101.ひっくり返る
UFOから基地を見下ろすと、屋上には馬鹿でかいカエルがいた。
透き通った身体は、宝石みたいにキラキラ輝いていて、まん丸な目で、こちらを見上げている。
うそ。あの大きさ、大型トラックくらいはありそうだけど。
あれが五万台? いつの間にそんな大量に繁殖していたんだろう。
いや、そんな事を考えている場合じゃない。
流星くんと合流しないと。
大急ぎで史料室に戻ると、アギル星人たちが道を塞いでいた。
「ピモピモ! #●$△〜!」
何を言ってるかよくわからないけど、怒っているみたい。
「小春! これを使え!」
物陰から流星くんの声がしたかと思ったら、ずいぶんと古い型の防衛隊のブレードが飛んできた。
飛び上がってキャッチして、乱暴に振り回す。
「ほら! 道を開けないと、斬り刻むから!」
丸腰のアギル星人に、もはや私を止める術はなく、皆が道を開けるように捌けていく。
「流星くん! お願い! 一緒に帰ろう!」
流星くんの腕を掴み、思い切り体重をかけて引っ張る。
「おい、どこに行く気だ。地上への転送装置はこっちだろ?」
流星くんは私の腕を引っ張り返して走り出した。
流星くんも一緒に逃げてくれるんだ。
「流星くん! ありがとう! きっとみんな、びっくり大喜びだよ! 地上には流星くんの仲間がたくさんいるよ! 楽しくて、きれいな世界が広がっているんだから!」
転送装置があった部屋に逃げ込んで、内側からロックをかける。
「転送開始10秒前!」
いくつかのボタンを操作した流星くんは、こちらに向かって走ってくる。
「5・4・3・2・1!」
稲光が走ったような光に包まれ、まぶしさに目を閉じたあと、目を開ける。
そこは、古い木造の天井の低い部屋だった。
帰ってこれた。
上守城に帰ってこれたんだ⋯⋯
流星くんの手を引いて、階段を駆け下りる。
城の周囲には、すでに大量のエイリアンで埋め尽くされていた。
「ライオン型に、グリズリー型。あれは⋯⋯マンモス型!?」
凶暴なエイリアンたちのオンパレードに、アギル側の必死さが伺える。
お城の周囲の公園には、既に大量のクリスタルフロッグが待機していた。
「デストロイヤー! 砲撃開始〜!」
米谷さんの声につき従い、カエルたちは大きな口を開けた。
口の中に光の粒子が集まっていき、やがて巨大な光の玉になる。
「ケロケロケーーーー!」
カエル集団たちが鳴き声をあげると、火の玉は丸太のように太い光線となって、目の前のエイリアンたちを焼き払った。
「すごい! 君たち、こんなに強かったんだ!!」
次々と送り込まれるエイリアンをカエル軍団たちは一掃していく。
「よ〜し! 次は、UFOに向かって砲撃だ〜!」
そのかけ声に、クリスタルフロッグたちは再び大きな口を開けた。
至るところから光線が放たれ、UFOの表面が焦げて、白い煙が上がり始めた。
「うそー! 効いてる! 効いてるよ! ねぇ! 流星くん!」
隣で口をぽかんと開けて、UFOを見上げている流星くんの肩を揺さぶる。
「あのアギルが、やられるのか⋯⋯?」
もしかしたら、流星くんは複雑な気持ちなのかな。
さらわれたとは言え、ずっとあのUFOで暮らして来たんだから。
何度か光線を浴びせ、表面に空いた穴から黒い煙をあげたUFOは、距離を取るように浮上していく。
山の際から本物の空が姿を現し、本物の太陽の光が差し込んでくる。
これ以上は分が悪いと理解したのか、UFOは遥か彼方へと消えていった。
「UFOが! UFOが帰って行ったよ!!」
殿宮県中の人が、歓喜の声を上げているのか、地響きのような音が聞こえてくる。
え? 本当に終わったの? こんなにも呆気なく?
本当にクリスタルフロッグがひっくり返してくれた。
「小春ちゃん! 小春ちゃん!」
ずっと恋い焦がれた声が聞こえてきて、考えるよりも早く走り出す。
「樹くん! 樹くん!」
両手を広げる彼に、思い切り飛びかかると、ものすごい勢いがついていたせいで、二人して地面に倒れ込んでしまった。
「樹くん! 会いたかった! 会いたかったよ!」
頭を抱えるようにして、思い切り頬ずりする。
「小春ちゃん、お帰り。俺も会いたかったよ」
じゃれる犬と飼い主みたいに、抱き合いながら、ゴロゴロと地面を転がり、思う存分にいちゃついていると、笑顔のみんなに見下されている事に気がついた。
陽太さん、冬夜さん、光輝くん、そして海星くん。
海星くんは、私の顔を見てニコッとしたあと、流星くんの元に歩いていった。
「⋯⋯⋯⋯お帰り、流星⋯⋯⋯⋯俺たちは⋯⋯⋯⋯家族」
海星くんが流星くんをぎゅっとハグすると、流星くんは感極まったのか、泣き出してしまった。




