表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/112

108.番外編 アイドルコラボpart2⑤

 それから二ヶ月ほど経過したある日。

 この日は久しぶりの休日だったので、樹くんのお部屋でまったり過ごすことにした。

 ソファに並んで座り、彼の肩に頭を預けながら考えるのは、明日からのフローラルブーケとの合同練習のこと。


 ゆりにゃんたちフローラルブーケの皆さんと最後に会ったのは、高級料亭での親睦会以来。


 あの会では私自身は余りメンバーと話す機会は無かったものの、UFOに乗り込んだあと、みんなに献涙を呼びかけてくれたのは、他でもないフローラルブーケのみんな。


 湧き上がってくるのは、言葉では言い表せないほどの感謝の気持ちと、今回、自分が足を引っ張るのではないかという罪悪感だ。


「フローラルブーケとのコラボ、上手く行くかなぁ? バク転が成功した達成感で、すっかり忘れてたけど、私って重度の音痴だから⋯⋯」


 せっかくみんなで一つのものを作り上げるのに、完成度が下がったり、最悪、炎上したりしたら⋯⋯


「小春ちゃんがプロのアイドルだったら、厳しいこと言われる可能性も否定できないけど、ヒーローとしてコラボに参加してるんだから大丈夫。歌唱力に爆弾を抱えてることは、プロデューサーさんにも報告出来たし」


 樹くんは慰めるみたいに、頭を撫でてくれる。

 優しい眼差しを向けられているけど、結構はっきりとダメ出しされたような⋯⋯

 

「小春ちゃんが一生懸命頑張ってるのは、みんな分かってる。それに、俺の目には小春ちゃんが一番輝いて見えるから」


 キラキラの笑顔の緑川樹氏⋯⋯この人はいったい、いつからこういう甘い言葉をさらりと言うようになったのか。

 甘いお顔立ちと、辛口なトークでバランスをとっていたのに、甘×甘になってしまったら、心臓がもたない。

 

 とはいえ、樹くんが一番のファンでいてくれることが、何よりも勇気を与えてくれた。



 翌日、いつも六人での練習に使用していたスタジオよりも、さらに広い部屋で十二人が一堂に会す。


「みなさん、改めまして、先日は献涙の呼びかけにご協力頂きありがとうございました」


 フローラルブーケのみなさんに、感謝の気持ちを込めて頭を下げる。


「そんな〜! 感謝したいのはこっちだよ〜! こはにゃん、帰ってこれて良かったね」


 ゆりにゃんは、笑顔でぎゅーっとハグしてくれる。

 ふわふわの女の子に抱きしめられて、いい香りもするし、心が安らぐ。

 他のメンバーも口々に感謝の言葉をくれて、胸がジーンと熱くなる。


 そんな最中、ゆりにゃんはハグした姿勢のまま、耳元でコソコソ話を始めた。


「こはにゃんと樹くん、あれほどまでにラブラブだったとは知らずに、ちょっかいかけちゃってごめんね。もう顔がダントツで好みだったんだよね。樹くん、私の誘惑にも全然なびかないし、こはにゃん一筋の良い男だっ♪」


 ゆりにゃんはそう言って身体を離し、ニコッと微笑む。

 ゆりにゃんも、私のキラスタの誤爆を見ていたのかも。

  

 そして彼女はというと、現在、年下のイケメンアイドルとの熱愛が噂されている。

 

「ゆりにゃんもお幸せに!」


 みんなには聞こえないくらいの小声で祝福すると、ゆりにゃんは嬉しそうにうなづいた。


 

 十二人での合同練習は滞りなく進み、いよいよ本番である、音楽番組の撮影を迎えることとなった。

 ステージの周りには、抽選に参加してくれ、当たりを引いたお客さん達が待機してくれている。


 フローラルブーケの六人は、ギンガムチェックの制服風の衣装で、ミニスカートの裾がふわっと膨らんでいる可愛らしい格好。

 対して、私たち六連星は戦闘服の騎士風デザインの別バージョンで、男性陣はスラックス、私はキュロットスカート姿だ。

 戦闘服とは素材が違って薄くて柔らかいから、コスプレ感もあってテンションが上がる。


 私たちが使うステージは、天井が高くって、背景にはたくさんの電飾が使われている。

 カラフルなライトに上から下から照らされ、緊張しているのも相まって、身体が焼かれるように熱くなる。


「うわ〜緊張するね! 結局、本番までずっと流星くんのターンだったね!」


 隣でスタンバイ中の流星くんは、怠そうに首筋を掻いている。


「本当に俺が出て大丈夫なのかよ。客たちにバレて責められるのは、ごめんだからな」


 オールバックにヘアセットした流星くんは、腕組みをしながら表情を強ばらせる。


 あれから海星くんの風邪はすぐに治ったらしいけど、途中から練習に参加しても足を引っ張るからと、辞退したらしい。


「確かに⋯⋯海星くんのファンのみなさんなら気づくかも⋯⋯けど、安心して! 万が一叱られちゃったら、一緒に謝ってあげるから!」


「そんな単純な話かよ」


 海星くんらしからぬ、怖い表情の流星くん。


 いよいよ撮影が始まると案内があり、会話を中断して前を向くと、私とゆりにゃんの間に、後ろからアトモちゃんが歩いて来た。


 リハーサルでびっくりしたんだけど、アトモちゃんの中の人、すっごくいい動きをしてるんだよね。

 ダンス用アトモちゃんは、動きやすいように素材とか、腕の長さとかが改良されているみたいだけど、中身はさすがに樺山さん⋯⋯じゃないよね?


