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109/112

109.番外編 君の誕生日①

 あれから約七年後。

 六連星の任期が終わって以降、みんなはそれぞれ別々の道を歩んでいた。


 冬夜さんは教員免許を取得し、防衛中学校の理科の教師をしている。

 理論立てて教えるのが上手な冬夜さんの授業は、分かりやすいと人気な上に、女子生徒たちからの熱い視線を浴びていると、新規入隊の子たちが教えてくれた。

  

 光輝くんは福祉大学卒業後、同じ志を持つ人たちと共に支援団体を立ち上げ、代表を務めている。

 家に居場所がない子どもたちの居場所を作ったり、家庭内暴力の相談に乗ったりと、ずっと光輝くんがやりたかったヒーロー活動を行っている。

 

 冬夜さんと光輝くんは、特別隊員として防衛隊にも籍を残していて、月に一度は基地での訓練にも参加している。

 特別隊員制度というのは、万が一再びこの星が侵略された時は、防衛隊経験者のいわゆるOBOGの協力を得られるように備えるものだ。

 


 防衛隊に残った四人はというと、海星くんは研究部に異動になり、日夜デザライトの生成や分析を続けている。

 もちろん私や樹くん、陽太さんも毎日のように、彼の元を訪ねて、デザライト作りに貢献している。


 陽太さんはというと、未来の幹部として期待され、当面の間は後学のために管理部門の方を転々とするらしい。

 今は、人事部長となった私のお父さんの元で修行中だと張り切っておられた。


 樹くんは広報部に異動になり、防衛隊所属のタレントとして、朝の情報番組の料理コーナーを担当したり、アニメ映画のゲスト声優をやったり⋯⋯


 樹くんファンの現役男子高校生シンガーソングライターから楽曲提供を受けたりもしていた。

 意外にも仕事を選んだりせずに、なんでもこなしている。

 大学では家業の事もあって、経営学を学んでいた。

 最近は、黒髪サラサラヘアにしている確率が高くなったかも。


 

 そして最後に、私はと言うと⋯⋯

 企画部内に新設された、『特撮課』というところで働いている。

 

 今日は私が企画したヒーロー番組、『星空戦隊ストレンジャー』の撮影日だ。


「レッドは、もっと自信満々って感じでお願いします! グリーンは子どもたちに優しく声をかけてね〜」


 十代後半〜二十歳前後の少年少女が、剣を振り回し、銃を放ち、次々とエイリアンを倒していく。


 UFOが居なくなった平和な世界でも、ヒーローへの憧れを抱く子どもたちは数知れず。


 私たちが六連星だった頃とは違い、敵役はダミー人形やホログラムだけど、最新の撮影技術や映像技術を駆使すれば、迫力満点の戦闘シーンをお届けできる。


 私が防衛隊に入隊してすぐの頃、訓練用のダミーのティラノ型エイリアンと戦っていた樹くんと海星くん。

 二人に与えてもらったあの感動を、後世にも伝えていきたいと思ったのが、この番組を企画したきっかけだ。

 あとは単純にヒーローオタクの天職だから。

 

 番組の視聴率は上々で、関連グッズの売り上げも好調。

 仕事の面は順調そのものだ。



 そして、プライベートはと言うと⋯⋯


「ほな、第14代目六連星の集結を記念して〜! カンパーイ!」


 この日は月に一度、冬夜さんと光輝くんが訓練に参加する日だったので、夜は近所の居酒屋で集まることになった。

 六つのグラスがカチンと合わさると、一気にあの頃に時間が巻き戻るような気がする。


「そう言えば今日は流星くんは来れなかったの?」 


 隣に座る海星くんは、静かに烏龍茶をごくごく飲んでいる。


「⋯⋯⋯⋯研究⋯⋯⋯⋯忙しい」

 

「そっか。この星の技術は、まだまだ発展途上だもんね」


 流星くんも、あれから防衛隊に正式にスカウトされ、アギル星の技術を活用して、この星の発展に尽くしている。

 それに、研究が進めば、もしかしたら故郷のルーン星を訪ねる事ができるかもしれないからと。


 お酒を飲めない海星くん以外の五人は、各々好きなお酒を注文していく。

 会が進行してきた頃、光輝くんが爆弾を落っことした。


「ほんで、自分らはまだ結婚せぇへんの?」


 光輝くんは、トロンとした目をしながら、テーブルに頬杖をつき、上目遣いで私と樹くんを交互に見てくる。

 

