【つながらない場所】
何度電話をしても通じない。コールの音さえも鳴らない。
春里はずっと知夏の携帯電話にかけていた。だが、一向に呼び出し音が鳴らない。電源が切られたままなのだ。
――どうして?
何とも言えない不安や焦りが春里を襲った。簡単に連絡が取れると思っていた。会うところまではできるか分からなかったが、電話で話をする事くらいは簡単だと思っていたのだ。だが、それさえ容易にはできない。
「拒否されているのかな?」
「いや、何とも言えないな。自宅の番号は?」
「知らない」
「じゃあ、自宅はどこにあるのか知っている?」
「うん。それは分かる」
「なら、明日行ってみない?ずっとこんな状態じゃ気になるだろう?気になって仕方なくて他のことも考えられない。眠れない、帰れない、になったら駄目だからさ」
貴之はぎゅっと強く春里の手を握った。春里はその力強さと温もりで安心できる。友達づきあいが苦手な春里にとってはこういう事さえも勇気のいることだった。メールを送る、電話をする、約束をする。そんな当たり前の行動を躊躇する。迷惑がられたら?拒否をされたら?そんな不安が春里を襲うのだ。もしかしたらすっかり自分のことを忘れているかもしれない。最後にはそういうことまで考えてしまう。だから、背中を押してくれる貴之の存在はありがたい。確かに、どうしてこんな風に電話がつながらないのか、確認しなければ気になって仕方ないだろう。知夏の性格を考えればなおのこと。春里は力強く頷いた。自分一人ではできないけれど、貴之が一緒なら頑張れる気がする。
「よし。明日会いに行こうな」
貴之の力強い声が春里の背中を押す。今までにない感覚。今まで逃げていた場所。貴之とならその場所に踏み込むことさえ怖くはない。その変化が春里には嬉しくてたまらない。一人でもいいという強がり。その強がりがなくなって、誰かと一緒にいたいと願えるのならきっと誰かとのコミュニケーションも苦ではなくなるのだろう。自分から近づくことができたならきっと自信がつくはずだから。
短いですがここで一区切りです。なのでもう一話更新します。
次回は文登が登場です。
お付き合いください。




