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78.誕生日の翌日

 樹くんの誕生日の翌日。

 この日の夜は、当日できなかった分のお祝いを執り行った。


 樹くんが食べたいと言ってくれていたクリームパスタと小さめのお誕生日ケーキを作り、おもてなしする。


「クリームパスタ、今日のは固くないはず。あと、ケーキはカステラを使って、一部簡略化していますが、味は保証します⋯⋯」


 料理の神に手料理を振る舞うなんて、どれほど恐れ多いか。

 けど、樹くんは、目を輝かせながらテーブルについた。


「小春ちゃんが作ってくれたんだ。どうしよう。すごく嬉しい」


 1と8のろうそくを吹き消し、いただきますと手を合わせる。

 一口また一口と、料理を口に運んでいく。


「オーマイゴッド⋯⋯いかがでしょうか⋯⋯?」


 祈るような気持ちで目を閉じる。


 そもそも、ホイップクリームのケーキとクリームパスタを両方作るなんて、組み合わせが良くなかったのでは?

 やらかしに気づいたところで時すでに遅し⋯⋯


「めちゃくちゃ美味しい。今まで食べた何よりも美味しい」


 樹くんは、無邪気に笑いながら最高の褒め言葉をくれた。

 どうしよう。あの緑川樹が甘い⋯⋯


「これは夢⋯⋯? 幻覚? 妄想?」


「何いってんの。現実の話」

 

 優しく微笑まれると、自分がこの人の宝物になったような気分になれる。

 心臓がギュンギュンして壊れそうになるけど、まだ大事なミッションが残っているんだ。


「こちら、お誕生日プレゼントです。どうぞ、お納めください」


 プレゼントに選んだのは、レザーのお財布だ。

 一見ブラックに見えるけど、よく見たらダークグリーンというのが気に入った。


 このお方は既に、服も小物も良いものをお持ちだけど、お財布はそろそろ買い替え時っぽかったから。


 樹くんは丁寧にプレゼントボックスを開封する。


「かっこいい。ありがとう。俺の色を選んでくれたんだ」


 少し浮かれた様子で、財布の中身を移し替えていく。

 やった。早速使ってくれるんだ。

 

「大事にする」


 樹くんは腕を私の肩に回して、ほっぺにちゅっとキスをした。


「うん。ありがとう」


 甘い雰囲気になり始めたその時、樹くんのスマホが鳴った。

 

「百合花さんだ」


 樹くんは今は電話に出ないことにしたのか、テーブルの上にスマホを伏せる。

 いつの間にか連絡先を交換したんだ。

 

「⋯⋯⋯⋯出ないの? 仕事のお話だろうし」 


「昨日の今日で、急ぎの話なんかないでしょ。今、出なくても、留守電かメッセージをくれると思う。それよりも、教習所のスケジュールがキツキツすぎて、しばらくこうして会えないかもしれないから、今は小春ちゃん優先」 

 

 樹くんはボディバッグから、一枚のA4用紙を取り出した。

 

『〜緑川樹さんの免許取得までの道のり〜』

 と題された紙には、学科教習と技能教習の予定がびっしりと記載されている。


「うわ⋯⋯大変そう⋯⋯試験を受けて、仮免許を取れたら、今度は路上を走って、また試験⋯⋯」

 

 たしか、駐車場に車を止める時に、後ろを振り返る仕草がかっこいいんだよね。

 見たい。早く見たい⋯⋯


 けど、免許取得に加えて、コラボ商品の開発、学業と通常任務を全てこなすなんて、身体を壊さないと良いけど。

 忙しい樹くんを全力でサポートすることを心に誓った。

 


 それから一ヶ月ほどが経ち、樹くんとはプライベートでは会えない日が続いていた頃。


 朝のミーティングで、樹くんから、コラボ商品に関する進捗発表があった。


「フローラルブーケとのコラボ商品についてですが、革製のキーホルダーに決まりました。フローラルブーケの活動拠点である長刀県は、革工芸で有名です。一つ一つ、職人さんに手作りをしてもらうため、単価は高くなりますが、本体のメンバーカラーを選び、好きな文字とロゴを刻印できるサービスを付けるので、特別感が生まれると思われます」


 正面のモニターには、工房の情報や、価格情報などが映し出される。


「じゃあ、それって、オーダーメイドってこと!? 欲しい! 私も注文する!」


 次に樹くんが見せてくれたのは、防衛隊のデザイン課が考えた、キーホルダーの形状やロゴ、文体のイラストなどなど。


 ロゴの種類は、六連星のマークと、フローラルブーケのマークの他に、メンバーをイメージしたアイコンも選べるとのこと。

 私の場合は桜の花だ。


 本体のカラーも、私たち六人とフローラルブーケの六人のそれぞれ十二色で展開される。

 私の色は濃いめのピンク。

 あと、光輝くんも向日葵ちゃんも同じイエロー担当だけど、光輝くんはレモンのような『ブリリアントイエロー』、向日葵ちゃんは、少しオレンジがかった『サンフラワーイエロー』と色味が違う。

 

「樹の新しい革財布がイケてるからって、このアイディアにたどりついたんやんなぁ〜?」


 光輝くんは、樹くんの後ろに回り込み肩を揉む。

 

「そうなんです。その財布も長刀県の工房で作られていたので、今回はその工房も含めて複数の職人さんに依頼することになりました」


 樹くんは冷静に回答したあと、仕返しとばかりに光輝くんの肩を揉み返す。

 最近、あの二人、仲良いな⋯⋯

  

 私があげたお財布が、アイディアに繋がったとは光栄な事だ。

 樹くんのお仕事の手助けになれたことに、喜びを感じた。

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