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初恋の彩り  作者: みこえ
~始まり~
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【深くなる想い】

 奏太は当然のように春の隣に座った。

 映画の時間になり、四人は映画館に移動した。春里も貴之も奏太の本気を感じたのか何も文句は言ってこない。それをいい事に、奏太は春のそばをべったりくっついて離れなかった。


 久しぶりに会った貴之と春里は、距離を縮め、あっという間に恋人の空気を醸し出していた。当てられた、と言ってもいいかもしれない。本人たちは気づいていないだろうが、奏太からは二人がテーブルの下で手をつないでいるところがしっかりと見えた。自分もこんな風になりたい。奏太がそう思ってもおかしくない。奏太など眼中にないと言う雰囲気で春はいるが、それをどうにか「気になる存在」に変えるのが奏太の目標だ。視界にはできるだけ入っていたい。


「本当あの二人は仲がいいな」

 奏太がぼそりと言うと隣に座っている春がクスリと笑った。


「羨ましいですか?」

「まあね。あんな風に当てつけられたら羨ましいと思うでしょう?俺もあんな風になれる女性と出逢いたいなってさ」

「そっちの羨ましいですか。てっきり春里ちゃんとあんな風に仲良くなれていいなって方かと思いました」

 これは全力で否定だ。春里がいいと思った時も確かにあった。あれが恋愛だったかどうかは分からない。本当に一瞬の出来事のようなものだったから。


「俺がズリズリと引きずっているって?」

「てっきり」

「二人をくっつけたのは俺だよ。貴之と春里ちゃんの尻を叩いたのは俺。もし春里ちゃんが好きならそんな事は絶対にしない」

「二人のために身を引く恋って言うのもあるかと思って」

「春ちゃんはそんなタイプ?」

「どうでしょうね。恋なのかどうなのか分からないものばかりでしたから」

 春が眼を伏せた。その虚ろげな雰囲気が今までとは違う大人っぽい空気を醸し出していて、奏太は見惚れた。


 そして、そのまま映画館は暗くなった。スクリーンの光が隣の春の顔を照らす。まだ、本編ではないのにわくわくした顔がそこにはあった。恋人同士だったとはとても言えない付き合いをした紗和とは似ても似つかない雰囲気がある。奏太が紗和に惹かれたのはしっかりした真面目な雰囲気と少しだけ見せる儚げな笑み。小さく微笑む時のあの唇の形。あの時守ってあげたいと奏太は思った。だが、今隣に座っている姫川春は一緒に楽しく過ごしたいタイプだ。以前恋心を抱いた紗和とは全くタイプが違う。だけれど、奏太はとても惹かれた。弾けるような笑みを見ると奏太も笑いたくなる。とても喜んでいる姿を見ると奏太は嬉しくなる。そっと小さな手に触れたいと思う。一緒に何でも楽しみたくなる。楽しんでもらいたいと頑張りたくなる。こんな恋心もあるのだと知った。






          ***


 映画が終わり、会場が明るくなった。貴之は隣に座る春里を見た。余韻に浸るように眼を閉じている。ずっとつながれた手。時折、強く握られた。映画を見て何か感情に影響でもあったのだろう。貴之にはあまり理解できない世界だったが、春里には楽しい映画だったようだ。春里の隣に座っている春を覗き見ると、春は奏太と話していた。二人の距離は徐々に近づいている。奏太が無理やり近づいているところはあるが、そういう強引さがなければ男女の仲など親密にはならないだろう。


「春里、もうそろそろ行こうか」

 貴之が耳打ちすると、ゆっくりと春里は眼を開けた。

「はい」

 貴之が立ち上がると春里も立ちあがり、それを見た奏太と春も立ち上がった。



「これからわたしたちはショッピングなんです」

 春里はそう言って微笑んだ。ここでお別れと言うことだろう。残念だが、買い物は女同士の方が気兼ねがなくていいはずだ。そう貴之は納得したのだが、まだ何か物足りないのか、奏太は不貞腐れた表情を春里に見せた。


「じゃあ、春ちゃんのショッピングは俺が付き合うよ。春里ちゃんは貴之とラブラブしておいでよ」

「何を言っているんですか」

 春里は顔を朱くしながら言った。


「今日は春はわたしと約束をしたんです」

「貴之だってせっかくだから一緒に過ごしたいって思っているはずだよ。ね、そう思わない?春ちゃん」

「え?でも……」

「奏太さん、調子に乗り過ぎです」

「これからなんだよ、春里ちゃん。まだ、始まってもいない」

「え?」

 にこやかに奏太は言うが、眼は真剣そのもので笑ってはいない。このチャンスを有効に遣いたい、逃したくない、そう思うのは貴之も理解できる。だが、押し過ぎると返って今までが無駄になるのではないだろうか。


「春里ちゃん、俺、そんなに信用ない?」

「そういう問題ではないんです」

「でもね、俺はもう少し春ちゃんと一緒にいたいの。それも、二人きりできちんとお話がしたい」

 春里は奏太をじっと見ていた。


「ね、お願い。春ちゃんをきちんと家まで紳士的に送っていくよ。春里ちゃんの大切なお友達にいやな思いはさせないからさ」

 春里は諦めたように溜め息をついた。

「仕方ないですね。本当に子供みたいですよ。言い出したら聞かない駄々っ子みたいなところ」

 春里の言葉に奏太はにこりと無邪気な笑みを浮かべた。


「そんな顔をしたら何も言えなくなります」

 春里はむすっとしながら言った。そして、春の方を向く。

「春はどうするの?奏太さんはもう少し春と一緒に過ごしてみたいと言っているけど、春はどう?」

「わたし?」

「そう。春の事だから春が決めるんでしょう?奏太さんの気持ちはきちんと聞いていたよね。それを玩味して決めて」

「うん」

 春は困った表情をした。当然だと思う。以前から知っていた男とはいえ、まともに話をしたのは今日が初めてのはず。そんな男と一緒にショッピングとは罰ゲームにしかならない。もちろん、奏太を以前から好きだった女の子ならご褒美になるだろうが。


