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初恋の彩り  作者: みこえ
~始まり~
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【触れたいと思う感情】

 次の日の昼頃、珍しく春里の携帯電話が鳴った。それは春からだった。リビングで貴之とのんびりしていたが、会話を聞かれる事に抵抗を感じた春里は電話に出ながら自室へ向かった。


『それでね、携番とメアド交換しちゃった』

 姫川は終始弾けた口調だ。訳せば『携帯電話の番号とメールアドレスを奏太と交換した』と言うことだろう。


「教えたんだ」

『うん。だってとても紳士的で優しくて素敵だったんだもん。もしかして軽すぎる?』

「いや、別にそうは思わないけど。もしかして春って惚れっぽい?」

『え?ああ、それあるかも。素敵な男性を見るともうすぐにキュンってくる』

 ――キュン?

「奏太さんもそんな感じ?」

『うーん、どうだろう。でも、一緒にいて楽しいなって思ったし、一緒に遊ぶくらいならいいかなって』

 奏太と春の行動を一部始終見ていたかったと思った。奏太がどれだけ甘い雰囲気を醸し出し、春を口説いていたのか、興味を春里は抱いたのだ。きっと、甘い雰囲気はそのままに春に警戒されないように明るいあの雰囲気を振りまいていたのだろう。


「確かにね。一緒にいればだんだん自分の気持ちに気づくだろうし、そのためには相手の事を知らないとだもんね」

『うん。いいよね、このくらい』

「このくらいって?」

『こんな軽い感じで交換しちゃって大丈夫だったのかな』

「奏太さんはその辺分かっていると思うよ。奏太さんは変な勘違いをして春を傷つけるような事はないと思うから」

『そうだよね。いいんだよね』

「いいと思うよ。きちんと自分の気持ちを見極めなね」

『うん』

 元気ないい返事が返ってきた。奏太はうまくやったらしい。さすが奏太だな、と春里は感心しながら、恐るべし、と笑った。


 リビングに戻ると、貴之が手招きをした。春里は誘われるまま貴之の隣に座った。貴之の腕が春里の腰を引き寄せた。未だにこの距離に春里は慣れない。密着、まさにこれがそうなのだろう。触れるではなく、もっと、隙間なく押しつけるような。


「姫川さんなんだって?」

「奏太さん、上手くやったみたいだね」

「やっぱりそれか。昨日の夜、奏太から電話があったよ。感謝されっぱなしだった」

「貴之さんは観たくもない映画も観ちゃったんだもんね」

「でも、楽しい時間も過ごせた」

「うん、わたしも楽しかったな」


 昨日の出来事は総て仕組んだことだ。知らなかったのは春ただ一人。偶然を装うには胡散臭いものだったが、春は全く疑うことはなかった。そして、奏太は公言通り、自らチャンスを勝ち取ったわけで……。


「すごい執念でしたよね、奏太さん」

「必死さがかわいいだろう?」

「はい。微笑ましかったです」

「恋をすると猪突猛進で周りが見えなくなるタイプなんだ。これからがすごいかもな」

 貴之のもう一つの腕が春里のウエストに巻き付き、抱きしめてきた。顔が春里の顔に接近する。それに戸惑う春里だが、貴之はそれを気にすることはない。


「それよりさ、お墓の事は考えた?」

「突然の方向転換ですね」

「ずっと気になっているんだよ。ほら、夏休み中に春里の田舎にも行きたいしね」

「お言葉に甘えようかと思っています。もう母には意見は聞けませんけど、多分許してくれます」

 春里の祖父母がどう思うかは分からない。でも、春里がこちらにいる限り、やはりこちらにお墓を建ててあげたいと思う。常に会える場所に納骨したい。それが春里の我が儘だったとしても。


