24.ドキドキの写真撮影会
雑談をしながら長い廊下を歩いた先に、宣材写真の撮影会場があった。
会議室の一角には、撮影用の背景が設置されている。
黒と白のチェック柄に、六連星の金色のロゴと、同じく金色の文字でPleiadesとAtmosphereと書かれたものだ。
六連星がインタビューを受けたり、何かを発表したりする時は、いつもこの背景をバックに配信されるんだよね。
六連星の戦闘服に身を包み、この背景の前に立つことで、自分が本当にヒーローになれるのだという実感が湧いてくる。
感動と興奮で、胸の高まりが収まらず、手に汗もかいてきた気が⋯⋯
「はい! ではまず最初は六人揃って何パターンか撮影します! その後は一人一人の個人撮影です!」
広報部所属のカメラマンさんは、カメラが乗った三脚を抱えながら手を振る。
アシスタントさんたちが、内側が白い傘みたいなものや、ライトの向きを調整する。
「レッドとブラックがセンターで、お二人を挟むようにグリーンとブルー、最後にピンクとイエローですね」
広報部の方が、立ち位置を教えてくれる。
私は正面から見て左端。隣は樹くんだ。
「はーい! まずは笑顔で撮影します! 爽やかな感じでお願いしますね! レッドとイエローは申し分ないですね! ブラックとブルーは口角だけ上げる感じで!」
カメラマンさんは表情を指導しながら、パシャパシャと写真を撮っていく。
さすが、陽太さんと光輝くん。
一発オッケーを出してしまうとは。
二人の場合は何となくどんな顔で笑っているのか想像がつく。
ちなみに冬夜さんはクール系で、海星くんはミステリアス系で売るからと、余り笑顔は見せない方針だとか。
「グリーンも良いですよ〜! とっても爽やかですね〜! ピンクはもう少し首を傾げて、キャピって感じで! はい! かわいいです〜!」
樹くんの爽やかな笑顔ってどんな感じなんだろう。
いつもそっぽを向いているか、珍獣をみるような視線かのどちらかのような気が⋯⋯
写真が完成したら要チェックだ。
そして、紅一点の私は、キャピキャピキャラを演じなければいけないとのこと。
歴代のピンクの可愛さに負けないよう、必死に笑顔をつくる。
私の活躍を見た女の子が、防衛隊に入隊してくれたら嬉しいな⋯⋯なんてね。
「次はみなさん真剣な表情で。良いですね〜。レッドはもっと睨むような感じで! 僕をエイリアンだと思って〜!」
カメラマンさんは手を大きく広げて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
あれはバタフライ型エイリアンの真似なのかもしれない。
「はい! では、あとは個人撮影ですね。終わった方から戻って頂いて構いません。ピンクから行きますね」
私以外の五人は一度その場を離れ、近くにあった会議用の椅子にそれぞれ着席した。
机の上に肘をついたり、お茶を飲んだりなど思い思いに過ごしておられる。
「ピンクは座って撮影しますね。ここにお姉さん座りでお願いします」
背景のシートが敷かれた床に脚を崩して座る。
すると、アシスタントさんが脚の角度から、スカートのめくれ具合まで調整してくれる。
そうこうしている内に、アシスタントさんが大きなぬいぐるみを抱えて来た。
私の隣にぽすんと置かれたそれは、防衛隊公式キャラクターのアトモちゃんだった。
「わぁ! おっきなアトモちゃん! かわいいですね!」
アトモちゃんは、もくもくの雲をイメージした、水色の羊(♂)だ。
ふわふわの身体から短い手足が出ているのが、なんとも可愛らしい。
テディベアのように足を前に投げ出したお座りスタイルのアトモちゃんは、お姉さん座りをする私よりも頭一つ分くらい座高が高い。
「じゃあ、アトモちゃんを彼氏だと思って、かわいく甘えてください!」
カメラマンさんは、満面の笑みで無茶ぶりをして来た。
生まれてこの方彼氏なんていた事がないし、誰かにベタベタ甘えるなんてした記憶もない。
「えーっと。こんな感じ⋯⋯ですか?」
アトモちゃんの短い腕に抱きついて、頭をくっつける。
「そうそう! いいね〜! おめめぱっちりのまま笑ってみて! そうそう!」
まぶしいフラッシュについつい目を閉じてしまいそうになるけど、一生懸命目を見開く。
だんだん顔が引きつってきた⋯⋯
「小春ちゃん最高〜! かわいすぎ〜!」
光輝くんが茶々を入れてくるので思わず顔がニヤける。
「いいよ、イエロー! 今の顔めっちゃかわいい! もっと盛り上げて!」
カメラマンさんはパシャパシャとシャッターを押しながら、色んな角度から撮影を続ける。
「アイドルみたいやで! 俺がアトモちゃんと代わりたい!」
光輝くんの調子の良い煽りは止まらない。
「いいぞ! 小春くん! 一皮むけた新しいキミを見せてくれ!」
「⋯⋯⋯⋯かわいい」
「小春らしい笑顔だ」
陽太さん、海星くん、冬夜さんも褒めてくれる。
「じゃあ、次はアトモちゃんをぎゅーっとはぐして、ちょっと上目遣いで。甘えん坊さんな感じで。目を閉じたバージョンもね」
柄にもない雰囲気の撮影が続いていく。
しかし、これは私に課せられた使命。
六連星として活動する上で、広報活動は戦闘の次に大事なんだから。
主に光輝くんと陽太さんが声援をくれる中、樹くんの声は一度も聞こえてこないことに気づく。
呆れた顔で見られているのか、スマホでも触っているのか。
ポーズが変わるタイミングで、樹くんの姿を探すと⋯⋯彼はこちらを真っ直ぐに見ていた。
頬杖をつきながら、優しそうな目で。
それはまるで、ドッグランを元気に走り回る愛犬を見つめる飼い主のように思える⋯⋯
そんな映像が頭に浮かんだ瞬間、猛烈な恥ずかしさに襲われた。
一気に顔が火照ってくるので、両手で頬を隠してうつむく。
「あ! それいいね! よく分からないけど、照れてるのかわいい! 頂き頂き!」
この時の写真は翌月の機関誌に掲載されてしまったのだった。




