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10 おいしい朝食

眩しくて目が覚めた。


「おはようございます。遅くなりましたが着替えと洗面用具をお持ちしました。もう少ししましたら食堂にご案内しますので、それまでにこちらにお着替えください。」


「ああ、ありがとう。」

 ブライアンがお礼を言うと、侍女はそのまま洋服をおいて部屋の外に出て行った。

 これでやっと外に出て歩き回れる。

 ブライアンは素早く服を着ると、まだベッドに寝ているケインに声をかけた。


「おい、朝食に遅れるぞケイン。」

 朝食の声にケインが布団からガバッと起き上がる。

 俺は傍に置いてあった洋服を放った。

 寝起きの悪いケインには珍しく素早く起き上がると、ひげを剃るために洗面所に入って行った。


『どんだけ、朝食を楽しみにしてたんだ。』

 ケインが洗顔と髭剃りが終わって戻ってきた所に侍女が食事の支度が整ったと、呼びに来てくれた。


「こちらです。」

 こじんまりとした通路を抜けると、小さなテーブルが置いてある食堂に案内された。


「お嬢様、お連れしました。」

「ありがとう、メイ。」

 ブライアンは公爵令嬢が侍女にお礼を言うのを生まれて初めて目にした。

 ふとケインを見ると顔に自然と微笑みを浮かべてその様子を見ている。

 私は二人が食堂に現れたので、セバスチャンに食事を持って来てくれるように合図した。 

 すぐに温かく湯気が立ったスープが運ばれて来た。

 メリンダ特性のダシが聞いた美味しいスープだ。

 二人もスープに手を付けた。


「「すごく美味い。」」


 二人の反応にセバスチャンが当然だという表情を浮かべた。

 メリンダの料理は王国一だというのがセバスチャンの口癖だ。

 私もセバスチャンにそれについては賛成だ。

 私は二人の反応を見ながらもメリンダの料理を堪能した。


 ちなみに、人間は美味しいものを食べているとそのおいしさゆえか無口になる。

 私たちは食事中一言も会話を交わさなかった。

 食事の間中黙った私たちはメリンダが作ってくれた食事を堪能した。


 やっと一通り食べ終わったところでセバスチャンがみんなに食後のお茶を入れてくれた。

 さすがセバスチャンだ。

 この香り高いお茶が先程の料理の余韻を彷彿とさせる。


 ほんとうにおいしい。


 私がお茶を堪能しているとケインが私を見て、天使の微笑みを浮かべながら話しかけてきた。


「今までにこんなにおいしい食事を食べたこたはないよ、レイチェル公爵令嬢。さすが君が雇っている料理人だ。」


「確かに素晴らしい味だ。」

 これにはブライアンもすかさず相槌をうつ。


「まあ、メリンダが喜びますわ、隊長」

 

「レイチェル公爵令嬢、ケインと呼び捨てで呼んでくれ。」


「いえ、次期公爵様を名前で呼ぶなんてことは出来ませんわ。」

 私は丁重にお断りさせていただいた。


 呼び捨てなどをすれば、王宮にいる女狐・古狸たちに何を言われるかわからない。

 私はまだ王宮で暗殺される気はない。 


「きみだって次期公爵じゃないか。 何も問題ないと思うが。」

 私はケインの言葉にビックリした。


 この人は王都の事件を知らないのだろうか。

 思わずブライアンを見てしまう。

 ブライアンは気まずそうに会話に入ってきた。


「ケイン、お前の弟との件でレイチェル嬢は爵位継承から外されたんだ。」

「何だと。彼女が悪いわけじゃないだろ。なんでそうなる。」

「俺に食いつくな。彼女の父親がやったことだ。」


「ほう。たしか宰相でしたか。」

 ケインの微笑にブラインアンが震え上がる。


「ええ、そうですわ。」

 

「義理の父上ですか?」


「いいえ、実父ですわ。」


「ほう。では今はどなたが次期公爵継承者なのですか?」


「母の従妹が次記爵位継承者ですわ。実父は知らなかったようですが、基本、我が公爵家は初代の血を色濃く引いているものが継承するのが絶対条件ですから。」


「へえ、珍しいな。今は男子血統が普通なのに。」

 ブライアンが会話に加わってきた。


「そうですね。なので父も珍しく良く確認せずに私を継承から外したようです。」


「そうするとどうなるんだ。」

 ブライアンは継承順位がよくわからなくなったようで、ケインに睨まれながらも会話に加わってきた。


「私が外されたまま成人しますと間違いなく継承権は叔母に移り、叔母が爵位を継承します。その時点で父は無爵位となりますので、宰相もやめることになるでしょうね。」

 ブライアンは目を見開いた。


「あなたはどうされたいのですか?」

 ケインが気遣わしげに聞いてきた。


「私は出来れば爵位を継承して、今ある公爵家をもっと良くして行きたいと思っています。でも、父のやり方には賛成できませんので、父が力を持ったままならこのまま叔母にこの公爵家を継いでもらう方が良いのではと考えています。」


「なるほど。もし必要でしたらアインハルト家の力とドライデン家の力をお貸ししますよ。いつでも言って下さい。」


「ちょっ・・・。」

 ブライアンが何か言おうとしていたのをケインは笑顔一つで黙らせる。


『なにか、文句があるのか?』

 ブライアンはケインの笑顔にフリーズした。


「えっ、でも。私には何も返せるものがないのですが?それに弟さんの事もありますし。」

 私は懸念していることも併せて一応確認してみる。


「私たちの命を助けていただいただけで十分ですよ。異母弟もそれで何も言わないはずです。でも、それほど気にしていただけるなら、王都で私とぜひお茶をご一緒していただければそれで貸し借りなしです。」

 ケインから破壊力抜群の天使の微笑が放たれた。


「では、その時には遠慮なくそうさせていただきます。」

 会話が一段落したところでセバスチャンが声をかけてきた。


「お話中に失礼いたします。今日のお昼用のランチが出来ましたのでお持ちしました。」

「もしかして、これって朝食を作ってくれた料理人が?」

 ブライアンが目を輝かせる。

「はい、当家の侍女長兼料理長のメリンダ特性のお弁当です。」


「うひょー、最高だ。」

 ブライアンが飛び上がって喜んだ。


「おい、ケイン。そろそろ行こう。」

「ああ、そうだな。」

 ブライアンにそっけなく返事をするとケインは私に近づいて来た。


『な・な・・な、なんで???。』


 急に私の足元に跪くと手を差し出した。


『へっ、なんで手を差し出すのよ。』

 目線が私の手にある。

 私はケインの手に手を重ねていた。


「それでは夕食の時に。」

 手にケインの唇の感触があたる。


『ほえぇーー。』

 私が真っ赤になっている間にケインはニッコリ笑って食堂から出て行った。


 レイチェル・シュバルツ・ホルン・ツバァイ 11歳は初めて異性にキスされました。

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