「従者(チルカ)ならこれが必要だろう」と言われて渡されたものだ。

 この中にいろんなものを入れて主のサポートをするためだ。今はからっぽで何も入っていない。


 うんうん。ばっちり決まっているぞ。さすがはレナだ。何を着ても可愛いな。


 着替え終わった俺達はウルガーの声がした裏庭へと出る。

 そこではウルガーとその相棒のカエルグロリアであるケロラインが組手を行っている所だった。


「おっ、着替えたな。似合ってるじゃないか。馬子にも衣装ってやつだな」


 それ使い方違うからな。褒め言葉じゃないからな。

 まあ確かにレナはちっちゃくて可愛いから武骨な騎士団には似ても似つかない一輪の花だけど、そこら辺のヤツには負けない志があるんだからな。失礼な男だまったく。


 上半身すっぱだがで訓練していたウルガーは汗を拭きながら戻ってくる。


 ほーう、結構鍛えられた体じゃないか。服の上からじゃ分からなかったが生身で見るとムキムキだな、レナ。


 レナは手で目を覆いながら、そっと指の隙間から様子を確認している。


「なんだ、男の裸ぐらい見た事あるだろ。減るもんじゃないから遠慮しなくていいぞ。むしろ目に焼き付けておくといい。これも俺の強さの一つだ」


 これからもずっとこうなんだろうな、とレナが思っているのが伝わってくる。

 それに慣れるためにおずおずと手を顔の上からどかし、顔を赤くしながらなるべく焦点を合わさないように視界に入れているレナであった。



ウルガー様が見慣れない女の子と城内を何度もグルグル回っておられたのを見て、噂のチルカに丁寧に城内の説明をしてるんだなって思っていたので、案内してくれと声をかけられたときは本当に驚きました(家まで案内した若い騎士君談)

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