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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第二章:恋のはじまり?(六連星始動準備期間)
33/112

33.僕と恋を始めませんか?


 樹くんから桃葉さんの話を聞いた数日後のこと。

 あの日以来、樹くんはいつもと変わらない様子で日々を過ごしている。



 そして私は、今、久しぶりにレッツゴーマートを訪れていた。

 いつも食事は三食、食堂でとるし、日用品はネットで買うしで、あまり用がなかったんだけど⋯⋯


 社用スマホのメールに、サンクスポイント交換期限のリマインドが来たので、そろそろ交換しようというわけだ。


 それと、先日のマンティスとの戦いの後、大田原隊のみなさんからも頂いたみたいなんだよね。

 

「どれどれ⋯⋯⋯⋯」


 売り場の隅にあるATMの様な機械で、サンクスポイント交換ボタンを押す。

 

 サンクスポイントは、1ポイントで100円の価値があると。

 そして、私の残高は、600ポイント。

 内訳は樹くんが400ポイント、明里ちゃんたち第二班の三人と大田原隊長が50ポイントずつ⋯⋯って全部で6万円分!?


 その値に驚いた私は、すぐに樹くんに電話をかけた。


「ちょっと! 樹くん! この前もらったサンクスポイント、今見たよ! 四万円分? やりすぎだよ!」


 サンクスポイントの相場はよくわからないけど、貰いすぎという感覚自体は間違っていないはずだ。


「あのね、サンクスポイントっていうのは、贈答用ポイントが三ヶ月ごとに、50ポイントずつ与えられるの。それで、有効期限は二年間だから、400ポイントが保持限界MAXなの。だから、小春ちゃんに贈らなかったら、俺のポイント無駄に消失しちゃうじゃん。だから受け取ってよね。そういうこと。じゃあね」


 一方的に説明され、こちらが何かを話す前に、ぷつりと通話は切れた。


 つまり、明里ちゃん達は、今期に付与された最大限のポイントを私にくれたんだ。

 そして、樹くんは二年分溜め込んだ分を一気に放出したと。

 樹くんの理論だと、私にくれるのは50ポイントで良かったのでは?


 でもこうやって感謝を形にしてもらえるのは、嬉しくもある。

 それだけ樹くんも大田原隊のみんなも、私に感謝してくれたんだよね。

 

 頂いたサンクスポイントは、この日一日では到底使い切れるものでもないので、一つだけ防衛隊グッズと交換することにした。

 

 受け取ったサンクスポイントは、人に贈る事は出来ないそうなので、少しずつ有り難く使わせて貰うことにする。

 リマインドのタイミングでポイントを使えば、消費期限が延長され、ポイントの失効はないとのことだ。

 


 基地限定アトモちゃん(上級隊員戦闘服バージョン)を胸に抱いて、作戦会議室に戻る。

 六連星のみんなは既に勢揃いしているのと、見知らぬスーツ姿の男性が座っている。

 テーブルにお茶が出されているから、誰かのお客さんかな。


「お疲れ様です〜! あっ! 樹くん、ありがとうございました〜!」


 スーツの男性に頭を下げた後、奥の方の壁にもたれながら立っていた樹くんにお礼を言う。

 アトモくんの身体をフリフリして見せると、樹くんは壁にもたれるのを止めて、すくっと立ち上がった。


「まったく、そんなに幸せそうな顔して⋯⋯それで、お客さんは小春ちゃんに用があるんだってさ」


 樹くんに背中を押され、急いでスーツの男性の前に戻る。


「申し訳ありません。私の事を待っていてくださったんですね。お待たせしました。それで、ご要件というのは⋯⋯?」


 黒縁眼鏡をかけた十代後半くらいの男性。

 黒い髪を七三分けにしている。

 一言で言えば、癖のないプレーンなイケメン。


 果たして、どちら様だったかな?

 お会いした記憶はないけど⋯⋯


 男性は椅子から立ち上がり、私の正面に立った。

 手には何やら大きな袋を持っている。

 後ろを向いて、ガサゴソと袋を漁ったあと、荷物を後ろ手に持ち、こちらに向き直った。


「ピンク⋯⋯いや、桜坂小春さん」


 男性は、かしこまったように床にひざまずいた。

 え? なになに? まさかの土下座!?


「いやいや、待ってください! 早まらないでください?」

 

 男性の動きを制止しようとすると、彼は首を横に振り、私を見上げ、真っ直ぐに見つめてくる。


「桜坂小春さん、僕はあなたの事を好きになってしまいました。あなたの初めての恋の相手に立候補します! 僕と恋を始めませんか!?」


 男性は顔を真っ赤にしながら、後ろに隠していた真っ赤な薔薇の花束をこちらに差し出した。


 目の前の光景に、頭は真っ白になる。

 誰? このお方は、いったい誰なの⋯⋯⋯⋯?


