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初恋の彩り  作者: みこえ
~始まり~
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【春里の友達】

 和んだとは言い難い空気の中、春里は緊張していた。反対されるとは思ってはいない。だけれど、これは完全な春里の我が儘で、この我が儘を通すと、祖父母は娘である春香の墓参りを頻繁にする事ができないのだ。


「お母さんのお墓はここではなくて向こうに建てようと思っているの」

「なんでだ」

 祖父の低い声が響いた。

「わたしの我が儘。お母さんのそばにいたいから」

「竹原家のお墓に埋葬をしたらどうだろうと両親も言っています」

 貴之が焦るように身を乗り出して祖父に向かって言った。


「なぜ、わざわざ」

「わたしが相談したの。母のお墓はお墓参りをしたい時にできる場所がいいって我が儘を言ったの。それで色々考えてくれて、この間お父さんから提案をもらった。竹原家で継いでいるお墓は弟さんが継ぐから、新しくお墓を建ててくれるそうなの」

「その中に一番に関係のない春香が入ると言うのか」

 関係ない、と言う祖父の言葉に春里は言葉を失った。その通りだ。春香と俊介は夫婦だったとしても今は違うのだ。赤の他人。春里は血がつながっていたとしても春香は関係ない。そして、春里がそのお墓に入る保証もない。


「血のつながりはなくても、関係ないわけではありません。春里の母親なのですから」

 貴之は必至だ。なぜこんなに真剣になってくれるのだろうと春里は思った。だけれど、いつも貴之は必死で真剣だ。そんな姿をいつも見てきた。頼もしい兄であり、恋人。


「まだまだ先ですけど、俺と春里が結婚したら関係はつながります。俺も両親も春里のために何かをしてあげたい。そう考えています」

「だからって」

「俺は春里がそれを望んでいるならそれを叶えてあげたいと思っています。たとえおじいさんとおばあさんがそれを淋しいと思っていても、俺にとっては春里が一番です」

 祖父は腕を組み唸った。


「お墓の場所なんて関係ないんだと思うのよ。気持ちの問題だし」

 祖母が誰に言うわけでもなく、呟いた。

「わたしは良いと思うわよ。お墓を守るのは春里だもの。こちらに戻って来ないのならここにあってもね」

「俺たちのお墓は誰が守るんだ」

「わたしが守る。頻繁に来られなくてもきちんと掃除もするから」

 なぜこんなに必死になってしまっているのだろう?そんな風に考えながら、春里は身を乗り出した。多分、貴之のせいだろう。貴之があまりにも真剣だから。


「俊介君もその奥さんもそれでいいと言っているのか?」

「うん。お父さんと貴美さんがそう提案してくれたから」

 祖父が長く息を吐いた。


「分かった。お世話になろう」

 祖父の言葉に春里は脱力した。

「ありがとう」

 麦茶を飲みたかったがすでに眼の前のグラスは空だった。隣を見ると、貴之の分の麦茶はたっぷりと残っている。思わず春里は貴之のグラスを手にし、それを飲んだ。貴之が少し驚いた顔をしたが、その後優しく微笑んだので春里は気にしなかった。


「それでだな、言い辛いのだが……」

「何?」

「お墓はそれでいいとして、仏壇をこちらに置きたいと思うのだが、どうかな」

 春里の手がピタリと止まった。正直そこまで考えていなかったのだ。お墓の事を考えていたけれど、仏壇の事は全く頭に入っていない。


「仏壇……」

「春里、俺はそれでいいと思うよ。おじいさんとおばあさんだって春香さんに語りかけたいと思うし、そばにいたいと思うはずだ」

 春里が隣を見ると優しい笑みを浮かべた貴之の顔。祖母は気持ちの問題だと言った。ならば――。


「分かった。仏壇はお願いします」

 語りかけたければ写真に語ればいい。星に願えばいい。どこにでも春香はいる。





 遅いお昼ご飯を食べ終え、温かいお茶を飲みながらテレビを四人で観ていた。

「そういえば、文登君も戻ってきているみたいよ」

 祖母が思い出したように言った。不意を突かれた気分で春里はピクリと反応した。会いたいが会いたくない。そんな複雑な心境だ。そんな反応を目聡く感じ取るのはやはり貴之だ。春里の事ならなおさらのこと。


「どうした?」

「ん?ううん。――そうなんだ。文登君って専門学校二年間だっけ」

「そうらしいよ」

「じゃあ、夏休みってやつだね」

「あの子もいい子だよね。長期のお休みのたびに帰ってくるんだから」

 本当にそうだ。帰ってくるのに面倒くさい距離ではないが、遊びたい盛りではないだろうか。専門学校で出逢った友人達と色々なところへ遊びに行き、はしゃぎ、楽しむのが普通のように春里も感じた。


「きっと会いたい人がここにいるんでしょうね」

 当然のように貴之が口にした。

「会いたい人?」

「そうだよ。仲のいい友人とかさ。中学、高校時代の友人って結構長い付き合いになったりするだろう?俺の場合は奏太。会える時に会って近況報告とかして、楽しみたいと思うものだろうな、と思ってさ」


 ――なるほど。

 春里にはそう言った存在がまだいないから分からない。だけれど、大切にしたい、つながっていたい友人と言うものがあるのだろう。そう思うと貴之も奏太もそして文登も羨ましいと思った。


「春里は?久しぶりに会いたい人はいないの?」

 そう聞かれて思い浮かべたのは唯一の友人と言っていい人物。植竹知夏(うえたけちなつ)だ。春里が転校することを知り、泣きだした人物。彼女が今どうしているのかは気になる。いじめられていないか、殻に閉じ籠っていないか。


「一人だけ。中学、高校と一緒だった人がいるんだ」

「へえ、じゃあ連絡をとって会いに行けばいいよ」

 貴之は簡単に言う。だけれど、なんとなく会いづらい。なぜそう思うのかは春里にも分からない。申し訳ないような感じもある。でも、どうして申し訳ないと思うのかが分からない。


「元気でやってくれているのならいいんだけれど」

「ん?」

 連絡先は知っている。でも、引っ越してから一度も連絡をしなかった。自分の事で精一杯だった春里は、知夏の事を気にする余裕がなかったのだ。そして、タイミングを失い、未だ連絡をしていない。


「どうした?」

「何でもないよ」

 貴之が心配している事が春里にも分かった。春里自身、気づいてほしいと言っているような分かりやすい反応をしているな、という自覚があった。多分、甘えているのだろう。貴之も祖父母の前だから触れて来ないが、これが二人きりならきっと春里の手を握り、訳を聞いてきただろう。それがないのが残念だと春里は思った。


お墓や仏壇のことはあまり詳しくは知らないのです。まあ、許してください。


次回は春里と貴之


次回もお付き合いください。

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