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18 祝福

 一人、非常に満足顔のケインと、呆然とした顔の宰相、ブライアン、レイチェルを残し、謁見は終了した。


全員が、謁見の間から控室に戻った。


「「「何が起こった(んだ)の。」」」

 三人は控室で、呆然とした。


『俺は、なんで伯爵になったんだ。』

ブライアンが心の中で呟いた。


『公爵家に入婿?』

 宰相は、自分の身に起こったことを考えた。


『えっと、王に公爵家の継承許可を貰って、その後、ケイン様が私の花婿になって。』

 私は、ハッとケインを見た。


「「花婿。」」

 宰相の父と私は、同時に叫んでいた。


「呼びましたか、レイチェル。」

満面の笑みでケインは振り返ると、レイチェルの腰を抱きかかえた。

 

「それでは、謁見も終わりましたので、馬車に乗って、屋敷に戻りましょうか、

レイチェル。」

 ケインはさりげなく、私の手をとると、手の甲にキスをした。


 私の思考は、ここでまたフリーズする。


『えっ、手にキスって、公衆の面前で・・・。』

 フリーズしているレイチェルをお姫様抱っこすると、


「それでは、また後日、お義父様。」

 ケインは、宰相に微笑んだ。


「お義父様?!」

 宰相は、呆然としていた。


「じゃ、先に行く、ブライアン伯爵。」


「あっ、あああー・・・は・く・しゃ・く・だとぉーーーー。」

 ブライアンは、その場で叫んでいた。


 ケインは呆けている一人と、叫んでいる一人を後に残すと、待機させている馬車に向かった。


 途中、何人かの令嬢や貴族とすれ違うが、ケインは全て、無視する。


「馬車を出してくれ。」

ケインは馬車にレイチェルを抱いて乗ると、屋敷に向け、馬車を出した。


『これで、当分レイチェルと二人きりだ。

行きは誘惑しようとしたが、素直なレイチェルは、本当に安心しきった顔で眠てしまい、さすがに何も出来なかった。』


馬車のガタゴトという音で、私は我に返った。


「あれ私、どうやって馬車に乗ったんでしょうか?」


「王宮に、用事でもありましたか?」


「いえ、用事はありませんが、あのーですね。」

 

