表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第二章:恋のはじまり?(六連星始動準備期間)
38/112

38.彼女の行方

 今代のピンクとブラックが立ち去ったあと、私は自分の席から辺りをキョロキョロと見回していた。


「見てください! あの方は歴代の六連星のヒーローソングを歌い上げた、三木三喜夫氏です! そして隣にいるのが、同じく作曲家の片山剣山氏ですよ!」


 隣にいる光輝くんに、知っている参加者について解説する。


「ほんまに詳しいなぁ。俺も十歳の頃からここにおるのに」


 光輝くんは微笑みながら会場内を見渡す。

 一緒にキョロキョロしていると、今となっては懐かしいお姿を発見した。


「あ! あちらに給食部の部長がいらっしゃいました! ご挨拶しても良いですか?」

 

「いいよ! いこいこ! さぁ、お手をどうぞ!」


 エスコート役の光輝くんは、二つ返事でオーケーしてくれた。

 先にさっと立ち上がって、私の椅子を引き、立ち上がるのを手伝ってくれる。


 開発部の部長に話しかけられている樹くんに、一応アイコンタクトをしておいた。

 調査に行ってくるとのメッセージを込めて。


 樹くんは片手をさっと上げた。

 たぶん伝わったっぽい。



 給食部長とのご挨拶を終え、おえらいさんのおじさんたちを物色し、次々と声をかける。


「小春ちゃ〜ん、期待してるよ!」


 首周りの素肌をベッタリと触ってくるのは、人材育成部の部長だ。

 お酒の臭いを漂わせながら、真っ赤な顔をしている。


 このお方は若い頃、上級部隊の隊長を勤めた実績があり、今のポストにいらっしゃる。

 ねっとりとした空気に、なんだか、あまりいい気分では無いけど、これも人脈作りのため⋯⋯


「宮尾部長ぉ〜! 実は俺、教育の方にも興味があってぇ〜! 任期が終わったら、部長の下で働きたいですぅ〜!」


 光輝くんは私と宮尾部長の間に割って入り、宮尾部長のお身体をペタペタと触る。


「そうか〜光輝が入ってくれれば、新入りたちの良き理解者になれるだろう! 俺はもう、最近の若者が考えることは分からないからなぁ〜!」


 はははと仲良く笑い合う二人。

 もしかして、助けてくれたのかな?


 宮尾部長と光輝くんは、最後まで和やかな雰囲気で話が弾み、私たちはこの後も挨拶に回るからと言ってその場を離れた。


「光輝くん、ありがとうございました。助けてもらっちゃって」


 頭をぺこりと下げると、光輝くんはなんてこと無いように微笑んだ。


「こちら、小春ちゃんのエスコート役なんで! 残念ながら、かつてはヒーローやった漢たちも、セクハラおじさんに育ってしまってるケースがあるんよなぁ〜俺の事も触ってくる辺り、下心はないんやろうけど。宮尾部長は、元々あんなキャラとちゃうかったのに〜」


 光輝くんは目元を腕で覆って泣き真似をした。   


 そうか。

 もしかして、エスコート役に名乗りを上げてくれた理由って⋯⋯


「まさか、こうなることを予見して、エスコート役に立候補してくれたんですか?」


 その問いに対して光輝くんは、無言でニッっと笑った。


「陽太くんや冬夜さんも上手くやってくれるとは思うで? けど、立場上、上のもんとバチバチやるのは避けた方がいいやろ? それに二人とも真面目やから、真っ向から注意みたいになる。その点、俺は適任やと思うで? ヘラヘラしてたら許してもらえるし〜」

 

 やっぱり光輝くんは私を守るために、エスコート役に立候補してくれたんだ。

 他のメンバーの性格や役割を理解した上で。

 それにたぶん、この前会議室で泣いていた時の私の話を聞いて⋯⋯

 

「光輝くんって、プレイボーイのイメージがありましたけど、めちゃくちゃ紳士ですね。本当にありがとうございます」


 最近は特に光輝くんに感謝することばかりだ。

 再び頭をぺこりと下げ、顔を上げた瞬間、何故かすぐ近くに光輝くんの顔があった。


「やっぱり小春ちゃんは隙だらけやなぁ」


 私の目を真っ直ぐ見つめる真剣な瞳。

 見つめ合った途端、何かに絡め取られたみたいに動けなくなる。


「普段ヘラヘラしてる奴が、狙った子の前で時々真面目ぶるんは常套手段やで? よく覚えといてな」


 耳の直ぐ側で話す光輝くん。

 吐息が耳たぶにかかってくすぐったい⋯⋯

 これはいったい、どういう状況?

 走った直後みたいに心臓がばくばくする。


 まずい。たぶんだけど、なんだかとってもまずい。

 パーティーの雰囲気と、目の前の彼が作り出す空気にのまれ、このままだときっと、数多の女子たちと同じようにハートを奪われる⋯⋯! 


