46.恋人にしたいランキング
ある日、作戦会議室に出勤すると、テーブルの周囲にみんなが集まっていて、何やら騒いでいた。
ちらりとその輪の中心を覗くと、そこには二種類のファッション誌が置いてある。
「あ! 『fan・fan』と『MEN'S fan・fan』だ! 何事ですか?」
背伸びしながら話しかけると、輪に入れてもらえた。
「実は、毎年恒例の恋人にしたい有名人ランキングが発表されたんだ」
陽太さんは少し照れくさそうに頭をかいている。
恋人にしたいランキングか⋯⋯
投票者であるfan・fanの読者の層は、女子高生が中心のはず。
その反応から察するに、おそらく陽太さんは良い線をいっていたのだろう。
このお方は、国民的ヒーローのリーダーを任される男。
それでいて、スタイルや顔立ち、キャラクターにも申し分ないのだから、恋に落ちる女子が続出してもおかしくない。
「妥当なところに落ち着いたな」
冬夜さんは冷静にコメントする。
このお方もクール系イケメンで、モデル並みの高身長だから、女性受けも間違いなし。
ここが五人の中でのナンバー1、2ということか⋯⋯
「――――小春ちゃんは?」
光輝くんはニマニマしながら、私の顔を覗き込んでくる。
「陽太さんと冬夜さんですかね」
正直に予想を答えたところ、場の空気が一変した。
「⋯⋯⋯⋯小春、すまない。三歳下は、俺の中では恋愛対象というよりも、保護対象の側面が強い。もし、小春が二十歳になった時に気持ちが変わっていなければ⋯⋯⋯⋯その時、再考しよう」
「⋯⋯⋯⋯小春くんの気持ちはありがたいが、秋人くんのお姉さんと、どうこうというのは、彼に申し訳が立たない。もし、秋人くんが応援してくれるというのなら、僕もキミの気持ちに真摯に応えたいと思っている」
冬夜さんと陽太さんは、いったいなんの話をしているのか。
「まさかの二股?」
「⋯⋯⋯⋯ダメ絶対」
何故か、樹くんと海星くんも私を責めるような空気に⋯⋯
「え? 陽太さんと冬夜さんが一位、二位じゃないんですか?」
「俺は、小春ちゃんやったら、五人の中で誰を恋人にしたいかって、聞いたんやけど〜?」
光輝くんは、話がすれ違っていることに気づいてくれたみたいで、面白そうに笑っている。
誤解が解けたところで、本誌をチェックする。
恋人ランキングは、18ページからか。
該当のページをめくった途端、目に飛び込んで来たのは、上半身裸でベッドにうつ伏せになり、上目遣いでカメラを見つめる黄田光輝。
しょっぱなからインパクトがすごい。
「えーー!! 光輝くんが一位!? すごい! さすがモデル! 女の子の海を彷徨う男!」
ただのチャラ男ではなく、世間も認める実力派だったと⋯⋯
隣のページには、スーツスタイルでカメラを見下すように睨みつける緑川樹。
だめだ。
まだ推し疲れが完治していないからか、あまりの破壊力に動悸がする。
「俳優陣やアイドル、スポーツ選手を抑えての、まさかのワン・ツーフィニッシュ! 強い! 強すぎる!」
三位〜七位は、今をときめく人気俳優とアイドル。
八位にメジャーリーグに行った、プロ野球選手。
そして、九位には唇に人さし指を当てて、秘密のポーズをする青山海星。
そして十位は、先代六連星の烏丸朔太郎だ。
「ぐはぁ! 十人中、四人が防衛隊ってどうなってるんですか!? 感無量です⋯⋯」
天にも昇るような気分だけど、ふと我に帰る。
陽太さんのはにかみの理由とは、いったい⋯⋯
陽太さんの顔をじーっと観察していると、再び彼は照れたように笑った。
「実は、僕と冬夜くんは、こちらのランキングで選ばれたんだ⋯⋯」
それは、MEN'S fan・fanに掲載された、『男が選ぶ男前ランキング』
一位が四十代のベテラン俳優で、二位が先代のレッドの紅野炎悟、五位が赤木陽太で、七位が黒瀬冬夜だ。
「なるほど。男性が選ぶ男性というのもまた、価値がありそうですね。みなさんのハイスペック具合を再認識しました⋯⋯」
そっと目を閉じて感激にひたる。
「恋人にしたい〜の方は、もともとメディア露出もあった光輝くんはともかく、俺の場合は実力と言うよりも、三位の俳優が投票期間中に熱愛報道が出たから、繰り上がっただけでしょ。人気なんてちょっとしたきっかけで、簡単にひっくり返るんだから」
樹くんは現状に甘んじることなく、厳しい姿勢を見せる。
「とは言え、僕たちが無事にランク入り出来たということは、国民の注目と期待を集められているということだ。僕たち自身と広報部の努力のたまものだ。このまま引き続き盛り上がって行こう!」
「おーー!!」
陽太さんのかけ声に、みんなの士気も高まったのであった。




