30.夢はでっかく
翌日、この日は防衛隊の基地がある護城市の広報誌の取材があったので、六人揃って会場である会議室に移動してきた。
会議室にセットされた背景は、白とスカイブルーのチェックの柄に、防衛隊公式キャラクターのアトモちゃんのイラストとAtmosphereのロゴが印刷されたもの。
防衛隊の記者会見でよく見るやつだ。
そして、驚くべきは、その背景の前にアトモちゃんが立っているということ。
私が以前、一緒に撮影したぬいぐるみバージョンではなく、自分で歩いて手足を動かしている、正真正銘、本物のアトモちゃんだ。
「あっ! アトモちゃん〜!」
近づき手を振ると、短い腕を前に突き出して手を振ってくれる。
ちなみに羊なので手の先は蹄。
これは可愛すぎる。
「それでは六人でのお写真を一枚撮影させて頂いた後、お一人お一人にインタビューをさせて頂きますね」
市の担当者の方は、今日の流れを説明してくださった。
アトモちゃんを中心とした、六人での写真撮影はスムーズに終わり、すぐに個人のインタビューが始まった。
インタビュー内容は、氏名、年齢、出身地、性格、趣味などなど。
今は、ポジションと専用武器についての質問に移ったところ。
インタビュアーは三十代くらいの女性の方で、アナウンサーのようにハキハキと話すお方だ。
「この武器は〈ホーミングオウル〉という、スコープ付き高精度ライフルなのですが、殺傷能力が高い通常の弾丸の他に、発信器を発射することが出来るので、逃走するエイリアンの追跡に役立ちます」
冬夜さんは、専用武器のマークスマンライフルについて解説した。
冬夜さんのディア能力を非殺傷性の弾丸に変換し、エイリアンの皮下に埋め込むことで、レーダーで追えるようになるんだよね。
冬夜さんは、よくそんな方法を思いついたな。
「次は、今後三年間の活動目標を教えてください。それではレッド、お願いします」
話を振られた陽太さんは、もともとぴしっとしていた姿勢をさらに正した。
「四十年間、エイリアンによる襲撃を受け続けた我々ですが、奇跡の鉱石デザライトの発見に始まり、武器の性能、エイリアンの研究、戦術の考案が進んだことで、今の均衡を保つことが出来ています。すべては、先人たちのたゆまぬ努力の結晶です。僕たちはそれを引き継ぎ、みなさんにより明るい未来をお見せ出来るよう、精一杯努めます。僕たちの仲間であるピンクは、類稀なる能力を秘めています。彼女の今後の活躍にもぜひ期待してください!」
陽太さんは百点満点の回答をしたあと、巨大な爆弾を落っことした。
満面の笑みでこちらを見ていらっしゃるけど⋯⋯
みんなも、私の顔をみながら拍手してくれている。
「ありがとうございます! 頑張ります!」
街の人の声援に応える政治家のように、片手を挙げてみんなの顔を見回す。
「リーダーや仲間たちから期待されるピンクですが、どのような目標をお持ちでしょうか?」
インタビュアーの方は期待のこもった眼差しで、私を見つめている。
「私はお母さんのお腹の中にいる時に、護城市に移り住んで来て、それから一度も殿宮の県境を越える事なくここまで来ました。毎日UFOの存在を意識しながらの生活に、正直言うと不気味さだって感じました。けれども、いつだって防衛隊が、六連星が、私を守り、勇気を与えてくれました。だから私は、この街に住む人たちを守り、勇気づけられるヒーローになりたい。いつか、UFOを追い返して、本物の空をみんなに見せてあげたいです!」
ガタンと椅子から立ち上がり、右手で拳を作って天井に向かって突き出す。
おだてられたら調子に乗るクセは相変わらず。
一度口から出て誰かに届いた言葉は、もう引っ込めることは出来ない。
勢いでこんな大口を叩いて、上層部からお叱りを受けるんじゃ⋯⋯
「小春、よく言った。それでこそ、デストロイヤーだ」
「やっぱ、小春ちゃんはスケールが違うわ。それくらい振り切ってくれてたほうが、俺らもやりがいがあるってもんやで」
「⋯⋯⋯⋯追い返そう」
「僕たちの活動の最終目標は、そこにありますからね」
「小春くん! 僕は今、猛烈に感動している!」
冬夜さん、光輝くん、海星くん、樹くんに、陽太さん。
みんなは決して私の目標を馬鹿にしたり、笑ったりしなかった。
むしろ、みんなのスイッチが入ったと言うか、けど、どこかホッとしているようにも見えるような。
「僕たち新星六連星の活躍をぜひご期待ください!」
陽太さんは白い歯を見せながら、インタビュアーのお姉さんに笑いかけたのであった。