「小春ちゃん」


 止めて、そんな優しい声で呼ばないで⋯⋯

 いよいよ二人きりの世界に引きずり込まれそうになったところで、救世主が現れた。


「二人して見つめ合って何してんの」


 声の主は樹くんだった。

 怪訝そうな目で私たち二人を見比べる。

 六連星の活動に賭けている樹くんが、こんな空気を許すはずもなく。

 つまり、スキャンダル警察の職務質問というわけだ。


「いやいや、なんか一瞬、沼に片足はまったっていうか? ブラックホールに吸い込まれかけたっていうか⋯⋯けどセーフです!」


 抽象的すぎる私の返答に、ますます樹くんは怖い顔になる。


「光輝くん、何考えてんの?」


「別に。樹には関係ないやろ?」


「いやいや、こんな場所で堂々とやるんだったら俺にも関係あるから」


「あっそ。じゃあ見えへんところでなら、ええねんな?」


 樹くんは怖い顔で光輝くんにつっかかるも、光輝くんも動じない。



「あ! 見てください二人とも! 飯島本部長ですよ! ご挨拶に行きましょう!」


 空気を変えたかった私は、二人の手を引き飯島本部長の元へ連れて行った。

 これじゃあ誰がエスコート役か、わかりゃしない。


「飯島本部長! お疲れ様です! 先日は私事で、大変ご迷惑をおかけいたしました!」


 飯島本部長とお会いするのは、お母さんを説得するために、家に来て頂いた日以来だ。


「私は何もしていないのと同じだよ。お母さんには弟さんの言葉が何よりも届いたみたいだね」


 飯島本部長は優しい表情で笑ってくださる。



 和やかな雰囲気で四人で談笑していると、知らない男性が飯島本部長に話しかけて来た。


「飯島君、私にも次期六連星たちを紹介してもらえないかね」


 五十代後半位の男性で、彫りが深い顔立ちに、元ラガーマンのような、がっしりした体格が印象的だ。


「朝倉統括、もちろんです。こちら、14代目六連星のイエローの黄田光輝くん、グリーンの緑川樹くん、そして、ピンクの桜坂小春くんです。こちら、国際防衛統括部の朝倉統括部長だ」


 国際防衛統括部と言えば、海外二十か国にある防衛隊基地を取りまとめる最高責任者。

 そんな凄い人までパーティーに参加しているなんて。


「そうか。彼女がディアラボを壊したという逸材か」


 朝倉統括は品定めをするように私をじっと見ている。


「私は十年ほど前まで、レンジャー本部長を務めていたんだが、ディアラボが壊されたのは、その時以来か。相当頑丈に作り直させたはずだがね」


「それはそれは、申し訳ございませんでした⋯⋯」


「この機会に、米谷くんにデータを見せてもらうとしよう。それでは」


 朝倉統括は片手を上げて立ち去ろうとする。 


 けど待って。十年前にレンジャー本部長をされていたのなら、本部長直下の部隊である六連星にいた桃葉さんの事を知っているはず。


「朝倉統括! 一つだけ教えて頂きたい事があります!」


 私の声に朝倉統括はその場で立ち止まった。

 

「10代目六連星の花崎桃葉さんのことを覚えていらっしゃいますか? 今どこで何をされてるか、ご存知でしょうか? 実は花崎さんに昔救われたっていう男の子と偶然知り合いになりまして。お礼を言いたいと言われているんです」


 微動だにしない背中に語りかける。

 朝倉統括はこちらを振り返らないまま、低い声で答えた。


「花崎桃葉くんか⋯⋯その少年には悪いが、彼女なら亡くなったよ。引退後すぐにね」


 その言葉に頭を殴られたような衝撃が走る。

 やっぱり持病という話は本当だったんだ。


「病名は彼女の希望で伏せるが、かなり長く患っていたみたいでね。私たちが気がついた時には深刻な病状だった。海外で最先端の治療を受けられるよう、取り計らったんだが⋯⋯非常に残念だ」


 朝倉統括はそう言い残すと、一度もこちらを振り返らずに立ち去って行った。 


「花崎くんの事は残念だ。本当に素晴らしいヒーローだったから⋯⋯」


 飯島本部長は悲しげに表情を歪める。


「僕はこれで失礼します。今後ともよろしくお願いいたします」


 樹くんは飯島本部長に頭を下げて、会場の出口の方へと向かっていった。


「飯島本部長、ありがとうございました。私も失礼します」


 慌てて樹くんの後を追いかける。


 会場の外の廊下に出たけど、既に彼の姿はなかった。

 どっちに行ったんだろう?


 先ほど使っていた控室に向かうと、彼はソファに座って項垂れていた。


「樹くん⋯⋯」


 一歩一歩と近づくと、樹くんは口を開いた。


「ありがとう、小春ちゃん。君のお陰だよ。けど、ちょっと今は一人にして欲しいかも」


 苦しそうなその声は涙で濡れていた。

 衝動的に追いかけて来ちゃったけど、樹くんの気持ちを考えると、これ以上近づいてはいけないよね。


 結局なんと言葉をかけていいかもわからずに、無言で控室を出た。

 新星六連星の決起会は、樹くんにとって最悪な形で幕を下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