「なにか、レイチェル。」

 ケインはニッコリ微笑んだ。


「あの、どうかその、膝の上から、降ろして、いただけないでしょうか。」


その時、道の轍に馬車の車輪が跳ね、大きく座席が揺れた。


「わっ。」

 私は思わず、ケインに抱き付いていた。


「揺れて危ないですから、このままの方が安全ですよ。」

 ケインはさらりと言うと、さっきより、強くレイチェルを抱きしめた。


『危険なのは、私の心臓です。ドキドキして、どうにか、なりそうです。』

 私は口をパクパクしながら、ケインを真っ赤になった顔で見つめる。


「レイチェル。」

 ケインはそう囁くと、私の顔に近づいて来た。


『えっ、何、なに、だめー。』

 私は思わず、ケインの顔を手で押さえていた。


 ケインは口を開けると、私の手を舐める。


『キャーッ、なっなっ・・・なにぃーーー。』


 私は慌てて、手を引っ込めた。


 また、ケインの顔が近づいて来る。


『だめぇー、なんだか、わかんないけど、ダメー。』


 ガダン


 ピシャ


 馬車が止まった。


 前方にいた、御者が降りる音がした。


『助かった。』


「チッ。」

 ケインから舌打ちの音がした。


「えっ。」

 私は思わず、ケインの顔を見る。


 そこには、ケインの美麗顔のドアップが。


『だめぇー、何か聞くなんて、むりぃー。』


 御者がドアを開けてくれた。


 私は、ケインの膝から飛び降りるようにして降りると、馬車を飛び出した。


 馬車から出ると、メイがいた。


「メイィー。」

 私は、メイに抱き付いた。


「どうしました、お嬢様。」

 メイが心配顔で聞いてくる。


 その時、後から降りたケインが、メイの肩にあった私の手をとると、

そっと、その手に口づける。


「それでは、夕食で。」

 ケインは、そのまま正面玄関に入っていった。


 私は真っ赤になって、その場で硬直してしまった。


「お嬢様、お・じょ・う・さ・ま。」

 メイの何度目かの呼びかけに、私はやっと我に返る。


「メイ。」


「とりあず、お部屋に行って、着替えましょう。」

 メイに促され、私は部屋に戻った。


「王宮は、いかがでしたか。」

 メイが心配して、声をかけてくれた。


「そうよ。聞いてメイ。

私、公爵家の次期継承者に戻れたの、あなたたちのお蔭だわ。」


「お嬢様、おめでとうございます。」


「ありがとう、メイ。」

 私とメイは、手を取り合って喜んだ。


 『そうよ、やっと宰相の父をギャフンと言わせる第一歩に近づけたんだもの。

もっとがんばって、きっと父に目にもの見せてやるわ。』


 私が心の中で誓っていると、ドアがノックされた。


 メイが応対に出て、戻ってきた。


「お嬢様、食事の用意が出来ましたので、食堂においでください、とのことでした。」


『そう言えば、なんだかお腹が空いてきた。』


 私は、メイに着替えを手伝ってもらい、食堂に向かう。


 食堂には、すでにラフな格好に着替えたケインがいた。


 イイ男は何を着ても、映える。


 私はボウーと、ケインに見とれてしまった。


「どうぞ、座って下さい、レイチェル。」


 私は我に返ると、慌てて、席に着いた。

 私が座ると、ケインは執事に食事の合図する。


 まずは、スープが運ばれてきた。


「ツバァイ家のコックには及びませんが。」

 ケインがそう言って、スープを勧めた。


 確かに、メリンダのスープには及ばないが、これはこれでおいしい。


「いえ、おいしいです。」

 私は素直に言うと、スープを飲み始めた。


 何やかや言いながら、食事は楽しく味わうことが出来た。


 一通り食べ終わると、ケインがおもむろに話だした。

「レイチェル。」


「はい、なんでしょうか。」


「今日の王との謁見で、王妃様が開かれる舞踏会でのドレスが必要でしょう。

なので、明日仕立屋を呼びましたので、お好きなだけ作って下さい。」


「はい?」

 私は、一瞬何を言われたか、わからなかった。


『えっ、舞踏会にドレスってなんだったっけ。』


「そうそう、結婚式でも何着も必要ですから、それも作って貰って下さい。」


「結婚、けっこん・・けっ・。」

 私は真っ青になった。


『そうだった。

 あの時、ケインが王に、私との婚姻を申し出て、それを許可されたんだっけ。

 ケインのような人なら、引く手あまたなのに、私のような平凡な人間で

いいのだろうか。』


 私がアワアワしていると、廊下がざわざわして、いきなり食堂のドアが

乱暴に開けられた。


「ケイン、お前がツバァイ家に婿入りするとは、どういうことだ。」

 すごい勢いでケインの父親である将軍が入ってきた。


「公爵家同士の結婚では許可が出ませんので、異母弟に公爵位を譲った

だけです。」


「なんで、お前が婿入りするんだ。」

 真っ赤な顔の将軍が叫んだ。 


「レイチェルはツバァイ家を継承したいそうなので、私が婿入りすることに

しました。」


「だから、何で婿入れするんだ。おっ、おまえは、わたしのむすこだ。

なのになんで。」

 将軍は、今にも泣きそうだ。


 ケインは溜息をつくと、

「母のこととは、まったく関係ありませんよ。

 私がそうしたいと思っただけです。」


「なんのことだ。」


「母が私を生んで亡くなった時、屋敷には誰もいなかった。

 そのことを今だに、悔やんでいるのでしょう。

 でもあれは、母が癇癪を起して屋敷の使用人を自分で遠ざけたが、

ためにおこったことだ。

 あなたが悔やむ、必要はない。

 どちらかと言えば、公爵の地位を利用して、あなたから無理やり婚約者を奪い、

 自分と結婚させた、母をあなたは責めるべきだ。

 私なら、そうします。」

 ケインは淡々と説明する。


『ケインの生母様は亡くなっていたの。』

 私は思わずケインを見た。


「知っていたのか。」

 将軍は項垂れた。


「私は28歳ですよ。 もう子供ではありません。

 ですから、誰に反対されようと、自分が愛する人と結婚します。

 それでも反対しますか。」

 ケインは、そう将軍に言い放った。


「ケイン、そこまで決心しているのか。

 わかった、 私はもう何も言わん。

 レイチェル嬢、どうかケインをよろしく頼む。」

 将軍は、私の傍に来て、頭を下げた。


「はい、こちらこそ、宜しくお願いします。」

 私はびっくりして、思わず頭を下げていた。


 将軍は安心したように、笑顔になると、

「あまり、恋人たちの邪魔をすると、きらわれるからな。

 後で舞踏会で会おう。 私はこれで失礼する。」

 それだけ言うと、将軍は去っていった。


「これで私の両親からも祝福されて、結婚出来ますね、レイチェル。」


『あれっ。

なんかさっきより状況が悪化しているような、なんでこうなったんだっけ?』

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