表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第三章:俺と恋しよう?(第14代目六連星始動)
55/112

55.元カノ⋯⋯?

 ある日の昼休みのこと。

 前の席に座っていた樹くんが、こちらを振り返り話しかけてきた。


「小春ちゃん、なんか最近、雰囲気変わった? 髪⋯⋯とか」


 樹くんは、不審者を見るような目で尋ねてくる。

 さすが、スキャンダル警察は鼻が利く。

 しかし、私と光輝くんの関係は健全そのもので、何もやましい事はない。

 むしろ、一度はガタ落ちしたディア能力が、二人とも回復傾向という非の打ち所がない状況だ。


「さすが樹くん。気づいた? 実は光輝くんに、おすすめのトリートメントを教えてもらったの! ほら、光輝くんって真っ金金に染めてるのに、髪の毛傷んでるどころか、ツヤツヤじゃない?」


 光輝くんは、ヘアサロンの専売品を使っているそうで、私もそこでシャンプーとトリートメントを購入することにした。


「ヒーローたるもの、髪はツヤツヤじゃないと! 私、当時22歳の珊瑚お姉さまが、戦闘後に髪の毛を解くシーンがすごく印象に残ってるんだよね。あまりにも変態が湧きすぎて、封印されたのが残念だけど⋯⋯」


「そう。俺だってカラー+パーマだから多少傷んでるけど、黒髪だった頃はツヤツヤだったんだから」


 無神経にも樹くんのコンプレックスを刺激してしまったのか、彼はムキになって言い返してくる。


「え? 樹くんって、もともと黒髪だったの? いつから染め始めたの? その時の写真はある? 見せて!?」


 あまりの食いつきように、彼はドン引きした様子で私の顔を手で覆う。


「もともとこんな色なわけないでしょ? 海星じゃあるまいし。わかったから離れて。ちょっと探してみるから」


 樹くんはスマホをすっすと指で操作し、過去の写真を探してくれる。


 待っている間、手持ち無沙汰で窓の外を見ていると、光輝くんが通りがかった。


「あっ! 光輝くんだ! でも、誰か女の人といる」


 光輝くんはいつものように、男子の先輩たちと一緒に食堂に行くつもりだったみたいだけど、そこに一人の女子の先輩が現れると、男子の先輩たちがさーっと引いて行って、二人きりになる。

 まるで、周りが二人に気を遣っているみたいに。


 その先輩は、色白でモデルさんみたいに細くて背が高い美人さんだ。

 二人は笑顔で話しているけど、特別、仲がいいのかな。

 それに、あの人、どこかで見たことあるような⋯⋯


「あぁ。槇島 一華(まきしま いちか)でしょ。光輝くんがモデルを始めるきっかけになったっていう()()()


 樹くんはどうでも良さそうに小声で答えたあと、スマホの画面を見せてくれた。


「え! これ何歳の時? 中三とかかな? 黒髪でも十分華があるね! 樹くんってやっぱり良いところの子なのかなぁ」


 画面の中の樹くんは、お洒落なマッシュヘアで、品の良さを隠しきれずにいるというか⋯⋯


「そう。それ言われるのがやだから染めてるんだよね。はい。もうおしまい」


 樹くんは、さっとスマホを取り上げてポケットにしまった。 


 樹くんの黒髪バージョンも印象的だけど、それよりも光輝くんのことだ。

 誰とも付き合った事はないって、この前私には言ってたのに。

 槇島一華と言えば、fan・fanにも載っている女子高生モデルだ。

 レザースカートなんかの辛めのファッションを着ている印象の。

 

 別に前に付き合っていた人がいたとか、大きく影響を受けた人がいるとか、そんな事に嫉妬してるんじゃない。

 どうして言ってくれなかったのかな。

 私が嫌がると思ったのかな。


 複雑な心境で窓の外を見つめていると、樹くんの顔が近づいてきた。


「何? 光輝くんと槇島一華が気になるの? 詳しくは俺の口から言うのは嫌だけど、あの二人の関係には首突っ込まない方がいいと思うよ? 二度目の忠告ね」

 

 樹くんはそれだけ言ったあと、振り返るのを止めて前を向いてしまった。

 

 首を突っ込むも何も、今、光輝くんの恋人候補に一番近いのは私なはずだ。

 でも、樹くんの口ぶりでは、まだあの二人には何らかの関係性があると。


 付き合ってはいないけど、大人の関係はある⋯⋯とか?

 それって実質付き合ってるのと同じじゃん⋯⋯みたいな?

 いやいや、でも、付き合うとはひと言も言ってないじゃん⋯⋯みたいな?


 前に樹くんが、光輝くんは私の手には負えないって言ってたのは、このこと?


