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91.彼らの正体

 その時、私は夢を見ていた。

 もしあのまま、カンガルーに連れ去られていたら、どこに連れて行かれたんだろう。


 そう言えば、上守城の内部ってどうなっているんだろう?

 どうしてこのお城って、いつもエイリアンたちに破壊されることなく、綺麗に形が残っているんだろう。


 夢の中で城の周囲を探検していると、頬にペシペシと衝撃を受けて目が覚めた。


「こら! 小春! 早く目を覚ましなさい! やっぱりヒーローなんてやらせるんじゃなかった! こんな風に死にかけて!」


 視界に飛び込んで来たのは、見慣れない天井と、鬼の形相のお母さん。


 さっきからほっぺたを叩いてるのは、お母さんだったんだ。

 

「こら! よさないか! 頭を強く打っているんだぞ!」


 慌てたお父さんが、後ろからお母さんを羽交い締めにする。


 はぁ〜どうしてこの人は、こんなにも騒がしいんだろう。

 もう少し寝たふりをしておこうかな⋯⋯

 いやでも、無抵抗のままにしていては、ますます叩かれるか?


 ぼんやりとする頭で、最適解を導き出そうと奮闘していると、別の人の声が聞こえてきた。


「小春くん! 気がついたか! 桜坂課長! お母さん! ⋯⋯って、あれ?」

 

 声のする方に顔を向けると、陽太さんがいた。


 安心したような笑顔を浮かべる陽太さんは、シャツがよれよれになっていて、ボタンは不自然に外れている。

 間違いない。お母さんがやったんだ。


「陽太さん、家の母が申し訳ありません⋯⋯」


 開口一番に謝罪すると、陽太さんは笑顔で首を振る。

 

 荒ぶるお母さんと、お母さんを落ち着かせるために病室の外に出ていってしまったお父さんに代わり、ナースコールを押してくれる。


「小春ちゃん! 意識が戻って良かった⋯⋯」


 わらわらと人が集まってくる気配にベッドの周りを見回すと、樹くん、光輝くん、冬夜さん、そして、海星くんもいた。


 海星くんの頬には、絆創膏が貼られている。

 そこに滲んでいるのは、私たちと同じ、赤っぽい血。

 なんだ。やっぱりさっきのは見間違いか。


「皆さん、ずっと付き添ってくれていたんですか? 心配をかけてごめんなさい」


 どうやらここは、どこかの総合病院のVIP用の特別個室らしく、ソファやテーブルなどの応接セットが置かれている。


 陽太さんが呼んでくれたお医者さんが診察をしてくれた結果、診断名は脳しんとうで、頭痛やめまい、思考力の低下は、十日以内には治まるのではないかとのこと。

 

 ただ、実は脳が傷ついているパターンや後から出血が見つかるパターンもあるため、数日間入院することになった。



 夜。

 両親も六連星のみんなも帰宅し、一人になって考えるのは、先ほどの戦闘のこと。


 カンガルー型エイリアンの首元から覗いていた二つの目。

 おそらく、あれも見間違いだろう。


 頭が考える事を拒否しているのか、頭痛が酷くなるので、もうそれ以上、考えるのは止めて眠りについた。


 

 翌朝。

 朝食が終わった頃、登校前の樹くんが面会に来てくれた。


「樹くん! 忙しいのにごめんね! 樹くんも昨日の戦闘の疲れが取れてないでしょ?」


 樹くんは無言でスタスタと近づいて来て、返事の代わりに、ぎゅーっと抱きしめてくれた。

 久しぶりに感じる体温に安心感を覚える。


「あの時は心臓が止まるかと思った。海星が行ってくれなきゃ、どうなってたか。生きててくれて良かった」


 樹くんの声は心からホッとしてくれているように温かく響く。


 あぁ、また私はこの人に心配をかけてしまった。

 自分が逆の立場だったらと思うと、胸が張り裂けそうで苦しくなる。

 文句の一つでも言いたいところだろうに、ただただ優しい言葉をかけてくれる。

 

「ごめんね、樹くん」


 胸に頬を擦り寄せると、そっと髪を撫でてもらえる。

 

「ううん。無事でいてくれてありがとう。朝から押しかけてごめんね。また夜も来るつもりだけど、朝なら二人きりになれるかもと思って。じゃあ、行ってくる」


 樹くんはカバンを拾い上げて、病室を出て行った。

 


 それから10時間ほど経過した夕方。

 面会に来てくれたのは、海星くんだった。


「⋯⋯⋯⋯調子はどう?」


 海星くんは、ベッドの側にあった椅子を引き寄せて腰かけた。


「うん。頭痛と記憶の混濁? みたいなのはあるけど、意外と元気!」


「⋯⋯⋯⋯そう」


 安心したように微笑む海星くん。

 けど、すぐにその表情は悲しげに歪む。


「⋯⋯⋯⋯俺のこと⋯⋯⋯⋯嫌いになった?」


 突然何を言い出すかと思ったら。

 私が海星くんを嫌いになる理由なんて、何一つないのに。


「どうして? どうして、そう思ったの?」


「⋯⋯⋯⋯秘密⋯⋯⋯⋯見られたから」


 海星くんは、またもや意味深な事を言った。

 適当に誤魔化してくれれば、私の記憶違いで処理できるのに。


「嫌いになっていないし、あのことは誰にも言ってない。けど、今は普通の色に見えるけど」


 海星くんの頬の傷を覆う絆創膏に滲む血液は、少し茶色がかった赤色に見える。

 昨日より少し出血量が減ってきたのかな?と思うと自然なように思うけど。


「⋯⋯⋯⋯これは、絆創膏を二重に貼ってるだけ⋯⋯⋯⋯」

 

 彼は自分の頬を撫でながら言う。


 本来の血液がついた絆創膏の上に、絵具か何かで細工をした絆創膏を貼ってカモフラージュしているのか。


「⋯⋯⋯⋯俺の話、聞いて欲しい」


 海星くんは真剣な目で、私の目をまっすぐに見つめた。

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