「そう?なら、善は急げ、だし、電話して大丈夫な日を聞きなよ。俺は夏休み中ならいつでも大丈夫だしね」

「そうですね」

「春里の実家に俺も泊まれる?」

「泊まれますよ。部屋はいっぱいあります」

「じゃあ、お世話になろう。楽しみだな、春里が過ごした場所」

「田舎なだけです」

「それでも、いいの。春里がどんな場所で、どんな人とどうやって過ごしてきたかを知ることが一番なんだからさ」

「あまり期待しないでください」

「分かった、一応そうしておく」

 貴之は春里の肩に顔を埋めた。


「でも、おじいさんとおばあさんには恋人だってあいさつしてもいいでしょう」

「え、本気ですか?」

 貴之は顔をあげた。


「本気です」

 きれいに微笑み、なぜか春里にキスをする。時折貴之の甘い雰囲気の持って行き方が理解できない、と春里は思う。最終的には強引と言う方法になるのだが、どうしてここでキスをする必要があるのか、春里は疑問でならなかった。


「同じ部屋には寝られないだろうな」

「当然です」

「そうだよな。それにそうなったら俺が困るもんな」

「困る、ですか?」

「キスだけでとどまれなくなるだろう?」

「それなら、そんな事望んでいる風に言わなければいいのに」

「まあな。でも、春里は俺に触れたいとか触れられたいとか思わないわけ?」

「今触れられていますよ」


 両手で抱きしめられ、顔は至近距離、充分触れられているし、一緒に過ごしている時は必ずどこかが触れている。春里が触れようとしなくても貴之が率先して触れてくるから触れたいと感じた事はない。触れられるのが恥ずかしいと思う事はよくあるが触れられたくないと思ったこともないし、触れられる事を心地良く思う。今もそうだ。だが、春里はそんな事恥ずかしくて口にはできない。


「そりゃそうだけど……」

 貴之は再び春里の肩に顔を埋めた。そして、腕に力を入れる。一層二人の距離が縮まり、春里の身体は硬直した。


「俺がおかしいのかな」

「何がですか?どこがですか?」

「俺はずっと春里と一緒にいたいし、一緒にいる時は全身で春里を感じたいと思う。これって重い?」

「このくらいは大丈夫ですよ」

 貴之は脱力したように春里の拘束を解いた。


「それって冷たいと思わないか?」

「何で腕の力を抜いちゃったの?わたしはそのくらいは問題ないって言ったのに」

「そうしてほしいって強請ってほしい」

「……」

 ――これが貴之さん?

 あまりにも今までの貴之と違いすぎて春里は戸惑い、何も言えなくなっていた。


「何で黙る?」

「いえ。新しい貴之さんが眼の前にいると思って」

 春里はゆっくりと眼を閉じた。そして、ゆっくりと眼を開け、貴之を見つめた。


「わたし、こういうこと恥ずかしくて言えないんです。でも、言うのできちんと聞いてくださいね」

 貴之は春里と見つめ合ったまま頷いた。顔の距離はまだ近い。この距離が緊張をあおる。


「わたしが触れてほしいと思う前に貴之さんが触れてくれるので、そう感じることはないんです。貴之さんはわたしが望んでいる事、分かっているように思える時があります。わたしが望む前にそれをやってくれるから、わたしはそう言った欲求を感じなくて済むんだと思うんですよ。だから、腕に力を入れて」


 貴之は眼を細め、そしてゆっくりと春里の顔に顔が近付いた。そして触れる唇と唇。春里はゆっくりと眼を閉じる。そのキスが深くなると、春里は必死について行く。まだまだ慣れない。だけれど、こうしてもらう度に確かに春里は満たされていた。


 ――わたしも触れたいと思っているんだ。

 恋人同士が場所を弁えずひっついているのはこういう感情があるからなのかもしれない。そんな想いを抱きながら、春里は貴之にしがみついた。


こちらはぎこちなく進展中。ぎこちないのは春里だけ。


次回は二人で春里の田舎へ。


次回もお付き合いください。

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