 このままモヤモヤを抱えるのも良くないので、思い切って本人を直撃することにした。


 訓練終わりの夜、約束を取り付け、光輝くんの部屋を訪ねる。


「突然、すみません。お疲れのところを⋯⋯」


 時刻は夜八時。

 各々、食事とお風呂が終わった頃にということで、この時間にした。

 光輝くんはさっきまでお風呂に入っていたのか、室内にはシトラスのいい香りが漂っている。


「小春ちゃんならいつでも大歓迎! なんなら泊まっていく? 大丈夫、ハグだけやから」


 光輝くんは玄関の鍵を閉めたあと、後ろからぎゅっと抱きしめてくれた。

 

「あのね、光輝くん。単刀直入に聞きますね。槇島一華さんって、光輝くんにとってどんな存在ですか?」


 今の体勢では光輝くんの表情は見えないけど、息を呑んだのがわかった。

  

「小春ちゃん、知ってたんや。一華のこと」

  

 光輝くんは私を抱きしめる腕を解いて、ソファに座った。

 それから座面をポンポンと叩いて、隣に座るように促すので、大人しく従う。


 いつも女の子のことをちゃん付けで呼ぶ光輝くんが、一華さんのことは呼び捨てにするんだ。

 たったそれだけのことだけど、なんだか胸がざわざわする。


「一華は俺がこっちに来た時⋯⋯防衛小の時からの同級生。十一歳からモデルをやってて、俺に最初の仕事を紹介してくれてん」


 樹くんから聞いた話と同じだ。

 やっぱり一華さんが、光輝くんがモデルを始めたきっかけになった人物⋯⋯


「前に、護城市の広報誌のインタビューでも答えたけどさぁ。家は母子家庭であんまり裕福じゃなかってん。小春ちゃんにやから詳しく話すと、原因は飲んだくれで、職を転々としてギャンブル三昧やった暴力親父。肝臓を悪くして、もう亡くなったけど」


 初めて語られた光輝くんの幼少期の話。

 お父さんの話も初耳だった。亡くなっていたんだ。


「母ちゃんは、俺と妹二人を育てるために必死に働いてくれとったけど、アイツのせいでいつも支払いに困ってた。親父から逃げるためにも、資金が必要やのに、アイツが暴れて母ちゃん泣かせて、稼ぎを全部持っていくから、どうしようも出来ずに⋯⋯」


 光輝くんは膝の上で拳をぎゅっと握った。

 いつもひょうきんな光輝くんの、想像以上に重たい過去に驚きを隠せない。

 そんな状況からどうやって抜け出せたんだろう。


「母ちゃんは心も身体もボロボロで、とっくに限界を迎えてた。俺は家族を守りたかったから、母ちゃんと妹二人を連れて、ここに来た。俺の稼ぎで生活が回るようになって、親父も死んでからは、三人は城西に帰したけど」


 そうか、ヒーローに憧れて入隊したと言っていた光輝くんは、家族を守るヒーローだったんだ。


「なんでこんな話になったかと言うと、俺はヒーローとして、家庭環境に苦しんでる子どもたちに勇気を与えたいねん。いずれ、稼いだ資金を国に寄付するか、自分で保護施設をつくるのもいいと思ってる。その目標へ到達する過程に、モデルの活動があったから。一華には感謝してる」


 六連星に選抜されるために、光輝くんはモデルの活動をやっていたんだ。

 戦闘能力に加えて、既に人気や知名度といった実績があるとなれば、抜擢される確率は高くなるだろうし。


「そうでしたか。光輝くんは目の前のエイリアンを倒すだけじゃなくって、その先にも大きな目標を持ってるんですね。尊敬します」


 光輝くんは悲しい過去を語って、気分が落ちているだろうに、口角をにっと上げて笑ってくれる。


「光輝くん、自分ではヘラヘラしてるだけで良いって言ってましたけど、本当はすごく真面目な人ですよね。チャラ男の皮をかぶった真人間。ファッションチャラ男?」 


 見た目の派手さとキャラで軽く思われがちだけど、やっぱりこのお方も選ばれしヒーローなんだと再認識する。

 けど、なぜか光輝くんはちょっと怖い顔をしながら迫ってきた。


「ふわふわのウサギちゃんが狼の前で、しっぽふって無邪気にはしゃいでたら簡単に食べられるで。俺、前に言うたよなぁ?」


 光輝くんは私の頬を両手で包むようにして、上を向かせた。

 逃がさないとでもいうのか、顔を固定され、そのまま唇が重なる。

 私にとっても、二人にとっても初めてのキスだった。


 キスってもっと、軽く唇が触れて終わりかと思ってた。

 なのに、滑らかに何度も角度が変わって触れ合う。

 光輝くんが上、私が下の構図に、確かにこれはソフトクリームみたいに食べられてるかもと思う。


 慣れない感覚に胸の奥がきゅっとなって、頭がふわふわしてくる。


「今日はハグだけって言ったのに⋯⋯」


「ごめんな。怒った? でも、今の小春ちゃん、目がトロンとしてて、かわいい」


 再び唇をふさがれると何も言えなくなる。


 結局、私は樹くんの忠告を無視して、自ら沼にはまっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