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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第三章:俺と恋しよう?(第14代目六連星始動)
52/112

52.罰と罠


 翌日の数学の授業終わり。

 宿題ノートの回収中に、事件が起こった。


「私は143ページまでって言いました! 小春ちゃんが134と聞き間違えただけだよね!?」


 数学委員の島原さんは、大きな声で私に詰め寄って来た。


 順番にノートを回収して回って来た島原さんに、宿題の範囲を間違えてしまったから、放課後までにやって自分で提出しに行くと申し出たところ、彼女は怒ってしまった。


「どうした。桜坂は宿題をやって来ていないのか」


 数学の先生も騒ぎを聞きつけ、こちらに歩いてくる。


「見てくださいよ、先生! ほら! 私は、クラスのグループチャットで、みんなに宿題の範囲を伝えました! それなのに、桜坂さんは途中までしかやってないって」


 島原さんのスマホには『二年一組連絡用』のグループが表示されている。

 そこには確かに、143ページまでと書かれていた。


「でも私、そのグループに入ってないから。それで、島原さんが口頭で教えてくれたんだよね⋯⋯?」


 グループチャットの文章を見せられたところで、島原さんが言い間違えていない証拠にはならないけど。

 しかも、私は自分からは、ひと言も彼女のせいだと言っていないのに。


 島原さんは腹の虫が治まらないのか、ものすごい剣幕で睨みつけてくる。


「島原さん、先生、ごめんなさい。足りない分は昼休みに終わらせて、自分で提出しますから」


 なんとかこの場を収めたくって、二人に向かって頭を下げる。

 

「仕方ないな。けど、担任の高畑先生には報告しておくぞ」


 先生はさほど怒った様子もなく、教壇に戻っていった。

 島原さんは、その様子を見て仕方なくといった感じで回収作業に戻る。


 思わずため息をついたところで、樹くんがこちらを振り返った。


「ごめんね。グループに入ってないの気がつかなかった。高畑先生しかメンバー追加の権限を持ってないから、あとで確認したほうがいいかも」


 樹くんは申し訳なさそうに、両手を顔の前で合わせる。

 別に樹くんは悪くないのに。


 お昼休みに宿題を提出し、ホームルームの時間。

 予告通り、担任の高畑先生に宿題の提出遅れが伝わっていた。

 

「罰として、桜坂には体育科倉庫の棚掃除を頼む。その方が、どこに何があるか、覚えられるだろう」


 高畑先生は、いいアイデアを思いついたとでも言いたげに、にっこりと笑いながら罰を言い渡したのだった。



「樹くん、どうしよう。今日の夕方は取材だったよね? 私の個人インタビュー、一番目だ」


 今日のインタビューは、六連星チャンネルの日常回――いわゆる事件が何もなかった時に使うストック用だから、あまり先送りには出来ないんだよね。


 今日は私と樹くんと海星くんの番なんだけど⋯⋯


「順番は一番最後にしてもらえるように頼んどく。最悪、陽太さんか冬夜さんに交代してもらおう。そもそも、あの倉庫はバカでかいから、見張りがいないなら、適当に1〜2段拭いて終わりにしな。どう考えたって、放課後一人で綺麗に出来る規模じゃないし」


 樹くんは小声でアドバイスをくれた。


「ありがとう! 神様! 樹様! んじゃあ、さっさと終わらせてくる!」


 掃除用具入れから雑巾を取り出し、体育科倉庫に向かった。


 

 体育科倉庫は、グラウンドの隅にある建物だ。

 重い引き戸をガラガラ開けると、土ぼこりの臭いがする。

 窓はあるけど、位置が高すぎて、脚立でもないと手が届かない。

 電気も一応つくけど、天井からむき出しの古い電球がぶら下がっているだけ。


 棚の上にはユニフォームやボール、ラケット、コートに張るネットなど、様々な道具が収納されている。

 床には、バレーボールやバスケットボールが入ったカゴ、高跳び用のマット、三角コーンなどが置かれている。


 確かに、これを一人で綺麗にするには、一日では終わらなさそうだ。


 棚の上の物を一度床に降ろし、濡らした雑巾を使って拭き上げる。

 うわっ泥だらけだ⋯⋯

 真っ白な雑巾があっと言う間に汚れてしまう。


 なんだかここに来てから掃除してばっかりだよな。


 十五分ほど経った頃。

 秋になったとは言え、締め切った倉庫内は暑い。  

 もう、そろそろ終わりにしよう。

 早くインタビューに行かないと。


 雑巾片手に出口の方に戻る。

 再び重い引き戸を動かそうとするも⋯⋯何故かうんともすんとも言わない。


 どうやら私は、倉庫に閉じ込められてしまったみたいだ。

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