11 砦の跡地で
「おい待てよ、ケイン。お前に話がある。」
ブライアンはしっかりお弁当を持ちながらケインの後を歩いていた。
「話とはなんだ。」
ケインがぶっきらぼうに答えた。
「決まっているだろう。さっきの”もし必要でしたらアインハルト家の力とドライデン家の力をお貸ししますよ。”の一言だ。いつ俺が巻き込まれてもいいと言った。それに現当主はお前じゃない。お前の父親なんだぞ。勝手にそんなことが出来るとは思えん。」
「出来なければ親子の縁を切るまでだ。」
「おい、なんで急にそうなる。」
「お前の父親って将軍だよな。たしかお前を物凄く溺愛してたような。そんなことしたらあのおやじショック死するぞ。」
「そうなれば必然的に当主は俺だ。なお問題なしだ。」
「いや、問題あるだろ。一国の将軍をショック死させるんだぞ。そのあとはどうするんだよ。」
「レイチェルの役に立ちそうなら俺がそのまま将軍になる。必要なければブライアン、お前が継げばいい。」
「なんで俺に押し付ける。」
「いやなのか。」
「当たり前だ。だがなんでそんなにあの子に執着するんだ。」
「俺の運命の相手だからだ。」
「運命の相手ってたしか昔、お前の美貌の母親がなくなった時に、お前が良く見てた夢の少女か。」
「ああ、そうだ。現実にいるとは思えなかった。だから捜そうともしなかった。今思えば捜していればもっと早く会えたかもしれない。それはすごく後悔している。」
「そう言えば夢の少女は良くお前以外の相手に微笑んでいたと・・・。」
ケインから絶対零度の微笑を向けられた。
「おい、こえーぞ。そんな目で俺を見るな。俺は夢の話をしただけだ。」
「おい、ブライアン。まさかレイチェルは今、誰かと婚約しているのか?」
ケインが少し青ざめて聞いてくる。
「いや、俺の知る限りじゃ。そんな話はないな。さっきの朝食の席の話を総合すると父親が愛人の子を継承者にする為に、婚約させなかったの線が濃厚かな。」
「ほう、そこは評価できるな。」
「はぁ、どこが評価出来るんだ。」
「決まっているだろう。継承させない為に婚約者をつくらなかった点だ。おかげで始末する手間が一つ省けた。」
「おい、いたらどうしてたんだ。」
「不慮の事故はどこにでも起きるもんだ。」
「本当に考えることが怖いな。」
二人でそこまで話した所でやっといつもだったら砦が見えるところまできていた。
しかし、村落どころか砦の城壁すら見当たらない。
ところどころに瓦礫の山が転がっているだけだ。
「どうする、何も見えないが行ってみるか?」
「ああ、行こう。」
二人は歩き始めた。
だいぶ歩いた所でやっと砦と思われる場所で瓦礫の山を見つけた。
あのツバァイ家の執事が言っていた通り、本当に瓦礫しか残っていない。
「そう言えば別荘を出る時、あの執事に何を頼まれていたんだ?」
「聞いていたのか。」
「ああ、まあな。」
「レイチェルが気にしているらしいと言われたんだ。」
「はっ、何を気にしてるって。」
ケインは俺を憐みの目で見る。
「おい、いいから話せ。」
「お前、魔獣豚に襲われてた時のことを覚えているか?」
「はっ、さすがにいくら俺が忘れやすいからって、あの体験は忘れられないぞ。」
「今、ここまで歩いて来て何か違和感はなかったか?」
「あぁ、違和感?瓦礫以外、何にもなさ過ぎてありまくりだよ。」
「それだよ。」
「はぁ、どれだよ。」
「お前ここに来るまでに魔獣豚に襲われた人間の死体をみたか?」
「はっ、そんなもの魔獣豚に食われたんだろ。」
「じゃあ魔獣豚の死体は?」
「はっ、それも同じ魔獣豚に食われたんだろうよ。」
「あの勢いで走っていた集団だ。いくら食べたからって、かけらも残らないのはおかしい。」
「レイチェルが俺達を見つけた時は、そこら中に魔獣豚に食われた人や俺達が倒した魔獣豚が転がってたそうだ。なのにいくら立っても異臭がして来ない。」
「異臭。」
「ああ、異臭だ。肉片が何もしない状態でその辺に散らばっているんだ。いくらきれいに食べたからってあの数だ。風向きがかわれば別荘まで匂ってきてもおかしくない。なのにあの別荘にいた間、一度もそんな匂いを嗅いだ記憶がない。あの執事も不思議に思って、俺達が倒れていた場所を調査したが、レイチェルが言っていた砦の兵士の死体も魔獣豚の死体も次の日には跡形もなく、なくなっていたそうだ。」
「たしかに、いくらあいつらが弱くても一体の魔獣豚の死体もないのはおかしいな。」
「どうしたらそうなると思う。ブライアン。」
「お前こそ、どうなんだ。」
二人で顔を見合わせた。
「戦場で敵に奇襲を受ける前の感じに似ている。いやな感じがしないか、ブライアン。」
「ああ、確かに。」
「とにかく現状は把握出来た。一旦、別荘に戻ろう。」
「ああ、そうだな。だが村を抜けた所で俺は弁当を食べるぞ。それは譲れん。」
「わかった。確かにせっかくレイチェルの使用人が用意してくれたものだ。無駄には出来ないな。」
「おい、気にするのはそこかよ。」
「他のどこを気にするんだ。」
「いや、聞いた俺が馬鹿だった。とにかく行こう。なんだかあまりここに長いしたくない。」
「確かに、いやな感じがするな。行こう。」
二人は足早に別荘を目指した。




