103.世界がキミに夢見ている
その日の夜。
UFO帰還後の殿宮を見ようと、多くの人が押し寄せた。
そして、UFO帰還記念日と制定された今日、急遽、花火大会が開催されることになった。
今まではUFOがいたから、花火を爆撃と間違えられては困るからと、ここらの地域では打ち上げ禁止だったんだよね。
打ち上げ場所は防衛隊基地周辺で、花火師のみなさんがすでに集結している。
そして、私たち六人はというと、特別功労賞として、防衛隊基地の屋上を貸し切らせてもらっている。
星と月が美しい夜、大好きな彼の隣で、空を見上げる。
「樹くん、花火だって! 私、生で見るのは初めて!」
「俺も、実家の辺りは花火打ち上げ禁止区域だったから、生で見るのは初めてかも。小春ちゃんのおかげだね」
優しく微笑まれ、触れ合う肩から体温が伝わってくると、彼の横に戻って来られたのだと実感できる。
「もうすぐ19時だ!」
陽太さんの声が聞こえて、大慌てでレジャーシートの上に寝転がる。
シートの下にマットが敷かれているから、コンクリートのゴツゴツを感じることもなく、快適そのものだ。
「基地の屋上に寝転がって、空が見えるとは、不思議な気分だな」
冬夜さんは、しみじみといった様子でつぶやく。
「僕たちが初めてここに来たときには、UFOに覆われていたから」
「殿宮の空って、こんなにも、きれいやったんやなぁ」
「⋯⋯⋯⋯清々しい」
陽太さん、光輝くん、海星くんもそれぞれの感想を語る。
これが私たちが力を合わせて守った、この街の空なんだ。
「こんなにも嬉しい日はないですよ。本当に夢みたい⋯⋯」
殿宮の空は、どこまでも高くて、薄くて小さな雲が月を覆うと、一瞬、地上に影ができる。
それは雲があって、その向こうに月があるからだ。
「ねぇ、みなさん。せっかくなので、今この瞬間を写真に撮りません?」
スマホのインカメラを起動し、寝転がったまま短い腕を思い切り伸ばす。
「小春ちゃんしか映ってないけど⋯⋯」
隣にいた樹くんは助け舟を出そうと、私の手からスマホを受け取った。
樹くんの方が腕が長いから、おかげさまでより広い範囲が写るようになる。
「みんな〜もっとくっつかな写らんで!」
「これで全員映るだろうか?」
「このアングルでの撮影は初めてだな」
「⋯⋯⋯⋯青春の1ページ」
寝転がったまま、円になって頭をくっつけて、カメラに収まる。
「あっ! 俺の顔切れてるやん!」
「これ、結構難しいんだから。文句言うなら光輝くんがやってよ」
今度は光輝くんにスマホが渡り、撮影が行われていく。
「どうしても何人か、口元は切れるけど、楽しそうちゃう?」
光輝くんから帰って来たスマホを見ると、いくつもの写真たちの中に、楽しそうなみんなが映っていた。
「ありがとうございます。この写真は、一生の宝物ですね」
スマホを胸に抱いて、空を見上げる。
すると、銃声と笛のような音が鳴ったあと、夜空に花火がぱっと光った。
花が咲くように開いて、すぐに消えていく。
「わ! 花火だー! 玉屋〜!」
黄色、オレンジ、ピンク、緑、赤に青に紫色。
大輪の花のようなものや、柳のように垂れ下がってくるもの。
小さな花火がパチパチと光るものや、中にはハート型まで。
寝転びながら見上げる花火の美しさと迫力に、心が奪われる。
うっとりとした気分で見つめていると、隣にいた樹くんが少し動くのが分かった。
何かと思って、彼の顔を見ると、ちゅっと盗まれるようにキスされる。
あー!っと口パクで指摘したあと、お返しにちゅっとキスをして、照れたように微笑み合う。
こんなところでいちゃついてるのはバカップルだけど、今夜くらいは許して欲しい。
この人の隣にいられる喜びを胸に抱きながら、どこまでも高く深い夜空を花火が彩るのを眺めていた。
◆
「こうしてこの星は平和を取り戻した。あれから20年経った今でも、UFOは一度も目撃されておらず、エイリアンの恐怖におびえて暮らす必要もなくなった。それは一人の勇敢な少女と、クリスタルフロッグが僕たちを守ってくれたからだ! この度、防衛隊 レンジャー本部 未確認生物飼育課に配属されたキミたちには、クリスタルフロッグのお世話係を引き受けてもらう。いつか迫りくる脅威からこの星を守れるよう、どうか最後まで責務を全うしてほしい。『世界がキミに夢見ている!』」
最後にして伝説である、第14代目六連星レッドの赤木陽太は、白い歯を見せながら、若者たちへエールを送ったのだった。
【完結】
ここまでお読み頂きありがとうございました!
本編はこれにて完結です!
この後、後日譚9話(アイドルコラボpart2、君の誕生日)を更新いたしますので、ぜひ最後までお楽しみください!
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