23.衣装事件のあと
谷間全開の戦闘服を巡って起きた事件は、女神の音羽さんのご指摘によって解決した。
後日、二条さんが直々に新しいデザインの衣装を持ってきてくださったので、早速、更衣室で着替え、鏡で全身をチェックする。
「やったー! これぞ、私が求めていたもの! 爽やかさがあって、何よりかわいい! うはぁ! 鼻血で服が汚れる!」
新しく完成した戦闘服のジャケットは、ファスナーが上まで上がるから、他の五人と同じような立派な騎士服のように見える。
それでいて、キュロットスカートのひらひら具合が可愛さを演出してくれる。
「おい! やめろ! 汚すな! 着替えたんならさっさと出てこい!」
二条さんに急かされ、慌てて外に出る。
腕組みをしながら真剣な表情をしていらっしゃるので、目の前でくるりと一回転してみせる。
「悪くないな。その体型なら、こっちの方がお似合いだ」
二条さんはあごに手を当てながら、私の全身を観察し、最後に鼻でフッと笑った。
「あ! なんですかそれ? もしかしてセクハラですか? 誰かコンプラ部に電話してください! 担当は桑名さん以外でお願いします!」
両手でメガホンを作って、大声で叫ぶ。
「デザイナーとしての意見だ、バカタレ。俺はこんな、ちんちくりんには興味ないから」
「はい? ちんちくりんの谷間を見せようと、必死だったくせに?」
「見たくて見せてたわけじゃない! 組織の利益のためだって言ってんだろ?」
二条さんとの言い争いはヒートアップする一方だ。
「あれは、仲良しってことなんかなぁ?」
「さあね。好きにやらせとけば?」
光輝くんと樹くんは、湯呑みで温かいお茶を飲みながら、私たちの事を観察している。
そんな二人に対して、両手の人差し指をほっぺたにつけた、ぶりっ子ポーズを決めてみる。
「小春ちゃん! かわいいで〜!」
「気に入ったんなら、よかったね」
なんだかんだ言いつつも、光輝くんと樹くんは優しい声援をくれた。
五月の中旬にさしかかった頃。
私たち六人は第14代目六連星として、華々しくデビューするため、宣材写真を撮影する事となった。
撮影は会議室の一角で行われるそうで、雑談をしながら六人でぞろぞろと移動する。
「二条さんが教えてくれたんですけど、今まで六連星の戦闘服で白がタブーだったのは、エイリアンの返り血の黒いシミが目立つのを避けるためだったそうです。ですが最近の研究で、下半身にはほとんど血がつかないからと、今回、大胆にもボトムスには白を取り入れたんだそうです!」
前に踏み出す足を上げ、自分のスカートを指さしながら隣の光輝くんに話しかける。
「へぇ〜! そんな理由があったんや〜! けど、初級隊員なんか、全員真っ白やん? それはええの?」
光輝くんは自分の腕の辺りの生地を引っ張りながら、問いかけてくる。
「はい。そのことについて、私も聞いてみたんですが、白は初級隊員たちの新しい未来、まっさらなキャンバスを現しているんですと!」
その事について語っていた時の二条さんのポーズを真似して、両手を大きく広げ天を仰ぐ。
「初級隊員の未来が返り血で染まるのはいいわけ? なんか矛盾してる気がするんだけど」
後ろからツッコミを入れてきたのは樹くんだ。
「ほんとだね。今度会った時にそれも聞いてみないと。二条さんは開発部のデザイン課ってところにいるらしくって、今度、部屋に遊びに来ていいって言われたから! 歴代の六連星の戦闘服の資料とか見せて貰えるんだって!」
二条さんは長く防衛隊の衣装のデザインに携わっているから、知識も豊富だし、私のオタク心をくすぐる話題の引き出しも多い。
二条さんは二条さんで、ヒーローオタク系女子高生という天然記念物の話を聞いてみたいと、興味を持ってくれたみたいだ。
「そう。あんだけバチバチやり合ってたわりに、ずいぶんと仲良くなったんだね」
「うん! やっぱ話が合うから! 連絡先も交換したし!」
スマホを取り出し、連絡先のアイコンを表示させる。
そこには、彫刻のような美術品の前でかっこつけている二条さんが写っている。
「はぁ? なにそれ! 普通、いい年したおじさんが女子高生と連絡先なんて交換する? エサに釣られて、また変なことされるんじゃないの?」
「出た! 無防備系女子! けど、さすがに、お部屋訪問は犯罪のにおいがするで!」
何故か急に、樹くん、光輝くんがヒートアップし始めた。
「⋯⋯⋯⋯俺も行く」
海星くんは、なんだか少し甘えたように見つめてくる。
「じゃあ、海星くんも一緒に行こう! デザイン課の部屋って、タブレット端末にペンで絵を描くと、それがバーチャル映像として、立体的に表示される装置があるらしいよ! 犬とか猫とかの絵を描いたら、それがリアルに動くから、好きに落書きして遊んでもいいよって!」
スマホで、二条さんの社内スケジュールを表示すると、今週は比較的落ち着いているようにお見受けする。
「え? 部屋に遊びに行くって、自宅じゃなくて、デザイン課の部屋ってこと?」
「連絡先言うんも、社内アドレスってことかいな」
樹くんと光輝くんは、表情が緩んで力が抜けたような声を出す
「え? 私、言わなかったっけ? ねぇ、海星くん」
「⋯⋯⋯⋯言ってない⋯⋯⋯けど⋯⋯⋯落書き⋯⋯⋯⋯楽しみ⋯⋯⋯⋯」
よっぽどバーチャル犬&猫が楽しみなのか、にっこりと笑う海星くんなのであった。




