76.アイドルコラボ
コラボ当日。
戦闘服に着替えた私たちは、応接室へと向かった。
フローラルブーケの皆さん直々に、防衛隊の基地にお越しくださったとのこと。
そもそも、このコラボが今まで実現しなかったのは、私たち六人が同時に長刀県に出向いて、基地を空けるのは、高リスクと判断されたことが原因だ。
そこで、よりコラボを望んでくれている先方が折れる形で、この場がもたれたと⋯⋯
応接室の扉を開けると、そこにはフリフリのアイドル衣装を着た六人がいた。
胸元や肩には大きなリボン。
前から見るとミニスカートだけど、後ろの丈はくるぶしくらいまで長い。
レッドの椿ちゃん、ブルーの葵ちゃん、ブラックのダリアちゃん、イエローの向日葵ちゃん、グリーンの蕾ちゃん。
そして、センターでホワイトの『ゆりにゃん』こと、百合花ちゃんだ。
元々は八人グループだったらしいけど、ピンクとオレンジが脱退して、今はこのメンバーで活動していると資料には書いてあった。
「みなさん、こんにちは〜! フローラルブーケですっ! 日々の任務、お疲れ様です〜! お会いできて嬉しいですっ!」
六人は頭の上でウサギの耳を作るみたいにして、手のひらをひらひらさせる。
これは、フローラルブーケのキメポーズで、自身のお顔が花の中心、手のひらが花びらを表しているのだそう。
美しく可憐なお顔をお持ちのアイドルだからこそ、可愛く決まる。
万が一、私がこんなポーズをしたら、空手仲間たちに、化けウサギ型エイリアンと笑われるのがオチだ。
「はぁ〜かわいい⋯⋯」
思わず感嘆の声が漏れると、六人は私の方を見て、にこっと笑ってくれる。
その凄まじい破壊力に、骨抜きにされそうになる。
「わざわざ、お越し頂きありがとうございます。本日はよろしくお願いします」
私たちを代表して、陽太さんが一歩前に出ると、フローラルブーケの六人は、キャピキャピと嬉しそうに飛び跳ねた。
これには硬派な陽太さんも参ったなぁと頭をかく。
それからはソファに着席して、リーダーの陽太さんと、盛り上げ上手な光輝くんが司会となって、対談が進んで行った。
「私、こはにゃんとお友だちになりたいなって、ずっと思ってたんです〜!」
会話が盛り上がって来たところで、ホワイトのゆりにゃんがそんな事を言った。
まさか、こはにゃんって私のこと?
ゆりにゃんは、私と樹くんの間に割って入るように座り、抱きついてくる。
ゆりにゃんが足を組むと、短いスカートがひらりとめくれて、なんとも際どい。
「私、六連星チャンネルを毎週欠かさずチェックしてて、こはにゃんは女の子とは思えないくらい、強くて、たくましくて、男友達みたいなノリで楽しくて⋯⋯⋯⋯これから仲良くしてくれる〜?」
ゆりにゃんは上目遣いで私を見つめてくる。
「はい! もちろん! 喜んで!」
ゆりにゃんにお友達になろうと言われたことで、最高の気分で対談を終えた。
その後は、全員で写真撮影をし、今日の仕事はおしまい――――のはずだったんだけど。
夜。
急遽、親睦会をすることになって、電車で数駅のところにある、高級料亭の個室に集結することとなった。
「今夜、私たちはこの近くのホテルに宿泊するんですけど、明日には帰らないといけなくって〜せっかくなので、親交を深めましょう?」
ゆりにゃんは座布団の上にお姉さん座りしながら、上目遣いで私たち六人を順番に見つめる。
「そうですね。これから商品開発にも、力を入れないといけませんし」
陽太さんは少し困ったような顔をしながら、指定された席に座る。
「こはにゃん! こはにゃんはこっち!」
ゆりにゃんに呼ばれて、奥側の端っこの空席に座る。
「かんぱ〜い!」
ゆりにゃんは梅酒の入ったグラスを持ち上げた。
このお方は冬夜さんと同学年で二十歳だから、お酒も飲めると。
こちらサイドは冬夜さん以外は二十歳未満だからと、ソフトドリンクを飲んでいる。
「ねぇねぇ、こはにゃん。こはにゃんは『キラスタ』やってる? お友だちになろうよ!」
ゆりにゃんは、スマホを手に持ちながら、甘えるようにしなだれかかってきた。
キラスタと言うのは、若者に流行中のSNSの事で、撮影した写真や動画を加工して載せて、友達同士でコメントを残したり、リアクションボタンを押したりと交流を楽しむものだ。
「キラスタのアカウントは作ったんですけど、読む専門で、私は一度も発信したことがないんですよね」
広報部が主体となって運営している六連星の公式アカウントがあるから、その更新をチェックしたりする程度だ。
「うんうん、全然問題ないよ! じゃあ、今度から、私の更新もチェックしてみて!」
こうして私はゆりにゃんのキラスタの読者となった。




