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105.番外編 アイドルコラボpart2②

 アイドルグループ、フローラルブーケとのコラボレーションが決まったことに刺激を受け、私たち六人はカラオケボックスにやって来た。


 隣の部屋から楽しそうな歌声とタンバリンの音が聞こえてきて、室内のモニターには、人気アーティストのインタビューが流れている。


「なんだか、いつもこの六人でいたのに、こういう場所に遊びに来ると、一気に新鮮味を感じますね」


 私服姿の六人が基地の外で集まるだなんて、ただでさえ、そう多くない機会だというのに、こんなワクワクする遊び場に一緒に来られるなんて。


「ほんまに! UFOに奪われた青春を取り戻さな! ほな最初は当然、この曲から!」


 光輝くんがタッチパネルを操作して再生した曲は、我らのテーマソング『BRIGHT FACT』

 マイクが二本しかないので、光輝くんと陽太さんが持つことに。


「いま、この瞬間から、君はヒーローだ〜!」


「ハイハイ! ハイハイ!」


 全力で楽しむ二人の歌声に合いの手を入れる。

 それに対して、冬夜さん、樹くんは付き合い程度の手拍子を、海星くんはいつもの無表情でマラカスを振る。


 温度差がありながらも、最初の曲は終了した。


「陽太さんも、光輝くんも、歌がとっても上手なんですね! 今回のコラボ、相当期待できそうです!」


 身体能力の高さから察するに、ダンスは問題ないだろうし、顔立ちも整っていて、更に歌も上手だとは。


「それほどでも〜! んじゃあ、次は小春ちゃん!」


 隣に座る光輝くんは、さっとマイクを渡してくれた。


「小春くんは何を歌うんだ? やはり女性アーティストの曲か?」


 陽太さんは満面の笑みでタッチパネルを譲ってくれる。

 

「そうですね⋯⋯せっかくなので、フローラルブーケの曲にします!」


 とは言え、ここは慎重に曲をチョイスしなければならない局面だ。

 お向かいに座る樹くんの表情をちらりと盗み見ると、彼は手に持ったオレンジジュースのコップを見つめながら、ストローでちゅーっと吸っていた。

 

 ゴリゴリのラブソングだと、樹くんの事を思って歌っているみたいな空気になりかねない。

 それは恥ずかしいので、選ぶべきジャンルは⋯⋯⋯⋯卒業ソングだ。


 落ち着いたテンポのピアノの伴奏が流れ、曲の歌い出しがやってくる。


「桜舞う季節〜私たちは別々の道を行くけれど〜心はいつも一つ〜どうか、忘れないでね〜」


 人前でこんな風に本気で歌うのなんて、いつぶりだろうか。

 センターを任されたからには、しっかりと歌い上げないと。


 卒業ソングらしく、爽やかで温かな雰囲気のメロディーが続き、みんなは手拍子をしてくれている。


 曲も終盤にさしかかった頃、これまでずっと画面を凝視していたものの、ふとみんなの反応が気になって視線を周囲に向ける。

 すると、真剣に歌う私をよそに、樹くんはギョッとした顔をしていて、陽太さん、冬夜さん、光輝くんは子どもの発表会を見守るような目をしている。


 海星くんは首をかしげすぎて、頭がもげてしまいそうだ。


「⋯⋯あれ? あんまりよくなかったですか? 下手っぴでした?」


 曲が終わり、温かな拍手を頂いたものの、みんなの反応に不安が募る。


「うーん⋯⋯下手ってことはないで? ただ⋯⋯音程が元気に暴れてるというか⋯⋯」


「本来の音に、あと一歩届かないのが惜しい」


「⋯⋯⋯⋯個性的」

 

「何も気にすることはない! これも小春くんの持ち味だ!」


「はぁ⋯⋯これから特訓しなきゃね」


 みんなの反応を要約すると、はっきり言って下手くそだったと。


 続いて、反対隣にいる冬夜さんにマイクを回すと、彼は男性アーティストのバラードを歌った。

 アコースティックギターの音色と、冬夜さんの低くて柔らかい声に、心が癒される。


「安心して聴いていられますね。眠たい時に聴いたら、いい夢見れそう⋯⋯」


 その後、海星くんにマイクが渡り、彼はスローテンポの、ほのぼの系ポップスを可愛く歌った。


「海星くんからしか摂取できない栄養がある⋯⋯」


 そして、いよいよお待ちかねの樹くんの番。

 意外なことに、彼が選んだのは男性ボーカルグループのダンスナンバーだった。


 炭酸飲料のCMにも起用されていた、アップテンポの爽やかな曲。

 樹くんの歌声は高音パートも伸びやかで、爽快に響くようだった。

 

「えー!? 樹くん、どうしてそんなに上手なの!? 知らなかった! 本物クラスに上手いなんて、知らなかった!」


 幼い頃から楽器に触れてきたからとか?

 それにしても、こんな特技もあったとは、かっこよすぎやしないか?

 

「丁度いいじゃないか。樹が小春に音程の取り方を教えればいい」


 そんな提案をしたのは冬夜さんだ。


「そりゃ、歌が上手い人に教えて貰えるのはありがたいですけど、そもそも練習でどうにかなるものなんですか? 私、自分が音程を外してる事にも気がつかないのに。それよりもセンターを交代してもらえた方が⋯⋯」


 無自覚音痴につける薬なんて、果たしてあるのだろうか。

 樹くんが中心になった方が、パフォーマンスとしても完成度が上がる気がするんだけど⋯⋯


「教えたいのは山々ですけど、俺も素人なんで難しいと思いますよ。実際にコラボが始まってから、プロのトレーナーをつけてもらった方が確実でしょうね。まぁ、練習に付き合うくらいなら、いくらでも」


 樹くんは再びオレンジジュースを吸いながら、ぶっきらぼうに言い放つ。

 重度の音痴の烙印を押された気分だけど、練習には付き合ってくれるんだ。


「ありがとう、樹くん。私、頑張るよ!」


 音痴の歌を延々と聞かされるなんて、苦行のはずなのに。


 彼の発言からは愛情をビンビン感じられる。

 それは、他の四人もそうだったみたいで、室内が温かい空気に包まれる。


「とは言え、練習に付き合うのは全員ですから。じゃあ、小春ちゃん。頑張って」


 照れたような表情でマイクを渡され、胸がきゅっと締めつけられる。


「はい、私、桜坂小春は、頂いた機会を最大限に活かし、センターに相応しい歌唱力を身につけて見せます!」


 第13代目六連星のテーマソング『エイリアンなんか怖くない』を熱唱すると、室内が爆笑の渦に包まれた。

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