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92.宇宙大戦争

 お見舞いに来てくれた海星くんが、自身の中に流れる血や、この星で起きている現象について解説してくれることになった。


「⋯⋯実は、俺の父親はこの星の人間じゃない⋯⋯自然豊かな小さな星――ルーンから来た」


 海星くんのお父さんが宇宙人?

 ということは、つまり、海星くんは宇宙人とのハーフ⋯⋯


「⋯⋯だから、俺には黒い血が流れてる。今までバレないように必死に隠してきた⋯⋯けど、昨日は小春を助けようとして、焦って下手うった。今まで、怪我をした時は『返り血』で誤魔化せた。ダガー使いだから」


 これまで海星くんは、自分の素性を隠して、この星で生きて来たんだ。

 血液でバレてしまうのなら、病気や怪我の時も、周りを頼れなかっただろうに。


「⋯⋯⋯⋯驚かないの?」


 海星くんは意外そうに目を見開く。


「いや。そりゃあ、驚いたけど、海星くんって独特の雰囲気があるし、最近は不思議な言動も多かったし。まぁ、そうかもって思えたかな」


 むしろ、謎が一つ解明されたことで、納得しているくらいだ。


「それで、どうして海星くんのお父さんは、この星に来たの?」


「⋯⋯ルーン星は破壊された。あのUFOに乗っているやつらに。父親はあいつらを侵略者(インベーダー)って呼んでる。この宇宙で二番目に強い――アギル星の連中」


 彼は憎しみがこもった目で窓の外を睨みつけた。

 あのUFOの中にいるのが、宇宙で二番目に強いとされるアギル星人たち⋯⋯

 彼らが海星くんのお父さんの故郷の星を破壊した。

 いったい、何のために⋯⋯


「⋯⋯ルーン星の王族は、神聖な力を持っていた。それは、守護者を見つけ出す力と奇跡の石を作り出す力。つまり、ディア能力が高い人間を探し出し、涙からデザライトを生成する能力。その力を他の星に奪われることを恐れた侵略者たちは、ルーン星を破壊した」


 ルーン星は、ディア能力者とデザライトを巡った争いの被害に遭ってしまったんだ。

 そして今は、この星の番が回って来ている。 


「⋯⋯父親と米谷さんは、その時、逃げ出せた生き残り。王族の血を引く者。侵略者たちが来るより前に、この星に逃げ込んだ」


 海星くんのお父さんと米谷さんが、ルーン星の王族?


「あの米谷さんが? 失礼だけど、全然王族っぽくないね? ということは、海星くんは王子様ってこと?」


「⋯⋯そう。俺は王子様ってこと。米谷さんは祖父の従兄弟の子どもかなんか。忘れたけど、王族」 

 

 米谷さんと海星くんは遠い親戚なんだ。

 確かにお肌が異様に美しいところだけは、そっくりな気がする。


「⋯⋯だから、小春が泣いてるの、すぐわかる」


 海星くんは私の頭をそっと撫でた。


「なるほど。やっぱりエスパーみたいなものだったんだね」


 海星くんの正体に驚きはするものの、つらい時に慰めてくれたのも、困っている時に助けに来てくれたのも、すべて海星くんの優しさだ。

 そう思うと、血の色なんて、些細な違いにしか思えなくなってくる。


「じゃあ、弟さんは? 弟さんも王子様なんでしょ? 別々に育てられたって⋯⋯」

 

 弟さんの話題は禁句なのかな。

 海星くんは前の時みたいに、暗い顔になってしまった。

 

「⋯⋯流星は赤ん坊の頃、侵略者に連れ去られた。この星で生まれた流星は、脅威のディア能力を持っていた。俺の五倍近く」


「え⋯⋯じゃあ、300超えとか?」


 海星くんはコクンコクンと頷く。

 そんな値の人も存在するんだ。

 

「⋯⋯侵略者たちに育てられた流星は、恐らく、やつらに洗脳されている。俺たちを敵だと思ってる」


「そんな⋯⋯」

 

 生き別れた兄弟が自分を敵だと思い込んでるなんて、どれだけ悲しいことなんだろう。


「⋯⋯侵略者たちはこの星を侵略しながら、エンペラーと呼ばれる星と戦争してる。エンペラーは宇宙で一番強い星。俺たちがいつも戦っているのは、エンペラー産のエイリアン。侵略者たちは、自分たちの星に降り注いだエイリアンを生け捕りにして送り込んでる」


「え! そうなの? てっきりあのUFOの中で生活しているエイリアンたちが降りてきているのかと⋯⋯」


「⋯⋯侵略者たちは、エンペラーに打ち勝つため、デザライトとディア能力者が欲しい。この星に意図的に負荷をかけて、育ててる。使命感・幸福感の両方がないとディア能力は育たない」 


 あのUFOが私たちのディア能力を育てている?

 馬鹿にするのも大概にして欲しい。


 本気で侵略しようと思えば簡単にできるだろうに、私たちが絶滅しないように調整しながら、負荷をかけ続けていたって?

 

「⋯⋯小春の能力、最近、育ってる。200は確実に超えてる⋯⋯樹のおかげ」

 

 今までずっと硬い表情をしていた海星くんは、ニコッと微笑んでくれる。

 そうか、海星くんは知っていたんだ。


「⋯⋯でも、だからこそ気を付けて。カンガルー男も小春を狙ってた。奪われるわけにはいかない。小春は俺の友達だから」


「海星くん⋯⋯」

 

 流れる血の色や背負ってきた使命は違えど、友達だと思ってもらえることが、想像以上に嬉しい。


 けど問題は、あのカンガルーの中身が人間の男の人だったということ。

 あの人はいったい何者なの?

 そう聞こうと思ったその時、病室のドアがノックされ、誰かが入ってきた。


「あぁ、なんだ。海星も来てたんだ。桃剥いてきたけど食べる? 看護師さんに聞いたら、ちょっとだけなら良いよって」


 入って来たのは樹くんだ。

 他にも色々と差し入れを持ってきてくれたみたい。

 テーブルの上に保冷バッグを置いたあと、冷蔵庫や棚の中にお願いしていたものを補充してくれる。


「⋯⋯⋯⋯俺も⋯⋯⋯⋯食べる」


「樹くん、ありがとう! 私も食べたい!」


 私たちが大喜びすると、樹くんは少し嬉しそうな表情をしながら、フォークの準備を始めた。


「⋯⋯続きは、また今度」


 海星くんはそう言ってから立ち上がり、樹くんの方へと歩いて行った。

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