75.二度目の春
季節が過ぎて、冬が終わった。
私が防衛隊に入隊してから迎える二度目の春。
光輝くんは高校を卒業し、大学生になった。
将来の夢を叶えるために、福祉の事を学ぶのだそう。
私と樹くん、海星くんは、高校三年生になり、今は始業式が終わって、三人で並んで歩き、基地に帰っているところだ。
「今年も二人と同じクラスで良かった〜! 実はクラスが離れちゃったらどうしようって不安だったんだよね〜」
たぶん離されないと思うという噂は耳にしていたものの、いざ違ったらどうしようかと心配で⋯⋯
「防衛隊の任務で欠席になった時に、クラスがバラバラだと、教師側が大変だからって聞いた。クラスの連絡事項とか、補講とか」
「なるほど。だから同じ隊だと、同じクラスになるってことか⋯⋯」
二年生のクラスは最初は色々あったけど、なんだかんだで、今は面と向かって何かをしかけて来られることもなくなった。
新しいクラスも平和だと良いけど。
それぞれ寮の部屋に帰宅し、夜は樹くんが部屋に来てくれた。
サブスクサービスで映画を観ることになり、どの作品にするかをあみだくじで決めた。
テレビの前に並んで座り、鑑賞する。
『Oh〜! Yes!』
金髪の女優さんがお色気ムンムンに叫ぶ。
幽霊が出てくるホラー映画のはずが、何故か濃厚なラブシーンから始まる。
「画面が肌色過ぎて、めちゃくちゃ気まずいね。どうしてホラー映画なのに、こんなシーンが⋯⋯あ⋯⋯ダメだ。この二人、消される⋯⋯」
あまりの気まずさに黙っていられず、思った言葉をそのまま口に出す。
「生を印象づけることによって、死を強く意識させる効果があるって聞いたことある。まぁ、俺が幽霊だったら他を当たるけど」
「誰でも良いから呪いたい〜! って感じだったら、わざわざイチャついてる人は狙わないよね。このカップルに恨みがあるのか、なんなのか⋯⋯」
そんな私たちの感想にはお構いなく、幽霊は二人に近づいていく。
「あれ? 幽霊さん、隣を通過しただけで、何もせずに行っちゃったよ?」
そのまま事の成り行きを見守っていると、翌朝のシーンになった。
彼女が目を覚まし、隣に寝ている彼の寝顔を見ると⋯⋯
「ギャー! ミイラになってるー! 呪いだよ、樹くん! ふわぁ〜って横切っただけで、この殺傷能力だよ!」
隣りにいる樹くんの身体をグラグラと揺らす。
「そうだね。小春ちゃんと見てると、コメディーになるね」
樹くんは少し呆れたような顔で笑う。
こういう時って、かわいい女の子なら、『キャー! 樹くん、こわぁ〜い!』
とか言って、抱きつくのがお約束なのかな。
それで、『小春ったら、怖がりさんだな。俺が側にいるから大丈夫だ』
的な会話になるのでは⋯⋯
「キャー。樹くん。こわぁーい」
ほぼ棒読みだけど、そのお約束に従って、腕に抱きついてみる。
「はいはい」
樹くんは笑いながら頭を撫でてくれた。
そんなこんなで、順調に?仲を深めている私たちは、この度、一大イベントを迎えようとしていた。
それは、再来週の樹くんのお誕生日。
彼の予定は押さえてあるし、プランとしては、私の部屋でごちそうを作って振る舞い、プレゼントを渡す⋯⋯
今年で十八歳の成人を迎えるのだから、盛大に祝いたいところ。
しかし、その計画は変更を余儀なくされることになった。
翌日、作戦会議室にて、朝の定例ミーティングを行っていたところ、陽太さんから業務連絡があった。
「急な話で申し訳ないが、明後日、メディアの仕事が入った。以前からコラボレーションの打診があった、アイドルグループ『フローラルブーケ』との対談。および、商品開発の話だ」
アイドルグループ、フローラルブーケと言えば、十代後半から二十代前半の女の子の六人組。
殿宮県のお隣の長刀県近辺で活動していて、私たちとの共通点があるとすれば、彼女たちのキャラに応じたメンバーカラーが設定されているということだ。
「すごい! 人気アイドルとコラボできるなんて! しかも、商品開発ですか!?」
アイドルとのコラボ商品ってどんなだろう?
食べ物? Tシャツやタオル? それとも⋯⋯
「なんだ、光輝。やけに静かだな」
冬夜さんは腕組みしながら、光輝くんの方を見る。
「あー⋯⋯やったー! 楽しみー!」
光輝くんはワンテンポ遅れて、チャラ男モードになった。
「どうした、光輝。らしくないじゃないか。どこか調子が悪いのか?」
陽太さんは心配そうに、光輝くんの方に近づいていく。
「いやいや、俺はいつも通りやし! そうと決まれば、おめかしせんと!」
光輝くんは、裏ピースをしてキメ顔をする。
「⋯⋯⋯⋯光輝くんの時計は⋯⋯⋯⋯あの日で止まったまま」
海星くんは、なにやらポエミーな事を言う。
楽しみにしていたアイドルコラボ。
これが、予期せぬ方向へ向かい、私を苦しめることになる。




