表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/112

93.雲行き怪しく

 それから一週間後、脳に異常がないことが確認され、無事に退院することができた。


 お父さんに付き添ってもらい、基地へと帰る。


「小春、あまり無理をしてはいけないよ。レンジャー活動にケガは付き物。けれども、小春の場合は少し多いんじゃないか?」


 基地の入り口で立ち止まったお父さんは、不安そうな顔をした。


 私のケガが人より多いのは、ディア能力が高いからだ。

 ハウンドに狙われ、カンガルー男にも狙われ⋯⋯


 お父さんは給与課の人だから、どの隊員が何日くらい休業しているかは把握しているけど、エイリアンのことも、ディア能力のことも、ほとんど何も知らない。


 私が人より無茶をしているって思っているのかも。


「ごめんね、お父さん。心配ばっかりかけて。これからは、もっと気をつけるよ」


「小春は強いヒーローだから、世界中の人が小春の才能に夢見ているかもしれない。けれども、お父さんにとっては、小春と秋人は生きていてくれたら、それだけでいいんだ。病院の先生が言ってたことを覚えてるね? きちんと体力が戻ってから作戦に参加すること。いいね?」


 お父さんは私の肩をポンと叩いた後、背中を押してくれた。



 お父さんに心配をかけてしまったことを反省しながら、六連星の作戦会議室に向かう。


「皆さま、この度はご迷惑をおかけいたしました!

これ、駅前の和菓子屋さんの羊羹です⋯⋯」


 菓子折りを持って部屋に入ると、尋常じゃなく張り詰めた空気が流れていた。


 陽太さん、冬夜さん、光輝くん、海星くん、樹くんは戦闘服に着替えて、一列に並んで立っている。


 そして、その視線の先にいたのは――


「朝倉統括⋯⋯」


 朝倉統括が窓の外を眺めながら立っていた。


「桜坂くん、退院おめでとう。元気そうで何よりだ」


 朝倉統括は、にこやかな表情を浮かべながら、私の方へと近づいて来て、手を差し出す。


「⋯⋯ありがとうございます」


 頭を下げながら、差し出された手を握り、握手を交わす。


 このお方がここに来るなんて、私が知る限り初めてのことだ。

 いったい何の用だろう。


「退院早々申し訳ないが、桜坂くんには検査を受けてもらうよ」


 朝倉統括は私の心を読んだのだろうか。にっこり微笑みながら答えてくれた。


 復帰して、まず始めにやることが検査?

 この一週間、散々、検査を受けて来たのに⋯⋯


「もちろん、頭の検査じゃない。ディア能力の測定だ。聞くところによると、不審なことに、君は昨年の年末に一桁を叩き出して以来、まともに検査を受けていないようじゃないか。おかしいとは思わないかね? 脅威のディア能力を買われて六連星入りしたヒーローが、なんのフォローもされないまま、半年以上も活動を続けているなんて」


 朝倉統括に海外支部に引き抜かれないようにと、米谷さんと協力して、ディア能力一桁のふりを続けて来た。

 けれども、いよいよ誤魔化せなくなったってことか。


 昨日の夕方、面会時間の終わりに、海星くんにカエル用のデザライトを生成してもらったけど、一晩経って、今は昼前だから、もうかなり回復しているかもしれない⋯⋯



 海星くんや米谷さんに助けを求めようと思ったけど、朝倉統括にしっかりと監視され、六連星のみんなとともにディアラボに移動してきた。

 研究部員の協力を得て、測定を開始する。


 ディア能力は願いの力だから、あんまり具体的な夢や希望を思い浮かべなければいいのかも⋯⋯?


『エラーコード002︰計測に集中できる環境でやり直してください』


 そんな浅はかな考えはお見通しだったのか、無機質な機械音が繰り返しエラーを告げてくる。


「朝倉統括。彼女は一時、脳しんとうを起こしていましたし、本調子に戻るまでは、しばらくかかるのではないでしょうか」


 陽太さんが私を庇うように発言すると、朝倉統括は彼の方を振り返った。


「そうは言っても赤木くん。この件に関して、本来なら君に責任を問うべきだとは思わないのかね? 自分の隊の隊員のディア能力の推移を把握せず、良く作戦を遂行できたものだ⋯⋯いや。そんな状況下で無謀にも出動して、二回とも休業災害を起こしていたな」


 厳しい表情で睨みつけられ、返す言葉もないという様子で俯く陽太さん。


「それは、私が赤木隊長に『変化なし』としか報告を上げていなかったからです。悪いのは私です」


「そうか。桜坂くんは、計測してもいない結果を上官に報告していたということか。その報告が作戦の遂行に影響を与え、人命に関わる事態を引き起こすと知りながら」

 

 確かに私がやったことは、重大な違反行為だ。

 米谷さんの指示とは言え、指揮命令系統を守らなかった正当性なんて、主張できっこない。


「過ぎたことはもういい。水に流そう。それよりも大事なのは今だ」


 いつまでも黙っていると、朝倉統括は優しい声色で語りかけてくる。


 これ以上無駄な抵抗をしても、誰も幸せにならない。


 グリップを握って、力を込める。


「⋯⋯⋯⋯やはりな」


 満足そうな声に顔を上げ、測定結果を確認する。

 うそ⋯⋯⋯⋯257? これは最高記録だ。


 やはり海星くんの読みは当たっていた。

 樹くんが私を幸せにしてくれるから、戦う勇気をくれるから、私のディア能力も育っているんだ。

 

「そういうわけで、桜坂くん。国内での活動は本日限りで終了とし、私の元へ来てもらおう」


 朝倉統括はこちらを振り返り、ついてこいと目で語りかけてくる。


「待ってください。任期の途中で桜坂隊員に抜けられては支障がでるでしょうし、そもそも、UFOの中心地から離れた海外支部に、なぜ彼女が必要なのでしょうか? それに、彼女の人事権は飯島本部長にあるはずです」 


 冬夜さんは理路整然と異議を申し立てる。

 

「朝倉統括、私は六連星の任期を全うしたいです。ディア能力が低くて外されるのなら仕方ありませんが、高くて外されるのは納得できません」


 恐れ多くも自分の気持ちを主張したけど、朝倉統括は黙って首を振る。


「飯島くんにはこれから話す。君たちからの異議は認められない」


 朝倉統括が部屋を退出するので、私も嫌々後をついていく。

 みんなの方を振り返ると、戸惑ったようなショックを受けたような表情をしている。

 

 後ろ髪引かれる私をよそに、朝倉統括は無言のままどんどん歩みを進めてしまう。


「海外支部と言うのはどこのことでしょうか? ここから遠い国でしょうか?」


 確か、海星くんは飛行機の距離の国と言っていたけど⋯⋯

 朝倉統括は、はたと立ち止まり、窓の外に視線を向けた。


「君が配属になるのは国じゃない。あれだよ」


 その指が指し示したものは、空に浮かぶUFOだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