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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第二章:恋のはじまり?(六連星始動準備期間)
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37.バトンを繋ぐ


 パーティー会場は高い天井に、シャンデリアが輝く豪華絢爛な宴会場だった。

 白い壁に、暗めの金色のフロアー。


「まずは、第14代目六連星のみなさんの入場です!」


 司会者がアナウンスすると、会場の人々が一斉にこちらに視線を向けた。

 拍手や声援を浴びながら、順番に入場していく。

 

 陽太さん、冬夜さん、海星くん、樹くん、そして⋯⋯


「足元にお気をつけくださいね。お姫様」


 少し照れくさそうにしている光輝くんの手を取って、自分の席までの道を歩く。


 真っ白なテーブルクロスがかけられた丸テーブルに六人で腰かけた。

 光輝くんに椅子まで引いてもらって、本物のお姫様扱いみたいだ。


「ありがとうございます! 贅沢な気分です!」

 

 自分たちのテーブルの上には白いバラの花が飾られていて、なんだかとってもそれっぽい。


 正面には長テーブルが用意されていて、おそらくあそこに今代の六連星が座るのではないだろうか。

 私たちは、すぐ目の前に位置しているから、ここからならその姿がよく見えるはず。


「最後に、みなさんお待ちかね。第13代目六連星の入場です!」


 会場の照明が暗くなり、カラフルな照明が会場内を照らす。


 後ろの扉がバーンと開き、13代目のテーマソングが流れるとともに、六人のヒーローたちが入場して来た。

 会場内が一気に熱気に包まれ、割れんばかりの拍手が鳴り響く。


 六人は声援に応えるように、参加者たちに手を振りながら歩いてくる。


「すごい! 本物のソードマスター烏丸 朔太朗(からすま さくたろう)! かっこよすぎ!」


 興奮のあまり口に出したのが聞こえたのか、13代目ブラックは、私に向かって少し長めに手を振ってくれた。

 

「ねぇ! 今のは絶対、私の事を見て手を振ってくれてたよね!?」


 反対隣に座る樹くんの身体を激しく揺さぶる。


「うん、そうだね! わかったから! もう! 落ち着いて!」


 一応、同意してはもらえるものの、相手にするのが面倒くさいのか、グイッと押し返される。


 次々に入場してくるメンバーたち。

 グリーン、イエロー、ブルー、みんな爽やかな笑顔で手を振っている。

 そして最後に入場してきたのが、レッドとピンクだ。

 

 原色そのままの真っ赤なスーツを着こなしたレッドと腕を組み、可憐なドレスに身を包んだピンクが歩いて来た。

 試着の時、写真で見たドレスよりも、もっともっと素敵に見える。 


 色白で小顔で華奢で、でも出る所は出ていて⋯⋯

 にっこり微笑むと両方のほっぺたに、えくぼが出来るのがさらに魅力的だ。


梅本 珊瑚(うめもと さんご)だ⋯⋯かわいい⋯⋯本物のお姫様だ⋯⋯」

 

 お姫様気取りの私とは格が違う。


 そのつぶやきがピンクに聞こえたのか、私に向かって投げキッスをしてくれた。

 その瞬間、さらに会場内のボルテージが上がる。


「やばい。やばすぎる。撃たれた。胸が苦しい⋯⋯」

 

 今代のピンクはライフルで戦うガンナーだ。

 ポジションは樹くんと同じサポーターで、戦闘中は、メンバーに気を配りながら支援する重要な役割。

 そんな彼女も非戦闘時は、少しお茶目なところがあるらしく、そんな一面も愛らしいお方だ。

 いつもニコニコしていて、どこか安心感があるクリーミー系女子。

 でもこんな風にちょっとセクシーなサービスも忘れない。


 魂を抜かれたみたいにぼーっとしている内に、会場内の照明は明るくなり、六人が着席するところだった。

 

 男性陣は見事に原色カラーの衣装を着こなしている。

 アイドル同然の人気を誇り、この三年間を駆け抜けて来た、おしゃれな大人たちの風格というものか。


「それでは、レッドの紅野 炎悟(こうの えんご)さんより、お言葉を賜ります」

 

 紅野さんにマイクが渡り、会場内はその声を聞き逃すまいと、シーンと静まりかえる。


「皆様、本日はこのような会を開いて頂きありがとうございます。僕たちがこの三年間、ヒーロー活動を続けて来られたのは、支えてくださった皆様のお陰です。本当にありがとうございました」


 紅野さんが頭を下げると、残りの五人のメンバーも頭を下げた。


「僕たちには誇れる事が一つあります。それはこの三年間、六連星内で休業に繋がるような負傷事故が一度も起きなかったことです。僕たちの職務はエイリアンを倒し、市民を守ること。戦う僕らには時に、命を懸けなければならない場面がある。六連星の負傷は名誉のものだと、そんな意識がどこかにありました」


