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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第三章:俺と恋しよう?(第14代目六連星始動)
45/112

45.恋の病?

 公園の砂場を探索しても、めぼしい情報は得られず、念の為、研究部の人も砂のサンプルを採取しに来て、調べたそうだけど、何も見つからなかったとのこと。


 それから一ヶ月ちょっとが経ち、八月も終わりかけという頃。

 私は病気を患っていた。



 朝、六連星の作戦会議室に出勤すると、樹くんがソファで機関誌を読んでいた。


「小春ちゃん、おはよ」


 樹くんは、いつものように優しい笑顔を向けてくれる。

 それは、かつて六連星発足記念の機関誌に掲載されていた、あのまぶしい笑顔に日々近づいて来ているような気がして⋯⋯

 あぁ、やばい。胸痛が⋯⋯


 さっと片手を挙げて挨拶したあと、逃げるように更衣室に入る。


 なんだかよく分からないけど、深刻な症状である事は確かだ。


 

 更衣を済ませて再び休憩室に戻ると、樹くんと入れ替わるように海星くんが座っていた。


「あ! 海星くん、おはよう!」


「⋯⋯⋯⋯おはよう」


 海星くんと話していても、特に胸痛は起こらない。

 むしろ、彼が醸し出す穏やかな雰囲気にほっこりとするくらいだ。


「⋯⋯⋯⋯体調悪いの?」


 私が胸を押さえながら、首をかしげていたせいか、海星くんは心配そうな表情になる。


「あのさ、実はちょっと困った事があって⋯⋯」


 深刻なトーンで語りだすと、海星くんも真剣な表情になり、コクンとうなづく。


「実はね。最近、とある人物の顔を見ると、胸がぎゅうぎゅう締め付けられて痛くなるんだよね⋯⋯」


 樹くんのことだと断言してしまうと、彼が悪いみたいになるから、その辺りはぼかしてみる。


「⋯⋯⋯⋯痛い以外の症状は?」


 海星くんは聞き取りをして、一緒に考えてくれるみたい。


「そうだなぁ。心拍数が上がって、あと熱も出るかも。で、なんか落ち着かなくって、全身の神経がじんじんする気もして⋯⋯」


 抽象的な話に、海星くんは首をひねっている。


「⋯⋯⋯⋯救護部の診療所」


 海星くんは立ち上がって、座ったままの私の腕を引いて、立ち上がらせようとする。


「え? やっぱり病院に行った方がいい感じ? そっか、じゃあ、今から行ってくる! みんなにも伝えといて!」


 海星くんはコクンとうなづいてくれた。


 

 救護部にたどり着くと、中は小綺麗なクリニックになっていた。

 正面に受付があって、その近くには待合室、奥にはいくつか扉が並んでいて、診察室や処置室と書かれている。


「あの⋯⋯すみません。見て頂きたい症状があるんですけど⋯⋯」


 受付の女性に声をかけると、女性は血相を変えて、奥の扉に消えていった。

 ⋯⋯⋯⋯なんだろう?


 そのまま待ちぼうけを食らっていると、奥から白衣を着た中年男性が出てきた。

 首には聴診器をかけている。


「さぁさぁ、こちらでお話を伺いますから!」


 白衣の男性は診察室に案内してくれた。

 受付とか、問診票の記入とかは要らないのかな。


 白衣の男性はパソコンでカルテを開き、キーボードとマウスを操作している。

 その胸元には『救護部 部長 風見』と書かれた名札がぶら下がっている。


「え? 救護部長でいらっしゃるのですか!?」


 救護部長は、医師免許を持った正真正銘のお医者さんだけど、管理や指導などの役割が中心で、診察は別の医師たちがしていると聞いた。

 そんなおえらいさんが、直々に診てくださるなんて。


「六連星の病状なんてものはトップシークレットです。決して口外はしませんから、全て話してください」


 風見部長は、両手を膝の上におき、どっしりと構えた。

 それだけ配慮してもらえるのなら、正直に話さないと。


「実は、とある男性の顔を見たり、その人の事を考えたりすると、胸が締め付けられるように痛むんです」


 海星くんに語ったのと同じように、症状を伝える。


「ほぅ。では、その男性と恋人になりたいと思ったことは?」


 風見部長はいくつか質問をしたあと、そんな事を尋ねた。

 樹くんと恋人になりたいかって?


 まず一番に思い出すのは、『小春ちゃんみたいなタイプは絶対に彼女にしたくない』というセリフ⋯⋯


 その言葉を頭の中で再生した瞬間、ますます胸が痛んで、首まで締め付けられたみたいに苦しくなる。

 

「恋人になりたいとは思いません。けど、息災であって欲しいなとか、力を合わせて一緒に頑張りたいなとか、そういう風には思います」


 風見部長は、うなづきながらカルテにカタカタと文字を打ち込んでいく。

 果たして、診断結果は⋯⋯


「桜坂小春さん。ズバリ、あなたの病名は――――」




 診察が終わり、診療所を出ると、すぐ目の前の廊下に樹くんが立っていた。


「小春ちゃん! 大丈夫!? 海星から、胸が苦しくて診療所に行ったって聞いたから飛んできた。歩いて大丈夫なの? 今は苦しくないの?」


 樹くんは私の両肩に手を置き、心配そうな顔をしている。

 その表情にまた胸が、きゅうっと締め付けられる。

 でも大丈夫。変な病気じゃないって言われたから。

  

「診断結果は、『推し疲れ』だって! だから大丈夫だよ!」


 安心して欲しくって、努めて明るく打ち明ける。


「⋯⋯え? なにそれ。聞いたことない病気なんだけど」


 樹くんは心配そうな表情のまま、首をかしげる。


「推し疲れっていうのはね。ある人を応援したいと思って活動している内に、その人に関する情報が過剰になって、疲れを起こす状態なんだって! つまり、樹くんのことを考えると胸が苦しくなるのは、情報過多ってこと! だから、しばらくは樹くんの新たな情報を遮断するね!」


「⋯⋯はぁ? ⋯⋯はぁ?」


 一緒に作戦会議室に帰る道中、樹くんは顔を真っ赤にしながら、何度もはぁはぁ言っていた。

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