「けっ、結婚〜!?」


 突然飛び出したキーワードに頭の中が大騒ぎになる。

 現在、私は二十四歳で、今月末には二十五歳になる。

 正直、意識したことは何度もある。

 これからも私たちが一緒にいることは、特別言葉にしなくても、共通認識と言う感じもある。

 けど、樹くんがどう思っているか、はっきり確かめたことはないんだよね。


 真剣に考え込んでいると、左隣から熱い視線を感じた。

 樹くんの顔を見ると、ぱちんと目が合ったものの、すぐに目を逸らされる。


「⋯⋯⋯⋯今は、ちょっと」


 樹くんは一言発したあと、ビールが入ったグラスに口をつけた。

 そっか。樹くん的には、今はまだタイミングじゃないんだ。

 ほんのちょびっと、ほんのちょびっとだけ、悲しいような⋯⋯

 吸い寄せられるように手がグラスに伸びて、桃の果実酒をグビグビ飲むと、芳醇な桃の香りと甘さが口に広がる。


「そんな悠長な事で良いのか? 小春は成人したら俺の元へ来るという話だったはずだが」


 冬夜さんも酔いが回っているのか、改ざんされた記憶を呼び覚ましている様子。

 きっと、恋人にしたいランキングの時の話をしているんだよね。


「それは冬夜くんの記憶違いだ! しかし、人生には三つの坂がある。それは、上り坂、下り坂、そして『まさか』だ! 僕はみんなには悔いのない人生を送って欲しい!」


 結婚式のスピーチみたいな話を堂々とし始める陽太さん。

 このお方も相当酔いが回っているご様子。


 その後も、14代目六連星の飲み会は盛り上がり、名残り惜しい気持ちになる中、お開きとなった。


 

 お店を出て、それぞれ別の方向へ分かれていくと、現実に戻った感覚がして、少し寂しさを感じる。


「今日の小春ちゃん、飲むペースが速くなかった?」


 樹くんは心配そうな表情で私の腕をつかむ。


「え? そうかなぁ。あんまり自分では分からなかったけど⋯⋯後は寮に帰って寝るだけだし、大丈夫! じゃあまたね!」


 安心してよと、腕をほどいて歩き出す。

 防衛隊の寮に住んでいるのは、今となっては私だけだ。

 海星くんは実家に帰って、陽太さん、光輝くん、樹くんは自分のマンションを買ったり借りたりしている。


 11月の夜の空気は、ひんやりと澄みきっていて、お酒で熱くなった身体が冷やされて気持ちいい。 

 星空を見上げながら歩いていると、誰かとぶつかってしまった。


「あっ、すみません! お怪我はありませんか?」

 

 相手の人は何も言わずに、その場でじっと立ち尽くしている。

 どうしよう。怒らせちゃったよね。


「ちょっと、何やってんの。酔っぱらい」


 その声は何故か正面からではなく、後ろから聞こえてきた。

 

「え? 瞬間移動?」


 声の方を振り返ると、そこには怒った様子の樹くんが立っていた。


「あ、ぶつかっちゃったのは樹くんだったんだ。ごめんね」

 

 もう一度頭をぺこりと下げると、水が入ったペットボトルをおでこに当てられた。


「冷たっ! 冷たいよ!」


 両手を使って振り払おうとするも、ピッタリとくっつけられて逃れられない。


「ちょっとは酔いが醒めた? 誰にぶつかったのか確認してみなよ」


 樹くんはあごでクイッと先ほどまでの進行方向を指す。


「え⋯⋯? あー。これはこれは⋯⋯」


 私が先ほどまで謝罪していた相手は、電柱に貼られたポスターだった。

 

「危なっかしくて見守っといて正解だった。ほら、帰るよ」

 

 樹くんに手を引かれ、先ほどとは逆方向に向かって歩いていく。

 なんだ。まださっきの居酒屋から、電柱二本分くらいしか進んでなかったんだ。


 樹くんのマンションの方が近いからと、その日は泊めてもらうことにした。

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