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初恋の彩り  作者: みこえ
~始まり~
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【言葉の破壊力】

 火曜日の夜、春里は貴之に電話をかけた。春里が貴之の告白の返事をしてから、つまり二人が恋人同士になってから、貴之は夜十時過ぎに必ず春里に電話をしてきていた。だが、今回は春里がどうしても貴之に話したくてうずうずしていたため、春里から十時前に電話をかけた。ただ、貴之がその時間何をしているか分からないため、邪魔をしてしまっていないか不安ではあった。


『もしもし?』

 貴之の不安そうな声が聞こえ、春里自身も不安になった。

「もしかして今は駄目でしたか?」

『テレビ観ていたところだから大丈夫。それよりどうした?春里から電話をかけてくるなんてよっぽどの事じゃないかと』

「それでその声だったんですね。別に悪いことではないんです。どちらかと言えばいい情報」

 春里は奏太の顔を思い出し、クスリと笑った。


『なに?』

「今日、奏太さんが来ましたよ。律儀ですよね」

 貴之は声を出して笑った。

『想像通り行動する男だな。それで色々話したんだ?』

「はい。またパフェをご馳走になりましたよ。あれはおいしい」

『春里は甘いものを与えていれば機嫌がいいからな』

「違いますよ。別に嫌なことなんて奏太さんに言われていませんもん」

『奏太は春里を傷つけるような事は言わないよ』

「そうですよね」

 春里はベッドに寝転がり、天井を見つめた。


「それでですね、奏太さん、春に一目惚れしたようなんです」

 春里は口にした途端、貴之にばらしてしまって良かったのかと一瞬考えた。だが、すぐにいいのだと結論付けた。春里に話せば貴之に筒抜けだと言う事は奏太も承知のはずだ。春里が嬉々として奏太の恋の話をネタにする事くらい想像していただろう。言われたくないなら口止めくらいはするはずだ。まあ、あの時は急な出来事だったから、そんな事など考えられなかっただろうが、今は覚悟くらいしているはずだ。


『奏太が?』

 相当の間の後、貴之が口にしたのはこんな言葉で、相当驚いている事が春里に伝わった。

「以前、貴之さんが定期券を拾ってあげた女の子を覚えていますか?」

『え?』

「そのあとサル軍団に意地悪された女の子ですよ」

『ああ。あの子か。――もしかして、あの子に一目惚れ?』

「はい。今日珍しく部活がお休みで一緒に帰ったんです。偶然って素晴らしいですね。見事に出逢いましたから」

 出逢いはそうやってできているのだろう。春里と貴之だってそうなのだから。


『そうだな。考えてみるとすごい偶然なんだ』

「はい。貴之さんの奏太さんへの報告が遅れたことも偶然の中にありますからね」

 そう、貴之が日曜日に電話をしていたら奏太は月曜日に春里に会いに来ていたかもしれない。もしかしたら大学の都合で火曜日になっていたかもしれないが。そして、偶然にも火曜日、春が部活が休みだった。まるで、二人は出逢うべくして出逢ったようで、春里は嬉しくて仕方ない。


「考えれば考える程ロマンチックな話ですよね」

『相手が奏太じゃなけりゃね』

「何を言っているんですか。奏太さんだからおもしろいんですよ。これからも二人を観察できるじゃないですか?分かりやすい身近なサンプルですよ」

 奏太が恋をした瞬間に春里は立ちあった。だから、それからをずっと見ていきたいと思うのだ。心の、感情の変化をじっくりと。


『春里、その表現は悪趣味だよ』

「いいんですよ。その分できる限り協力はするつもりですから」

『それって当然じゃないのか?』

 貴之のクスクスと笑う声が春里の耳を擽った。貴之と電話で話をする事が恥ずかしい。ずっとわざわざ電話で話をする事など無かったから、これが日常になると、照れてしまうのだ。

「恩を着せておかないとですからね」

「悪女だな」

「悪女じゃなくて悪人間です。女だからってわけではないので」

『変なこだわりだな』

 貴之の声は楽しげだ。


『で、奏太の恋は実りそうなのか?』

「どうなんでしょう。春には恋人がいないことは確かですけど、恋の話をした事がないんです。まあ、彼女はミーハーで、遊び程度で男性の話はするんですけれどね」

『じゃあ、これから色々探りを入れてみるんだ』

「はい。あくまでもさりげなく」

『そういうの、得意そうだもんな』

「なんか、他意を存分に含んでいるような言葉ですね」

『違うよ。素直な気持ち』

 貴之はまた楽しげに笑う。その度に春里の耳は擽ったく感じ、鼓動が速まる。


『それにしても奏太も今は恋人なんていらないなんて言っていたくせに、恋に落ちるのはあっという間だな』

「そう言うものなんじゃないですか。恋をしようと思って出来るものではないと思うし。恋をしないと思っていた時に恋をしたと言う事はそれくらい真実だって事ですよ」

『そうだよな。そういうことだよな。俺もそうだし』

「え?」

『俺だって恋人なんていらない、ろくでもないって思っていたんだからさ』

 春里は跳び起きた。そして、鏡に映る自分の姿をじっと見つめる。


「すごい事言いませんでした?」

『そうか?春里だって知っていただろう?そのくらいさ』

「ええ、まあ」

『俺はずっとあんな環境にいたからやさぐれていたんだよ。捻くれていたって言うのかもな』

 貴之は高校時代、同じ高校の女の子に人気があった。その人気は限度を知らない。貴之に自由はなかった。特に女の子と話をする自由だ。自由を拘束された貴之の気持ちがすさんでもおかしくはなかった。


『だから高校時代は諦めていた。青春を楽しむ方法なんていくらでもある。今俺が楽しむのは恋愛ではなく友情なんだって言い聞かせていた』

 春里は携帯電話を強く握った。


『なのに、春里を好きになった』

 春里はおもいっきり息を吸い、そのまま止まった。

『それもまた、春里の言う『真実』って事だろう?』

 春里はそのまま横に倒れ込んだ。そして、息を吐き、苦しくて何度も荒々しく息をした。


『春里?大丈夫?何があった?』

 電話の向こうで焦る貴之に「大丈夫」と返事をしたかった春里だが、苦しくて声が出なくて返事ができなかった。


『春里?どうした?』

 春里は何度も深呼吸を繰り返す。やっと頭も回ってきた。すごい事を覚悟がないまま言われ、いや、覚悟はしていたが、予想以上の事を言われ、どうしていいのか分からなくなって、総てが吹っ飛んでしまった。


「大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから」

『そんな驚くような事言ったか?』

「言われた。貴之さんがそんな事を口にするなんて思ってもみなかったから、覚悟が足りなかった」

『なんだよ、覚悟って』

「突然破壊力のすごいモノが飛んできたら受け身がとれなくてやられちゃうでしょう。受け身が覚悟って事」

『分かんない』

「別に悪い事を言っているわけじゃなくて、もっとわたしは覚悟をしないといけないのかなって思うくらい、貴之さんに愛されているな――て」

 春里の思考はまた止まった。


 ――今わたし何を口走った?

 そのまま動かず、貴之が電話の向こうで呼んでいても返事さえできなかった。


もじもじもじ、の春里になっているでしょうか……?


次回は貴之の日常。大学生活です。


次回もお付き合いください。

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