 曲が始まると、客席から歓声が上がる。

 アップテンポの曲に、繰り返される隊形移動。

 マイクをしっかり握りしめ、笑顔で歌う。


 フローラルブーケのみんなは、さすがプロのアイドル。

 振り付けと振り付けの間にも、ぷりっとしていると言うか、小さな揺れがあって、スカートやリボンの躍動感が目立つ。

 

 そして樹くんは、サビ前の盛り上がりパートをまるまるソロで歌う。

 安定の歌唱力に、圧倒的王子様感。

 パフォーマンスする側の私まで鼻血が出そう。


 二度目のサビの終わり。  

 フローラルブーケの六人は三人ずつに分かれて、ステージの左右で可愛く決めポーズをした。

 その間、私たち六人とアトモちゃんは横一列に並び、一斉にバク転を決める。


 きれいに着地したところで、黄色い歓声と雄叫びが聞こえてくる。

 客席も最高に盛り上がってくれて、私たちのコラボは大成功に終わった。


 達成感と感動で胸を焦がしながら、ステージを降りて、客席のみなさんの方へと向かう。

 柵越しだし、時間は限られているけど、六連星ファンの方々との交流会の場が持たれた。


「最後のバク転、かっこよすぎ〜!」


「こうキング〜投げキッスして〜!」


「冬夜様〜! お疲れさまでした〜!」


「陽太くん! こっち見て〜!」


「いつきゅん、歌上手〜!」


「こはちゃん、感動をありがとうでござる〜!」



 みなさんの声援に応えながら、ふと違和感を覚える。

 海星くんファンのみなさんが、今日は静かなような⋯⋯

 戸惑う様子の彼女たちの姿に、流星くんは気まずそうに苦笑いしている。


 そこに、アトモちゃんが両手を振りながら登場した。


「わー! アトモちゃーん!」


 国民的人気マスコットキャラの座を手に入れたアトモちゃんは、声援を受けながら、小走りで私たちの前に立った。

 そして、あろうことか自ら頭を外してしまう。


「ぎゃー! 中身が見えちゃう!」


 慌てて隠そうと前に出ると、その正体は驚きの人物だった。


「え! 海星くん!?」


 観客のみなさんからも戸惑いの声が上がる。


「え? アトモちゃんの方が海星くんだよね? ってことは、さっきまでパフォーマンスしていたのはそっくりさん?」


 会場がざわついて来たところで、海星くんから種明かしがあった。


「⋯⋯双子の弟の流星⋯⋯みんなに自慢したかった⋯⋯騙してごめんなさい」


 海星くんはブルーのアイテムを身に着けた、『ダイバー』と呼ばれるファンのみなさんに向かって頭を下げた。


 呆気に取られていた流星くんも、慌てて海星くんの隣に並んでぺこりと頭を下げる。

 しばし沈黙が流れ、このまま会場が不穏な空気に包まれてしまうのかと思いきや⋯⋯


「なんだ〜! 今日の海星くん、何か雰囲気違うなーと思って、心配しちゃった!」


「弟の流星くんもかっこいい〜!」


「ほんわか海星くんと、キリッと流星くん、どっちも性癖に刺さる〜! 双子で推す!」


 ダイバーのみなさんは、二人を責めるどころか、歓迎ムードだ。

 元々が謎の多い存在だった海星くんだから、ファンの皆さんの適応力も高いのかもしれない。



「ほんま、この兄弟はハラハラさせてくれるで!」


 光輝くんは安心したように笑いながら、二人の肩に腕を回す。


「最悪、謝罪会見も覚悟したが、丸く収まったな」


 冬夜さんは、陽太さんの肩をポンと叩く。


「あれ? もしかして、みなさんも気がついていたんですか?」


 その反応から察するに、こうなることも予測していたような⋯⋯


「ダンスレッスン初日から様子がおかしかったし。俺たちも長い付き合いだから」


 樹くんはホッとしたように笑った後、その輪に加わる。


「防衛隊の六連星は元来、六人で1チームだが、夜空に輝くプレアデス星団は6〜8個の星が見えるそうだ。この際、流星も加入するのはどうだろうか!?」


 陽太さんの提案の影響か、それ以降も海星くんと流星くんは、入れ替わったり、同時に現れたりと、新たな驚きを提供してくれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