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12 魔獣発生のなぞ

 朝食後、セバスチャンとメイを交えて、ご先祖様の残してくれた資料をもう一度三人で見直して見た。


 何度も資料を隅々まで見返したが何も目新しいものは見つからなかった。


「お嬢様、初歩的なことを聞いてもよろしいでしょうか?」


「なに、メイ?」


「魔獣はどうして発生するのですか?」


「そうね。寒い冬に亡くなった虫や動物、人間などが発する暗い想念が集まって固まり、それが最終的に何百年に一度の大発生に繋がるんじゃないかとアイ様は考えていたようね。」


「魔獣豚も元は動物だったんですよね。」


「何が言いたいの、メイ。」


「あの魔獣豚は魔獣ですので、私たち人間や普通の動物、虫の死骸より強い想念があったんじゃないかとか・・・。」


 私とセバスチャンは顔を上げた。

「可能性は大いにあるわ。」


「さすが私の娘だ、メイ。」

 メイがセバスチャンの誉め言葉に目をうるうるさせている。


「でも、その可能性から言うと次に強い魔獣の出るところは、人と魔獣豚が多く亡くなった所になるわね。」

 私はセバスチャンを見た。


「畏まりました。 すぐに各地域に伝令鳩を送って、大至急で調査させます。」


「なんとか被害を最小限に押さえましょう。」

 私たちはうなずき合うと書斎を後にした。


 書斎を出て玄関を横切ろうとしたちょうどその時、砦跡を見に行っていた彼らが帰ってきた。

 

 なんだかケインの顔を見ると、へんに意識してしまい頬を赤らめてしまう。

 それに反してケインは私と壁を何度も見比べている。


 壁?


 私は後ろを振り返った。

 ちょうど私の真上にご先祖様の肖像画があった。


 その時、ケインがおもむろに質問してきた。

「この絵は?」


「ツバァイ家の初代であるアイ様とシルバー様で私のご先祖様です。」


「確かによく似てますが今のあなたの方が魅力的ですね。」

 また破壊力抜群の天使の微笑ですごいことを言われた。


 でも今、気になることを言われたような。


「今の私?」


「ええ、メガネをかけたあなたの方が素敵です。」


「えっ、そうですか?」

 思わず動揺してさっきより赤くなった。


 実母にも実父にもメガネを人前でかけるなと固く言われていた。


 なんでか体裁悪いとのことだったのだが、ケインに言わせるとその方が可愛いという。


「どうしてですか?普通メガネをかけると嫌われるのですが。」


「でもそれが普段のあなたでは?」


『確かにこれが普段の私だ。』


「でも・・。」

 私が口ごもっていると、


「私はあなたの容姿ではなく、あなたが好きなんですよ。」

 さらりと言われた。


 私はその場に立ちつくしてしまった。


「お嬢様、どうしました?」

 なかなか来ない私を心配してメイが見に来てくれた。


『グッジョブ、メイ。こんな場面、慣れてないから早く助けて。』

 私はメイに助けてのサインを送った。


「お帰りなさいませ。」

 メイは二人に気づいてきれいに一礼する。


 メイの登場が場の空気が変わった。

「メイ、いいところに来てくれたわ、居間にお茶の用意をお願い。それとセバスチャンを呼んできてくれるかしら。」


「畏まりました。」

 メイが下がったので私は二人に合図して居間に向かった。


 私たちが居間に入って座るとすぐメイがお茶を持って来てくれた。

 

 その後、すぐにセバスチャンも入ってくる。


 セバスチャンは一礼すると私に目線を送った。


「セバスチャン、先程の推論と現状の説明をお願い。」


「畏まりました。」

 セバスチャンはアイ様の地図の写しを私たちが座るテーブルの上に広げた。 


「「これは」」

 二人は同時に質問してきた。


「これはここの初代様時代に発生した魔獣豚の発生図に、今回わかっている限りの情報を重ね合わせたものです。」

 二人は食い入るように魔獣豚の発生図を見ている。


 そのうちケインが私と同じ疑問を口にした。

「なんで魔獣豚の地域だけ魔獣が重複して発生したんだ。他の地域は同じ魔獣しかいないのに。それも異常に強い個体がこんなに多いのも妙だな。」

 ブライアンも同意してうなずく。

「この地図からするとこの近辺で同じようにまた、異常に強い個体が発生することになるぞ。」


「でもなんでだ。他の地域ではそんなことになっていないのにおかしくないか。」

 セバスチャンがさっきメイからのヒントで考えついた推論を話す。


 二人はその話を聞いて今日、砦まで行った間の状況をその地図に書き加えた。

「結論からいって、今度、異常に強い魔獣が発生する箇所はここの砦跡だ。」

 ケインが地図を指差した。


 この言葉に全員が同意した。

 五人とも同じ結論だ。


「でもどうするよ。俺達は碌な武器も持ってない上に、ここでまともに戦えるのはお前と俺だけだぞ。あの人数の兵士でさえ数が多かったとはいえ、魔獣の中でも弱い部類にはいる魔獣豚に苦戦したんだ。異常に強い魔獣に勝てるのか。」

 ブライアンが懸念を口にする。


「じゃあどうするればいいと思うんだ、ブライアン。」

 ケインがブライアンに問う。


「最悪、二人で立ち向かうとしても援軍を呼びたいね。俺もまだ若いんだ、魔獣討伐で討ち死にとかは嫌だね。」

 二人が話している時にメリンダが小さな紙を持って入ってきた。

 メリンダがその紙をセバスチャンに渡す。


 セバスチャンは紙面に目を通すと私を見た。


 私は頷いてセバスチャンに地図に情報を追加するように指示した。


 セバスチャンが紙面を見ながら近隣にあった村や砦の数か所が黒く塗りつぶされた。


「「これは」」


「もう壊滅している場所です。ただし王都に近かった為、王国軍が出動して魔獣豚は殲滅出来たようです。」


「殲滅出来たのか。そりゃ良かったがさっきの話の推論からすると・・・。」

 ブライアンが地図の数か所を指しセバスチャンを見た。


 セバスチャンが頷いて直ぐに二か所に赤丸をつけた。

「殲滅と死者の数からいって王都近くの砦の二か所で、異常に強い魔獣が出現する可能性があります。」


「最悪だ。」

 ブライアンが呟く。


「あの親父、余計なことをしてくれる。」

 ケインがつぶやく。


「一応、将軍だぞケイン。だがこれじゃあ応援は期待どころか呼ぶこともできない。どうする。」

 ブライアンはケインを見た。


「死にたくなけりゃ戦うしかない。」

 ケインがつぶやく。


「せっかく命が助かったってのにまったくなんの厄日だよ。せめてまともな武器がほしいね。」


 二人の会話に私はおずおずと声をかけた。

「あのー。」

 

「心配ありません。なにがあってもあなただけは、守って見せますから。」

 ケインは私に振り向くと天使の微笑を炸裂させた。


 私は真っ赤になりながらも話始めた。

「先程からお話になっている武器ならこの別荘にあります。もちろん対魔獣用です。それに戦える人間なら最低四人はいます。」


「この屋敷に公爵家の護衛がいたとは気づかなかった。なら、直ぐに合わせてほしい。」

 ケインは意気込んで言ってくる。


「もう会っています。私とメイ、セバスチャンにメリンダですわ。」


「「はぁー。」」

 二人はあまりのことに一瞬呆気にとられた。

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