 紅野さんはそう語りながら、拳をぎゅっと握った。


「けれども、実際は僕たちの命も市民の命も同じだけの重みがある。僕はこのチームのリーダーとして、両方を守りたいと、それが可能なのだと証明したいとメンバーに伝え続けました。歴代六連星の中で、討伐所要時間は奮いませんでしたが、僕はそれでもメンバーと市民の両方を守れた事を誇りに思っています。幸いな事に、防衛隊の入隊者数は年々増加傾向です。僕たちの活動の結果も少なからず影響しているのではないかと自負しています。僕たちが次世代のヒーローたちに伝えたいことは一つです。まずは自分の命、仲間の命を大切にして欲しい。武器もなく、戦う人もいなかった時代とはもう違う。困った時は僕たちのことだって頼って欲しい。彼らの安全と活躍を願っています。ご清聴ありがとうございました」


 紅野さんはスピーチを終えると再び頭を下げた。

 そして、陽太さんの方へと歩いて来て、胸元に着けている六連星のリーダーバッジを陽太さんの胸元に着けた。


 感極まったような表情の陽太さんに、こちらまで胸が熱くなる。

 彼の想いが会場内の全員に伝わったのか、拍手喝采が起きた。



 その後は、六連星の三年間の歴史を振り返るビデオが流れ、コース料理を頂きながら、スクリーンを注視した。


「小春ちゃん、スクリーンにかじりつき過ぎ。食事も取らないと、給仕係の人が困るじゃん」


 夢中になって映像を見ている内に、私のテーブルの上には、次々とお料理が乗せられ、溜まっていた。

 このままだと、どんどん樹くんと光輝くんが狭くなるよね。


「失礼いたしました! いただきます! 料理も美味しい!」


 カルパッチョやステーキ、白身魚の香草焼きなどなど。

 こういう場所でしか食べられない料理がたくさん出てくる。


「樹くんはお上品だね。高級レストランの取材のオファーとか来るかも!」

  

 ナイフとフォークを使って、慣れた様子で料理を切り分け、口に運んでいく。

 その様は優雅過ぎて見惚れるほどだ。


「今後、こういう場が増えるだろうからって、ちょっと練習しただけ」


 樹くんはサラリと言って食事に集中する。

 そうか。彼も色々努力してるんだよね。


 動画の上映が終わったあとは、歓談タイムとなった。


 会場にいた人々が自分の席から移動し、立ち話に花を咲かせ始める。

 食事も終わったので、私も六連星の元に!


「小春ちゃ〜ん!」


 明るい女性の声がしたかと思ったら、後ろから抱きつかれた。

 すらりと長い白い腕、ふわっと香る甘い香り、何よりこの声は。

 まさかまさかまさか⋯⋯

 

 ギギギと音がしそうなくらい、緊張で固まった首をねじって後ろを振り返ると、そこにいたのは梅本珊瑚その人だった。


「きゃー!! 梅本珊瑚! いや、珊瑚お姉さま! 先ほどは投げキッスも頂戴し、ありがとうございます! どうしよう! ハグされちゃった! 一生、お風呂入れない⋯⋯」


 興奮してジタバタする私を見て、珊瑚さんはくすくす笑っている。


「小春ちゃん、お噂はかねがね! とてつもないディア能力値を叩き出して、鳴り物入りで六連星に抜擢されたんだってね」


 珊瑚さんは鈴を転がしたような綺麗な声で、私の名前を呼んでくれた。

 しかも、あの憧れだった六連星が私の事を認知してくれているなんて⋯⋯


「あと、根っからのヒーローオタクらしいね! 俺たちよりも防衛隊に詳しいって、米谷さんが」


 話しかけてきたのは、なんと、烏丸朔太朗だ。

 いつの間にか背後を取られていたとは。


「烏丸朔太朗⋯⋯さん! ファンです! スクリームスラッシュ!」


 立ち上がってエアギターならぬ、エアスクリームスラッシュを披露する。


「ありがとう! 本当に詳しいんだ? 今から引退後の小春ちゃんの取り合いが、各部署で始まってるらしいからね? 研究部と広報部と企画部と⋯⋯」


 まだ六連星の活動が始まってもいないのに、もう大人たちは次の事を考えているのか。

 確かに私のオタク知識があれば、記事を書いたり、商品を開発したり、楽しく働けそう。


「お二人は来月からどうするんですか?」


 三年間、完走されたお二人は、果たしてどんな仕事を選ばれるのか。


「私は管理本部に異動するの。結婚も決まってるし⋯⋯ね?」


 珊瑚さんは朔太朗さんの事を嬉しそうに見つめる。


「俺はこのままレンジャー部に残るよ。出動要請があれば、一緒に戦う」


 朔太朗さんは現役隊員を続けてくれるんだ。

 それはなんと心強い。


 それにしてもこのお二人が、そんな事になっていたとは。

 これは一大ニュースだけど、きっとまだ二人の関係は内緒なんだよね。


 そうか、そうか。

 5組目の六連星内夫婦となられるのか。

 珊瑚さんが23歳、朔太朗さんが24歳だもんね。


「それじゃあ、みんながんばってね! 応援してるよ!」


 珊瑚さんと朔太朗さんは、私たちにエールをくれた。

 まさしくその姿は、私たちの目指すヒーロー。


 余韻に浸っていると、どこかから視線を感じた。


 その方向をふっと振り返ると、少し離れた席にお父さんが座っていた。 


 なんだかとても嬉しそうな顔で、こちらを見ている。

 全力で趣味を満喫しているところを見られた気分だ。

 これは恥ずかしい。

 

 おとうさーんと口パクしながら手を振ると、笑顔で手を振り返してくれた。

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