「⋯⋯⋯⋯えっと⋯⋯⋯⋯その⋯⋯⋯⋯お気持ちは大変嬉しいです⋯⋯⋯⋯それで、その⋯⋯⋯⋯まずは⋯⋯⋯⋯」


 所属とお名前をと言おうと思ったその時、後ろからものすごい風が吹いた。


「はぁ? なにそれ。絶対にだめだから! だめに決まってるじゃん! 俺たちは今、大事な時期でしょ!? まずはお友達からとかもないから! スキャンダルになったらどうすんの!?」


 それは樹くんが、ずんずんと近づいてくる過程で巻き起こった風だったみたいだ。

 彼は怖い顔で私を睨みつけてくる。


「いや、別に私は、スキャンダルとかは⋯⋯⋯⋯」


 あまりの剣幕にすぐに否定するものの、状況がつかめないまま、周囲は大騒ぎになる。


「⋯⋯⋯⋯悪霊退散」


 海星くんは、お手入れ中だったダガーを仕舞うのも忘れ、手に持ったまま真顔で男性に近づいていった。

 男性は恐怖におののき、床に手をつき、後退りする。


「おい、樺山(かばやま)。お前、ウチの小春ちゃんに手ェ出したら、どうなるんか、なんも分かっとらんようやなぁ?」


 光輝くんは樺山さんに飛びかかり、髪の毛をうりゃうりゃとかき混ぜた。


「小春は俺たちの希望の光だ。浮ついた気持ちで近づいたというのなら、許さない」


 冬夜さんもいつもの冷静さを欠いているのか、樺山と呼ばれる男性を囲む会に参加する。


「みんな! 落ち着くんだ! 本来、恋愛というのは個人の自由のはずだ。僕たちにはその権利を侵害することは出来ない! けれども、みだらなことだけは注意してくれ! 小春くんはまだ未成年だからな!」


 陽太さんは声高らかに叫んだけれど、場の空気は鎮まらず⋯⋯


「あの⋯⋯とりあえず、教えて頂けませんか? どちら様です?」



「⋯⋯⋯⋯はぁ?」


 六連星のみんなは、信じられないものを見る様な目でこちらを振り返った。




「小春さん、先走ってしまい申し訳ありませんでした。僕は樺山 真一(かばやま しんいち)、広報部の者です。その⋯⋯先日のアトモちゃんの中の人です⋯⋯」


 みんなに締められた樺山さんは、萎縮しながら頭を下げた。


「え! あの時のアトモちゃん! そうか。そうですよね。アトモちゃんの中身って、生身の人間なんですよね。私ったら何か勘違いしていたみたいで⋯⋯」 


 私はいったい何をやっているんだ。

 中の人がいるのも忘れて、あんなに堂々と恋愛相談をするなんて。

 顔が見えない関係だったからこそ、何でも話せてしまったのに、いざこうやって顔を合わせると、気まずすぎて、どうしていいかわからない。


「それで、私の独白を聞いて、哀れな者に恋を教えてやろうと立ち上がってくださったと⋯⋯」


 非戦闘部門の職員でもヒーローマインドは同じ。

 その心根は優しさに溢れている。


「いえ、実は今月の機関誌での小春さんのお写真⋯⋯広報部の男子部員たちからは、かなり好評でして⋯⋯先日のアトモちゃんの中の人も、部内で壮絶な奪い合いが発生しました。その勝者が僭越ながら僕でして。あの、普通にファンです。あのまま出来ればハグ⋯⋯して欲しかったです⋯⋯」


 樺山さんはどこかうらやましそうな目で、私の胸に抱かれたアトモちゃんを見つめる。

 なるほど、話が見えてきたぞ。


「初恋はちょっと分からないですけど、ハグくらいならいつでも⋯⋯こんなんでよければ⋯⋯⋯⋯」


 樺山さんの肩を抱きしめるようにして、軽くハグをする。

 空手の試合終わりに、これくらいなら日常茶飯事だったから。

 それに、各国の首脳同士だって、こんな感じで挨拶を交わすはずだ。


 大した行為のつもりはなかったのに、樺山さんの顔は茹でダコみたいに赤くなってしまった。

 前かがみになり、もじもじと俯いている。


「おいコラ、樺山ァ! それ以上は看過できへんでぇ! このムッツリ野郎が!」


 光輝くんは樺山さんをポイっと部屋の外に放り出したのだった。 

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