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107.番外編 アイドルコラボpart2④

 休憩時間が終わり、サビパートの練習も大詰めといったところで、シナモンさんは再びパンパンと手を叩いた。


「ねぇ、みんな。サビの終わりの部分なんだけど、アクロバットとかやってみない? 誰かできる人、いる〜?」


 シナモンさんはパフォーマンスに物足りなさを感じたのか、急に大胆な提案をしてきた。


「防衛隊の隊員なら、大多数のメンバーができるはずです。もちろん、僕もです!」


 陽太さんは拳を胸に当てたあと、少し前に出ると、くるりとバク転して見せた。

 着地後のポーズは指先まできれいに伸びていて、まるで体操選手みたい。


「俺も出来ま〜す〜!」


 そう言って光輝くんも何の躊躇もなく、あっさりと回転した。


「俺も出来ます」


 シナモンさんに見つめられた冬夜さんも、その場で華麗にバク転を決める。

 このお方は背が高いから、かなり迫力があるなぁ。


「えー! みなさん凄すぎます! そんな簡単にクルッといけちゃうもんなんですかー!?」


 常人の身体能力と違うのは頭では理解しているけど、こんなでんぐり返し並みに当たり前のようにできるなんて⋯⋯


「僕も出来ます。バク転が出来ない隊員は先輩からイジられて面倒な事になりますから。小中学生の頃の悪習ってやつです」


 樹くんも、なんてことない様子でくるりと回転してみせた。

 Tシャツの裾から、ちらりと見えるお腹。

 割れた腹筋がかっこいい。かっこよすぎる⋯⋯

 

 どうやらこの体育会系組織の子どもたちの間では、一人前の隊員として認められるためには、バク転が出来ることが一つの暗黙のルールになっていたらしい。


 ということは、本物の海星くんなら間違いなく出来るはず。

 しかし、今の海星くんは、流星くんだ。

 この窮地、彼はどう乗り越えるのか⋯⋯


 流星くんはみんなに見守られる中、ふーっと小さくため息を吐く。

 そして、一瞬しゃがみ込むようにして勢いをつけ、後ろに飛んでくるりと回転した。


「なんで〜! りゅー⋯⋯じゃなくて海星くんも出来るの〜!?」 

 

 まさか、アギル星人の間でもバク転が流行っていたとか?


「みんな素晴らしい! こはちゃんは出来ないの〜?」


 シナモン先生は、腕を組みながら、右手をあごに当てる。

 右脚が内股になっていて、つま先を床につけたセクシーなポーズだ。


「どうでしょう? やった事ないですけど、やりたいですね! すっごく、やりたいです!」


 六人揃ってバク転が決まったら、かっこよすぎやしないか?


 しかし、知識もなく、いきなりやる勇気は持てず⋯⋯


 ダンスレッスンが終わったあとは、シナモンさんは次の予定があるからと退出され、六人でのバク転レッスンに切り替わった。


「一番良くないのが、恐怖心で勢いがつかずに回転が不十分になることだ。小春の身体能力なら間違いなく出来る。自信を持て」 


 早速、冬夜さんはアドバイスをくれた。


「手首の柔軟やってからやりや〜そんで、先に立った状態からブリッジする練習がいいかも!」


 光輝くんは、余裕そうに後ろ向きに倒れて、その姿勢のままお散歩している。 

 ほう。それなら怖くないかも。


「小春くんは側転はできるんだろう? だったら『マカコ』の練習をするのはどうだろうか? そこから徐々に角度を変えていけば、バク転が完成しているはずだ!」


 陽太さんが言うマカコと言うのは、アクロバットの技の一つで、座った姿勢から片手を大きく後ろに振り回し、その勢いで回転する技なのだそう。

 空中に浮いている時間が無いから、初心者でも比較的安全とのこと。


「⋯⋯⋯⋯マット⋯⋯⋯⋯借りてきた」


 流星くんと樹くんは、安全対策用のフカフカのマットを借りてきてくれた。

 濃い青色のマットは、膝上くらいの厚みだから、クッション性はかなり高そう。


 この場で流星くんは、澄ました顔をして海星くんの喋り方を真似してるんだと思うと、思わずニヤけてしまいそうになる。

  

 そこからも練習は続き⋯⋯


「そうだ、小春くん! その調子だ!」


「後ろに飛ぶイメージでなぁ!」


「腰を反らして、膝は伸ばすんだ」


「⋯⋯⋯⋯いけるぞ」


「なんかあったら、絶対に支えるから。頑張って」


 流石はヒーロー集団。

 みなさん、夢を叶えようと努力する人間への応援と助力を惜しまない。

 いつしか全員が真剣な表情で、私のバク転を成功させるという一つの目標に向かって突き進んでいた。


 樹くんはマットの上に立って、私の背中を支えて、くるんと回るのを補助してくれる。

 

「そろそろ一人で行けるかもです。樹くん、やばかったら助けてね」


 その言葉に樹くんはコクリとうなづいた。

 

 上がった息を整え、彼のサポートを信じて、膝を曲げる。

 腕を振り上げ、腰を反らして飛び上がり、手を床について、くるりと回転し、脚からすっと着地した。


「小春ちゃん! 今、俺、全然触ってないから! 自分の力で出来たじゃん!」


 樹くんは自分のことのように喜んで、両手を上げてハイタッチしてくれた。

 そんな彼を見て私もテンションがうなぎ登りになり、その場で何度もジャンプする。


「やった〜! 出来た〜! これで本番は六人全員でバク転が出来ますね!」


 笑顔のみんなと順番にハイタッチをして、喜びを分かち合う。


「今回の特訓を通して、この六人の結束もさらに高まった。このまま突き進もう!」


 陽太さんが天井に向かって拳を突き上げると、私たちも同じように拳を突き上げた。

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