16.対マンティス型エイリアン
陽太さんが運転するサイレンカーは、予定通り上守城の南西に到着した。
シートベルトを外し、ドアを開けて降り立つ瞬間、一気にみんなのスイッチが入ったのが分かった。
上守城の周囲は半径三キロほどが、最重要危険区域に指定された公園になっていて、そこから離れるごとに民家が増えてくる。
この場所は、最重要危険区域の端で、城の方は見渡す限り小型〜中型マンティスの海みたいに見えた。
目の前のエイリアンは、カマキリの見た目はそのままに、薄い灰色の身体をしていて、どこを見ているか分からない大きな二つの目がギラギラしているのが、なんとも不気味だ。
公園の植え込みや木は、なぎ倒されていて、付近には電柱くらいの高さがある大型マンティスがうろついている。
「事前に得た情報通りだ。小春、早速だが、ここからやつらを焼き払えるだけ焼き払ってくれ。大型の気を引かないように気をつけながら、数を減らす事だけ考えろ。逆上してこちらに襲いかかって来るやつがいれば、俺たちが食い止める。もちろん、俺たちのことは撃つなよ」
冬夜さんは、ちょうど良さそうな木の陰を指さした。
指示通り、その木に隠れるようにしてしゃがむ。
「焼き払うってことは、火力強めで良いってことですよね?」
「その通りだ。俺達が前に出るまではひたすら連射して、一秒でも早く数を減らせるのがベストだ」
「なるほど⋯⋯では、全力でまいります」
弓を構えて弦を引くと、光の矢が現れ、デザライトが輝くと共にモーター音が鳴った。
弦をゆっくり強く引くほど、矢の輝きが増し、モーター音が振り切れそうなくらい高くなる。
「行きます!」
最大限まで弦を引いて放たれた矢は、真っ白に輝きながら、どこまでも突き進んで行った。
まるで火炎放射器から吹き出した炎のように、全てを呑み込み焼き尽くす。
矢がマンティスの海に一筋の道を作っていく。
「出たぁ〜! 小春デストロイヤー! 火力やばすぎやろ〜!!」
「小春くん! やはりキミは防衛隊の秘密兵器だ! これなら行けるぞ!」
「その調子だ。間髪入れずに打ち込み続けろ。このフェーズでどれだけ敵の戦力を削れるかが、後々に響いてくる」
光輝くんは興奮したように隣で飛び跳ね、陽太さんは激励してくれる。
冬夜さんの指示通り、同じ火力でどんどん矢を放って行く。
マンティスは混乱したように飛ぼうとするけど、矢から上がる火柱からは逃れられない。
20発は撃ったか。
小型と中型のマンティスは、いつの間にか数が減ってまばらになり、大型マンティスまでの視界が開けて来た。
「よし。当初の作戦通り、海星と光輝は大型に接近し、攻撃開始だ。陽太と樹は中距離から、俺と小春は遠距離から援護する」
「ラジャ! ほな、海星行くで〜!」
光輝くんはショットガンを構えながら、海星くんを振り返った。
海星くんはコクリと頷いたあと、腰の鞘からダガーを取り出し、走り出す。
光輝くんのショットガンは、他の隊員が使っている物とは少し違って、銃口の上に何かもう一つ筒状の物が取り付けられている。
なんだろう。
スコープでも無さそうだし。
その答えはすぐに分かった。
接近する二人に気づいた大型マンティスは、右手の鎌を真っ直ぐ振り下ろして来た。
「はいは〜い! みなさん! 目つぶって!」
海星くんの前に出た光輝くんは、マンティスの顔めがけて銃を構えた。
次の瞬間、目を閉じていても分かるくらい、激しい光を感じた。
恐る恐る目を開けると、大型マンティスが頭を振り回しながら暴れている。
あの筒状のものは、フラッシュライトだったんだ。
〈スパークルバースト〉と呼ばれる、光輝くんの専用技とのこと。
「攻撃開始します!」
「こちらも援護を開始する!」
樹くんはグレネードランチャーを、陽太さんはサブマシンガンを使ってマンティスを足止めする。
海星くんはダガーを使って、次々とマンティスの身体を割いていく。
「いいか、小春。この陣形の中心は敵に最接近して直接攻撃をする海星だ。次に、海星をサポートする光輝。次に二人を援護する陽太と樹。そして俺たちだ。中心に近づけば近づくほど、敵の攻撃を受けるリスクが高くなり、一つ一つの動きに、より精密さが要求される。逆に言えば、海星はそれだけの集中力を発揮するために、視野も狭くなっている。だから、外にいる者が中心にいる者を徹底的にサポートする必要がある。インカムに流れてくる情報も、俺たち後衛は特に聞き逃しの無いよう留意すべきだ」
冬夜さんはライフルで小型を次々と仕留めながら説明してくれる。
「つまり、俺たち二人が全体の戦況を読んで、メンバーたちがどうすれば戦いやすくなるか、どうすれば彼らの安全を守れるかを常に検討しなければならない」
「なるほど。私たちが一番視野を広くしておかないといけないということですね」
「そうだ。ただし、絶対に忘れてはならないのが、俺たち二人の事を守ってくれる者は、基本的には誰もいないと言うことだ。仲間のことばかり気にかけていては、敵の接近を許したり、背後を取られたりする。後衛だからといって、後ろに下がって孤立すればすぐに狙われる」
敵から一番遠い後衛は、比較的安全なポジションなのかと思っていたけど、今回みたいに敵が複数体いる場合には、自分で自分の身を守らないといけないんだ。
後衛がやられてしまえば、他の四人にも当然負担とリスクが降りかかってしまう。
「それで冬夜さんは、スナイパーライフルではなくて、マークスマンライフルを愛用されているんですか?」
マークスマンライフルとは、簡単に言えば中距離射撃と遠距離狙撃の中間くらいの射程の武器だ。
その射程の長さから、部隊とは別行動となるスナイパーライフルに対して、マークスマンライフルは部隊と共に行動しながらも、遠距離から精密な射撃を行うようなイメージだ。
「本当によく知っているな。スナイパーを使っていた時期もあるが、上級に昇格して一部隊辺りの人数が少人数になるほど、リスクの大きさが許容出来なくなって来た。それに、この六人での部隊では、小春と共に行動するほうが、お互いの生存率は高まるはずだ」
「なるほど。背中を預け合うってやつですね! 胸熱です!」
「調子が戻って来たな。このままどんどん片付けるぞ」
過度な緊張から一時解放され、微笑み合う。
その後は、自分たちの周囲を警戒しながらも、次々と小型・中型を撃破していった。




