【俊介と貴美のバランス】
広い家に二人。俊介と貴美。別に今まではどうって事のないことだったが、春里が来てからは、春里がいる事が当然で、二人きりで家にいることなど無かったから、どうも心地が悪い。何かが不足している、そんな感覚に襲われる。それでも、泊まっておいでと言ったのは貴美本人で、少し母親として言ってはいけないことだったのではないかと反省もしたが、やはりやっと結ばれた者同士、募る想いがある事を知っている以上、このくらいの甘さは必要だと感じていた。
俊介と二人きりでとる食事。どのくらいぶりだろうか。貴美は考えを巡らせながら、料理を作る。今日は俊介の好きな食事を作るため腕をふるった。ブリ大根は俊介の大好物だ。それを温めながら、サラダの盛り付けをする。温まった豆腐とわかめの味噌汁を装う。その間も貴之と春里が今どうしているのか想像していた。貴美は想像するだけで嬉しくなるのだ。
総てテーブルに並べ終えると、リビングから俊介がやってきて、席に座る。何か言いたげな姿に貴美は笑いそうになった。だが、それをわざと無視して、貴美も席に着いた。 二人で並ぶ食事と言うのもまた違和感がある。貴美は迷った挙句、俊介と向かい合って座った。
食事を始めてずいぶん時間が経った頃、俊介が徐に口を開いた。
「今日は春里はどうした?」
ずっと気になっていたのは俊介の態度を見れば一目瞭然だ。
「貴之のところに行っていますよ」
「貴之のところか」
何かを察したのか、何度か俊介は頷いた。
「それにしても、遅くないか」
俊介は時計を見る。すでに二十時になっている。
「今日、春里ちゃんは帰ってきませんよ。貴之のところに泊まってきます」
貴美の言葉に俊介の動きが止まった。息もしていないような俊介に、貴美は声を出して笑った。
「笑い事じゃない。年頃の男女が同じ部屋で一夜を共にするなんて……」
「今更ですか?」
「え?」
「ですから、今更何を言っているんですか?気づいていないなんて言わないでくださいね。春里ちゃんをうちで引き取った時点で、年頃の若い二人が同じ屋根の下で二人きりの夜を過ごす事になっていたんですよ」
呆然としている俊介を見て、貴美は唖然とした。しかも部屋は隣同士で、鍵も付いていないのだ。
「もしかして、気づいていなかったんですか?」
俊介は素直に頷いた。
「今気づいた。そうか。そう言う事か」
「わたしはずっと貴之を信頼してくれているんだと思っていたのに、違っていたんですね」
「信頼はしている。だから大丈夫だろうと思っていたのは事実だが……」
一番に心配することではないだろうか。貴美は俊介の感覚を疑った。どこか抜けているとは思っていたが、こんな間抜けだとは思ってもみなかった。
「やっぱり仕事馬鹿なんですね」
貴美はそう言ってクスクスと笑った。事実だから俊介は言い返せない。バツの悪そうな表情をして、俊介は俯いた。
色恋には疎い。それは充分分かっている。疎くなければ春香と離婚するような事はなかっただろう。異性の感情を正しく感知し、把握できないからこそ彼は失敗をしたのだ。お陰で貴美は俊介と出逢い、結婚することができたのだが。仕事馬鹿とは言ったものだ。きっと俊介は他人の心が変化することを知らない。淋しければ移ろう。そんな簡単な事を知らない。だからこそ、貴之が春里にどんな感情を抱き、どんな風に思っているかを知らない。
「大丈夫ですよ。貴之には念を押しました。そりゃ、誤魔化されたらおしまいですけれど、二人はとても素直ですから、何かがあったらすぐに分かります。見抜く自信がありますよ」
貴美はにこりと微笑み、食事を再開した。
あまり出てこない俊介の性格が少しだけ垣間見える感じで。
次回はまた甘い二人。フン!
次回もお付き合いください。




