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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第三章:俺と恋しよう?(第14代目六連星始動)
47/112

47.転校生

 九月。

 二学期を迎えた今日、私は防衛高校に編入することになった。

 スカイブルーのブラウスに、グレーのスカート。

 青いチェックのリボンを着けて、寮の部屋を出る。

 制服が、制服が、めちゃんこかわいい⋯⋯


 基地の学校側の出口である通用口を出ると、樹くんと海星くんがいた。


「今日からよろしくお願いします!」


 この度、クラスメイトとなる二人に頭を下げる。


 転校初日で色々勝手が分からず不安だからだろうと、今日は一緒に登校してくれるとのことだ。


「よろしく。分かんない事があったら、なんでも聞いて」


「⋯⋯⋯⋯わくわく」


 二人がいてくれて、どれだけ頼もしいことか。


 防衛高校の敷地の隣には、防衛小学校、防衛中学校が併設されていて、高校の生徒の多くは小学校からエスカレーターで進学してきているとのこと。

 

 つまり、心配するべきは、アウェー感のはず。

 だったんだけど⋯⋯



「桜坂小春です! 護城高校から来ました。よろしくお願いします!」


 始業式のあと、ホームルームが始まる前に時間を取ってもらい、新しいクラスメイトのみんなの前で挨拶をする。


 ざっとクラスを見渡すと、樹くんや海星くんはもちろんのこと、大田原隊の明里ちゃん、隼司くん、湊くんなど、見知ったメンバーも多い。


 ここに通う生徒の多くは防衛隊の隊員で、それはレンジャー本部だけでなく、管理本部で働く子たちも含まれるとのこと。

 あとは、近隣に住む一般の生徒も多数在籍しているらしい。


「みんな、これからよろしくな! じゃあ、桜坂は出席番号が一番最後になるから、緑川の後ろで」


 担任の高畑先生は、私の席を指さした。


 ちなみに、白と青のジャージの上下を来ているこのお方は、体育教師とのこと。


 樹くんの席は⋯⋯教室の奥の窓際の列の一番後ろだ。

 指示された通りにその席に座ると、樹くんが振り返ってくる。


「やった! 樹くんの後ろだ! 色々とお世話になります! あと、快適なポジション奪っちゃってごめんね」


 窓際の後ろ側なんて、最高に気を使わない憩いの場所だったはず。


「それは別に良いんだけど。前後なら何かとフォローも出来ると思うから」


 樹くんはそう言って、前を向いた。


 樹くんが、目の前に座っているなんて。

 慣れないシチュエーションに、ほんの少しドキドキする。

 

 髪の毛、茶色いな。

 ふわふわしてて、柔らかそう。

 襟足の髪が少しくるんとしてる。

 そろそろ切り時?


 彼に迷惑をかけないよう、私も早く、一人前の防衛高校生にならないと。


 気合十分にスタートを切った。



 そして迎えたお昼休み。


「小春ちゃ〜ん! 同じクラスになれて良かった〜!」


 話しかけに来てくれたのは、マンティス型エイリアン討伐作戦で共闘した、石巻 明里(いしまき あかり)ちゃんだ。

 黒髪のロングヘアを低めの位置で、二つくくりにしている。


「明里ちゃん! やったよ〜! これからもよろしくね!」


 両手の手のひらを合わせて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「こちら、坂元 保奈美(さかもと ほなみ)ちゃん。中学の時からの親友で、大窪隊の所属なの」


 明里ちゃんが紹介してくれた保奈美ちゃんは、黒髪ボブヘアのメガネの似合う可愛らしい女の子だ。

 大窪隊と言えば、大田原隊と並ぶ規模の中級部隊だ。


「小春ちゃん、よろしくね」

 

 保奈美ちゃんは顔の横でお上品に手を振る。


 挨拶と簡単な自己紹介が済んだところで、お昼ご飯を食べることに。


「お弁当持ってきた? 食堂行かない? 樹くんと海星くんも!」


 明里ちゃんは私に気を遣ってか、樹くんと海星くんの事も誘ってくれた。


「⋯⋯⋯⋯いく」


「俺は弁当だけど」


 樹くんは保冷バッグを手に持って、食堂に向かった。


 学生食堂に着くと、そこにはおしゃれなカフェのような空間が広がっていた。

 真っ白な天井、おしゃれな照明に、ナチュラルカラーのテーブルとイス。

 人気カフェのように、料理もお高いのかしらと思ったら⋯⋯


「きつねうどんが250円! 日替わり定食380円!? 安すぎる⋯⋯」

 

 既に食事中の学生を盗み見ても、かなりの量が入っているようにお見受けする。

 破格の値段で、育ち盛りの高校生のお腹を満たせるとは⋯⋯


 みんなで日替わり定食を注文して、六人がけのテーブルにつく。

 今日の定食はチキン南蛮だ。


「樹くんは? 樹くんのお弁当の中身はなに?」


 タッパーの中身は⋯⋯冷やし中華!


