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世界がキミに夢見ている!〜この星を守るピンクレンジャーの不器用な恋〜  作者: 水地翼
第二章:恋のはじまり?(六連星始動準備期間)
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26.私の教育係


 宣材写真撮影から二週間ほど経った頃。


 高校の授業が終わって作戦会議室に来ると、製本された機関誌のサンプルが作戦会議室に届けられていた。


「よっしゃ! きたー! 機関誌の表紙に自分の写真が掲載される日が来るなんて! どれほど恋焦がれたことか!」


 思わず大きな独り言を言ってしまったけど、今は私しかいないみたい。

 休憩室のソファに座って、熟読しよっと。

 

 まず始めに、どどんと目に飛び込んでくる表紙には、『第14代目六連星(プレアデス)――6.24Debut(デビュー)』の文字。

 六人揃って真剣な表情で撮影した写真が採用されている。

 

 ちなみに先月号が、『夢と希望をありがとう! 第13代目六連星!』で、今代の六連星の引退号だったんだよね。


 そして今月号と先月号には、あるしかけが施されていて、この二冊を裏返して並べると、今代の六連星から、私たち14代目六連星に、それぞれのメンバーカラーのバトンが手渡されたように見えるというものだ。


 今代の六連星には、まだ直接お目にかかれてはいないけど、確かに私はピンクのバトンを受け取ったんだ。

 そう思うと、目頭が熱くなってくる。

 

 自分だけの世界に浸っていると、誰かが来たみたいで、扉が開いた。


「あぁ。お疲れ。それ、今月の機関誌? もう出来たんだ」


 部屋に入って来たのは樹くんだった。

 同じく学校が終わったばかりなのか、学生服姿のままだ。

 

 スカイブルーのシャツにグレーのズボン。

 首元には青系のチェックのネクタイを締めている。

 防衛高校の制服は、なんとも爽やかだ。

 

 樹くんは、ネイビーのスクールバッグを置き、隣に座った。


「で? 中身はどうだった? 俺も見たい」


 樹くんは私が手に持っている機関誌に手を伸ばし、ページを一枚ずつめくっていく。

 

 陽太さん、冬夜さん、光輝くん、海星くんと来たところで、次は私のページだった。

 見開きのピンクコーナーには、アトモちゃんとのラブラブ写真が並んでいる。

 あと、謎に照れてしまったオフショットも。


 これが全国の書店やコンビニに並び、家族や同級生たちの目に留まるとなると、かなり恥ずかしい。


「この時、どうして急に照れたの? そこそこノリノリでやってたように見えたけど」


 樹くんは私の写真たちを眺めながら、不思議そうに首を傾げた。


「どうしてだろうね。ははは〜。ふと冷静になって自分を客観視した時に、おかしく思えちゃったのかな?」


 樹くんが飼い主@ドッグランみたいな表情をしていたからとは当然言えず。


「そんなことよりも、次のページをめくってみてよ!」


 最後のページは樹くんの見開きのはず。

 果たして彼はどんなポーズで撮影したのか、ワクワクしながら待機する。


 ぱらりとページがめくられると、まず目に飛び込んで来たのは、見慣れぬイケメンの写真だった。

 床の上に座り、片膝を立てて、少し首を傾げるようにして、微笑んでいる。

 爽やかさの中にも、ひとつまみのあざとさを感じる、なんとも魅力的な雰囲気だ。


「え? 誰これ。樹くん、誰かにページを乗っ取られてるよ?」


 デビュー号だと言うのに、誤植があるとは気の毒に。

 いったい誰がこのようなミスを犯したというのか。


「何寝ぼけたこと言ってんの。これ、俺だけど」


 樹くんは呆れたような目で私を見てくる。


「え? 今、目の前にいる緑川樹さん? いつも私の事を珍獣をみるような目でご覧になっている緑川樹さん?」


 写真と本人をよーく見比べると、確かにご本人に酷似している。

 

「樹くんって、本気を出したらめちゃくちゃイケメンなんだね。確かにいつも後輩ちゃん達にキャアキャア言われてるもん。そうか。これが世間の目から見た樹くんなんだ⋯⋯」


 私にはこんな表情、見せてくれた事ないのに。

 

「小春ちゃんの中の俺って、どういうイメージなわけ? ひどい。ちょっとショックなんだけど」


 口を尖らせ、拗ねたような樹くん。


「いやいや。ひどいのは樹くんだと思いますよ? 普段から私にもこの表情で笑いかけてくれていたら、こんな勘違いは起こらずに済んだわけで⋯⋯」


 どうして私の前ではイケメン度を抑制しているのか。

 こちらが拗ねたい気分である。


「そう⋯⋯じゃあ善処するよ」 


 樹くんは自分のページのチェックを終え、先ほどざっとしか見なかったページたちを見直し始めた。

 

 真剣な表情で機関誌に目線を落としている。

 まつ毛長いな。それに⋯⋯


「樹くんって、お肌が綺麗だね。どうして?」


 吸い寄せられるように顔を近づけ、手を伸ばすと、透き通った肌はキメが細かくて、少し吸い付くように柔らかく感じる。

 

 男の子の肌って、もっとゴワゴワしているイメージがあったのに。


「ちょっと。もう夕方だし。体育もあったんだから、触らないでよ」


 伸ばした右手の手首をガシッと掴まれ、ぽいっと遠ざけられる。


「そっか。やっぱり朝イチが一番調子良いってこと? すごいな。これ以上に、ぷるツヤなんだ⋯⋯」


 じーっとお肌を観察していると、徐々に樹くんの肌が赤くなって来た。

 

「色白だから、毛細血管の血流量が肌の色にはっきり反映されるんだね。私もこんなに綺麗なピンク色の肌なら、チークとか塗らなくていいのに。うらやましい」


 ほっぺたを指でつんつんすると、首まで赤くなってきた。

 これは面白い⋯⋯


「ちょっといい加減にしてよ! ヒーローオタクの次は細胞オタク? 気をつけてるのは、保湿と睡眠、あとは食事の栄養バランス!」


 樹くんは私の両肩に手をおいて、遠ざけるように身体を押した。

 あまりの勢いの強さに、一度はソファにドサッと倒れてしまうけど、めげずに起き上がる。


「保湿って化粧水ってこと? 何を使ってるの? 栄養バランスって何を食べてるの? いつも樹くんは、食堂でサラダもしっかり食べてるもんね!」


 鏡の前で化粧水をパシャパシャと塗ってる樹くんを想像してみる。

 うん。ちょっとかわいいかも。

 そう言えば私って、樹くんのプライベートを何も知らないんだよね。


「樹くんって、休みの日は何して過ごしてるの? 明日の休み、部屋に遊びに行ってもいい? 化粧水パシャパシャしてるところ見せて! 私、樹くんのこと、もっと知りたい!」


 一息に言い切ると、彼は信じられないものをみるような目で私のことを見たのであった。

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