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87.不思議な力

 クリスタルフロッグの卵を回収した後、米谷さんが運転する車は、護城市内にある米谷さんの邸宅に止まった。


 床も壁も天井も白で統一された室内は、家具や家電の類がなくて、生活感がない。


 私が心配していたカエルの生育環境は、すでに用意されていたようで、巨大な水槽がいくつもあった。


 水槽内には薄っすらと水が張られていて、土で出来た陸地には植物が植えられ、温度を調節するライトなども完備されている。


 この水槽セットだけで、数百万円くらいはするのでは?


「米谷さんもお金持ちなんですね。お一人でこんな豪邸にお住まいですし」


「そうだね。地下には秘密のラボもあるし! 最高の住処だよ!」


 自慢のお宅を褒められた米谷さんは、満面の笑みを浮かべる。


 そうなんだ。地下にはラボまで⋯⋯

 仕事でも、プライベートでも研究をしているなんて、天職なんだろうな。

 

 その日はすべての卵に願いを込めて、細胞分裂を促し、何食わぬ顔で上守城へと戻った。


 

 結局、飛び跳ねる二匹の謎の生物、クリスタルフロッグ本体を発見することは誰もできずに、その日の捜査はおしまいとなった。



 夜、寮の部屋で寛いでいると、樹くんが訪ねてきた。

 他愛のない話から始まり、最終的には昼間の私と海星くんの行動についての話題になった。


「海星って、確かに不思議ちゃんだけど、チームを変えてくれとか、ここを担当させてくれとか、そういう事を言ったことがないんだよね。俺たち、昇級のタイミングが一緒だったから、同じ隊に配属だった時期も長くって。今日のアイツ、様子が変じゃなかった?」 


 海星くんのことを心底心配している様子の

樹くん。

 私はその言葉に、なんて返せば良いのか分からなかった。


 海星くんは明らかに様子がおかしかった。 

 しかも、私たちは海星くんのことを仲間だと思っていても、海星くんはそうではなかった。


 米谷さんと組んで、コソコソと何かをしている。

 あの二人はあの二人で、この星を守ろうとしているんだと言うことは分かるけど、海星くんの言葉⋯⋯防衛隊内に誰か敵がいるって意味に聞こえた。


 陽太さんにクリスタルフロッグの事を報告すれば、その人の耳にも入ってしまうって。

  

 それは、陽太さん本人? それとも六連星の誰か?

 そんなの信じたくないし、樹くんだって容疑者になっちゃう。

 そもそも、私とは全く接点のない人とか?


「途中、インカムの通信が悪かったでしょ? 大丈夫だったの? 殿宮県民の秘密の場所ってどんなところ?」 

 

 上手く反応を返せずにいると、さらなる追及が来る。

   

「えっと⋯⋯田作町三丁目の田んぼの周りとか。城から程なくしたところに田畑があるのは、珍しいっちゃ、珍しいのかも⋯⋯?」


 私の返答に、樹くんは納得いってなさそうな表情をする。

 少しがっかりしたような、悲しそうな目⋯⋯

 罪悪感は湧くけど、ウソは言ってない。

 

 樹くんは私から何かを聞き出そうとするのは諦めたのか、静かに部屋を出ていった。



 

 それから数日後。

 クリスタルフロッグたちが、続々と孵化したとのことで、エサをあげるために、海星くんとともに米谷さんの家に招かれた。


「うわぁ⋯⋯さすがに、これは気持ち悪いですね」


 水槽内にうごめく、身体が透き通ったオタマジャクシたち。

 ビチビチと音を立てながら、水槽内を泳ぎ回っている。

 これ、全部がカエルになったら、定員オーバーなのでは?


「それで、この子たちのエサやりと言うのは⋯⋯」


「最近、ディア能力が以前にも増して高まっている様子の、小春ちゃんの涙、もしくは汗!」


「ええ! 私の涙か汗!? クリスタルフロッグのオタマジャクシのエサが!?」


 産み落とされて以降は、ディア能力者頼みのこの生物。

 絶滅しなかったのは奇跡とも言える。


「涙と汗、どっちがいい!? 感動映画三部作? お笑い特番? サウナマシンもあるよ!」


 いやいや。汗は絶対にイヤだし、悲しいとか辛いとかの感情が揺さぶられるのもしんどそう。


「お笑い番組でお願いします!」


 米谷邸にはテレビがないので、ノートパソコンをお借りして、毎年クリスマス前後に行われるお笑いトーナメントを視聴する。


「ははっ! こんな店員さんが居たら無理! 面白すぎてお腹よじれる!」


 人気お笑いコンビのネタが始まると、三分間、笑いっぱなしで、目尻に涙が溜まってくる。


「⋯⋯⋯⋯ふふっ」


 隣で一緒に動画を観ている海星くんは、静かな声で笑っている。

 こうしていると、いつもの癒し系の可愛らしい海星くんなのに。


「ほらほら! 二人して楽しんでないで、仕事してよ! 仕事を!」

 

 米谷さんが急かすので、二人して姿勢を正す。


 海星くんはコクリと頷いたあと、私の目尻の涙を拭った。

 すると、海星くんの指が輝き出して、しずく型の水晶が現れる。


「クリスマスの夜のマジックと同じだ。これって何が起きてるの?」


 海星くんはしずく型の水晶を再び私の手のひらの上に乗せてくれた。


「⋯⋯⋯⋯デザライト」


「え? これが? デザライトって化石じゃないの? 今、ものの数秒で現れたように見えたけど」


 海星くんはコクンと頷いたあと、デザライトを米谷さんに手渡した。

 それを受け取った米谷さんが、水槽の中にチャポンと入れると、オタマジャクシたちが一斉に群がり、やがて跡形もなく消え去ってしまった。

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