 錦糸卵に、ハム、キュウリ、ミニトマトが乗った彩りの良さ。

 酸味がありそうなゴマだれの香りが、夏バテの時期にも食欲をそそる。


「樹くんってすごいね。自作のお弁当ってだけでも大変なのに、朝から冷やし中華を作ってくるなんて」


 よっぽどうらめしそうに見ていたのか、樹くんは私の顔の前にタッパーを持ち上げた。


「このトマト、おいしいよ? 食べてみる?」


 樹くんおすすめのミニトマトは、赤くてツヤツヤで栄養もありそう。

 例えそうだとしても、抵抗感がある。


「私、原形トマトはノーサンキューというか⋯⋯ケチャップは好きなんだけどね」


 皮は張りがあるのに中身はグニュグニュな食感とか、ちょっと水っぽい味とかが、あんまり好みじゃないんだよね。


「え? 小春ちゃん、トマト食べられないの? 子どもたちの憧れのヒーローなのに? 美容にも興味あるのに?」


「いや、だって、トマトはちょっと別格というか⋯⋯」


「俺がベランダで育ててるやつだから、甘くておいしいよ?」


 ベランダで野菜を育てている男子高校生とかいるんだ。

 一生懸命水やりをしたり、実ったトマトを収穫したりといった姿を想像するだけで、可愛く思える。

 樹くんが育てたミニトマト、食べてみたいな。


 でも、今までもお母さんや友だちに、『このトマトはフルーツみたいに甘いよ』と言われたけど、実際はそんな事なかったという経験が蓄積されている。


「うーん⋯⋯」


「ほら」


 樹くんはお箸でミニトマトを掴んで、顔に近づけて来た。


「うっ⋯⋯じゃあ、いただきます⋯⋯」


 覚悟を決めて口を開けると、トマトが口に転がり込んできた。

 思い切ってプチッと噛むと、甘味が広がってくる。


「んー何故だろう。甘い⋯⋯」

 

「当然でしょ」


 樹くんは、私がミニトマトを飲み込むのを見届けたあと、冷やし中華を食べ始めた。


「え! もしかして、小春ちゃんと樹くんって付き合ってるの!?」


 明里ちゃんは両手で口を覆って、驚いたように言う。


「いやいや、全然そんなんじゃないよ! なんだろう。保護者って感じかな!」


「この子、ほっといたら野菜全然食べないから。ほら、俺って教育係じゃん? だから面倒見てるってだけ」


 私も樹くんも、即座に否定した。



 そんなこんなで食事を楽しんでいると、食堂の入り口がザワザワし始めた。


 そのまま注視していると、騒ぎの中心人物が入って来た。

 私たちの一学年上、高校三年生の光輝くんだ。


 仲の良さそうな男子の先輩たちと、楽しそうに談笑しながら食堂に入ってくる。


 その様子を見た女子たちが黄色い歓声を上げている。

 さすが、恋人にしたい男ナンバーワンに選ばれた男。

 当然、この高校の生徒の一部も光輝くんに投票したはずだもんね。


 光輝くんは料理を注文する前に席を確保することにしたのか、キョロキョロと辺りを見回している。


 顔がこちらを向いたタイミングで、身体を揺らしてアピールしてみると、彼は私たちに気づいてくれた。


「小春ちゃ〜ん! 今日から編入やね! どう? 防衛高校は?」


 光輝くんは、にこにこしながら、私と樹くんの肩に肘を置く。


「最初は少し不安だったんですけど、みんなが良くしてくれるので、楽しい高校生活が送れそうです!」


「そう。それなら良かった。分からん事があったら、なんでも聞いて〜。勉強は微妙やけど、手の抜き方なら教えられるかも〜!」


 光輝くんはいたずらっ子みたいに笑いながら言う。


「もう、光輝くんたら〜!」


 ツッコミを入れると、彼はテヘッと舌を出したあと、そそくさと仲間の元へ帰っていった。


 楽しい学校生活、順調な滑り出しだと安心していた。

 けれども私は、またしても目立ち過ぎたみたいだった。

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