「春ちゃん、困らせてごめんね。でも、嬉しいんだ。だから、もっとこんな時間を味わいたい。約束をするよ。春ちゃんが嫌がることはもちろんしない。家にはきちんと送っていく」

 一度、春は助けを求めるように春里を見たが、春里は微笑み返すだけで何も言葉を口にしようとはしなかった。


「分かりました。増永先輩、よろしくお願いします」

 いままで弾けた雰囲気だった春が、おしとやかで控えめに変化した。その姿を奏太は眼を細めてみていた。


「ありがとう、春ちゃん。俺の気持ち理解してもらえて嬉しいよ」

「じゃあ、奏太さん、春をお願いしますね。人見知りがあって、慣れるまではおとなしいタイプなんです。奏太さんはその辺は心配いらないとは思うんですけど」

「うん。春里ちゃん、今日は楽しかったよ。また、一緒にお出かけしたいね。今度はこの四人で遊園地にでも」

「そうですね」


 貴之は奏太に近づき、耳打ちした。

「姫川に抱きつくなよ」

「な!」

「春里のときみたいなのは許されない」

「わ、分かっているよ」

 焦っている事が良く分かり、貴之は満足した。奏太だって誰それ構わず抱きつくわけではないだろう。だけれど、時折暴走するから釘をさすに越したことはない。貴之は長い付き合いだからこそそれを知っていた。それ以上にからかいたいと思ったのが素直な気持ちだが。


「春、奏太さんは信頼できるから、いっぱい甘えておいで。きっとお姫様扱いしてくれるよ」

 春里の言葉に春が顔を朱くして俯いた。そういう事が夢なのかもしれない。




 貴之は春里と一緒に喫茶店に来ていた。春里は嬉しそうにマンゴーたっぷりのパフェを食べている。豪華なだけあってお値段もそれなりだ。だけれど、幸せそうな顔で春里が食べるものだから貴之は安いものだと思ってしまう。貴之はバームクーヘンを食べている。こちらはセットでコーヒー付き。白い四角い皿にバームクーヘン四分の一にカットされているものが二枚。生クリームとフルーツが添えられているものだ。フルーツは桃とメロンとバナナだ。結構見栄えの良い豪華さだ。


 店内はとても男は入れないくらいに乙女チックだ。昔見たことのある人形の部屋のような作り。外観からして覚悟はしていたものの、店内に入った途端貴之の足は止まった。そして、一瞬意識が飛んだ気がした。デザートもコーヒーもおいしいが、今回だけで遠慮したい空気があった。


「大丈夫ですよ。今度は春と来ますから」

 見透かした春里の言葉に少しバツの悪い思いがした。だけれど、それは仕方のないことだ。この店内で何も考えず、平然といられるほど子供ではないし、羞恥心が希薄ではない。

 春里はこの店をとても気に入っていた。それが店内に入った時の表情からも分かった。そして、眼の前にあるマンゴーパフェ。惜しみなくこれでもかと乗っているマンゴー。これを見れば満足するに決まっている。本当はまた一緒に来てあげたい。幸せそうに食べる春里の表情を眺めていたい。だけれど、やはりこの居心地の悪さは御免こうむりたい。


「俺とはできればもっとシックな感じの店がいい」

「たまにはいいでしょう?女性と一緒じゃないと経験できない空間ですよ」

 確かにそうなのだが、男である貴之が異分子の様で本格的に居心地が悪い。時折投げられる視線が擽ったいというか、なんというか。笑われているような気がして被害妄想満載だ。


「嫌々ながらもこうやって付き合ってもらえる事は嬉しいです。わたしの我が儘をきちんと聞いてくれますもんね」

 春里はマンゴーと生クリームをフォークに乗せ、大きな口を開けて食べた。


「まあ、どんな経験も春里と一緒ならいいかなって思ってしまうんだよな。男ってそんなところがあるんだよ、きっと」

「それはちょっと違うんじゃないですか?性格の問題です」

「でも、奏太もきっとそうだよ」

「奏太さんの場合は居心地が悪いなんて思わないでしょうね。この空間と時間を楽しんでしまうタイプです」

「確かにそうかもな」

 春里の手が止まった。


「春、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だろう?そんなに奏太が信頼できない?」

 軽薄そうに見える友人の姿を浮かべる。いつもにこにこしていて、頼りない感じはするが、新は男らしいと貴之は思っている。他の誰かはどう思っているかは知らないが、ずっと近くにいたのだから貴之の評価は正当なものだ。と信じたい。

「違いますよ。そういうんじゃないんです。ただ、春はずっと不安げでしたし、無責任だったかなって今でも引きずってしまっているんです」

「あの奏太だよ。すでに仲良くしていると思うな」

「……そうだといいんですけど」

「大丈夫。釘も刺したし、問題ない」

「そうですよね」

 再び春里の手が止まった。一度心を許した友人ならとことん心配し、思いやるタイプなのだろう。無責任な事ができないしっかりした春里らしい。


「きっと奏太さん、春に連絡先聞いていますよね」

「基本だからね」


奏太は猪突猛進。目的にまっしぐら。


次回もまだまだデートは続きます。


次回もお付き合いください。

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