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98.彼女の姿

 私がここに差し出された理由は、流星くんと夫婦にさせられるためだった。

 

「ディア能力が高い者同士、結ばれて子を授かれば、その子は親以上の能力に恵まれる。俺たちの子が子を産み、そのまた子どもが子を産めば、俺たちの星は強力な兵力を手に入れられるんだ」


 ディア能力が高い人間を一族に取り込んで、遺伝子を引き継がせる。

 そして、優秀な子どもを兵力に加える。

 それがこの人たちのやり方なんだ。


「そうなんだ。流星くんは、自分の子孫を戦の道具にしたいんだ。悪いけど、その考え方には賛成出来ない。それに私、大切な人がいるの。その人の事を忘れて、別の人と結婚するなんて出来ないから」


「大切なやつっていうのは、イーグルとハウンドを差し向けたとき、一緒に居たあいつか?」


 イーグルと戦ったときと言えば、私と樹くんが休業に追い込まれる怪我を負った日。

 そうか。あの日見た見物人は、流星くんだったんだ。


「そうだよ。あの時樹くんは、命がけで私を助けてくれたの。エイリアンを差し向けた? じゃあ、あの時、樹くんが大怪我をしたのは、流星くんのせいだったんだ?」


 樹くんをあんな目に合わせた人と結婚?

 そんなの、余計に絶対にあり得ない。

 この人は海星くんの弟で洗脳されているとは言え、自分の意思で侵略を主導している敵だ。

 流星くんのことをギッと睨みつけると、彼は悲しそうな顔をした。


「あの時は悪かったよ。イーグルを差し向けたのは、お前の能力を測りたかったからだ。朝倉の話を聞いて、ディア能力三桁から一桁に転落したお前に興味を持ったんだ。でも命まで奪うつもりはなかった。俺だって戦が好きなわけじゃないんだ。けど、やらなきゃ俺たちだってやられるだろ。エンペラーは手加減なんかしてくれない。もう何千万人やられたか分からない」


 宇宙で二番目に強いと言われているアギルは、エンペラーと呼ばれる星と戦をしていると聞いていた。

 想像以上に大規模な戦で、多くの人が犠牲になっているんだ。


「その戦ってどんな経緯で始まったの?」


「長年エンペラーから従属星扱いされてきたアギルが、いよいよその支配や理不尽さに耐えられなくなって、50年ほど前に反乱を起こした。けど、その圧倒的な戦力差になす術なく、次々とアギルの人間は殺されたそうだ。戦況をなんとかひっくり返したかったアギルは、近隣の星々を襲い、祈願力の強い人間を集め、祈願石を作らせた。俺たちはこの星、S-003の育成の担当だが、他にも数十の星に分かれて、同じような事をしている」


 エンペラーの強さはそこまで圧倒的なんだ。

 流星くんのいう祈願力はディア能力、祈願石はデザライトの事だろう。


 そして、アギルという星も他の星々を同時に侵略しているのにも関わらず、私たちの星にこれだけの戦力を送り込んでいる。

 50kmという途方もない大きさのUFOがいくつもあるなんて、想像もつかない。



「そういうわけで、こちらは時間がない。今からお前を先輩に会わせてやる。その人に身体に異常が無いか、よく見てもらってくれ。異常がなければ役目を果たしてもらう」


 私の先輩? それって私と同じように生け贄にされた防衛隊員ってこと?

 その人が異常なしと判断すれば、いよいよ私は流星くんの妻にされてしまう。


 連れてこられたのは診療所だった。

 だだっ広いスペースに、ベッドがたくさん並べられていて、白っぽい服を着た人たちがウロウロしている。


 その先輩がどの方なのかはすぐに分かった。

 オレンジ色の髪の人たちの中に、黒髪の女性が紛れていたから。


 その人はデスクの椅子に座って、目の前に座る男性の喉を触ったり、口の中をライトで照らしながら覗き込んだりしている。

 お医者さんの診察風景みたい。


「彼女が十年ほど前に同盟を結んだ際、やって来た人材だ」


 流星くんが片手を上げて合図すると、女性は男性の診察を終えたあと、すぐにこちらに来てくれた。


 その女性の顔を見て、驚きのあまり、息が止まりそうになる。


「あの⋯⋯失礼ですが、花崎桃葉さん⋯⋯ではありませんか? 10代目六連星の⋯⋯」


 公的資料に最後に残っている姿は、引退直前の十代後半の姿だ。

 今、目の前にいる女性は、あれから十年経って、二十代後半になっておられるけど、間違いない。


「はい、そうです。もしかして、あなたも防衛隊員なのですか?」


 桃葉さんは私のことを気の毒そうに見つめる。

 

 闘病のために六連星脱退後、海外での治療虚しく亡くなったとされていた桃葉さん。

 それは朝倉統括の嘘で、本当は生け贄にされていたんだ。

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