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初恋の彩り  作者: みこえ
~始まり~
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【お互いの好みの相違】

 隣で鼻歌を歌いながら軽快に野菜を切っている春里を見ていると自然に笑みが浮かぶ。久しぶりに見る春里の料理をする姿は、無駄のないきれいな動きをしていた。


「棒々鶏のタレを作って」

「諒解」

 貴之は、おろし生姜、砂糖、白練り胡麻、酢、醤油を目分量で混ぜていく。以前は指示を仰ぎ、きちんと分量を量っていた。小さじや大さじなど面倒くさかったが、それがおいしさへの道だと言われ、手間をかけた。今は慣れて来たせいか、そんなに几帳面にならなくてもうまくいくようになった。仕上げにラー油を垂らす。スプーンで掬ってそれを舐めた。


「うん、うまい」

 貴之の声に春里が反応して、貴之を見た。

「春里もどうぞ」

 あまり気にする事もなく、自分で舐めたスプーンをそのままタレに入れて、タレを掬い、春里に差し出した。だが、しかし、春里は貴之のその仕草に総てが固まり、動かなくなった。そして、しばらくすると、めずらしいほどに春里の顔が朱く染まった。


「なに?どうした?」

 貴之は首を傾げて尋ねると、春里は勢いよく(かぶり)を振った。そしてゆっくりとそのスプーンを口に含む。


「どう?うまいでしょう」

 貴之的にも自信があったから、自慢げに言ってみたが、春里の反応はあまりいいものとは言えなかった。


「春里?」

 突然春里はしゃがみこんだ。手で顔を隠して。

「なんか、なんか、これだけで恥ずかしい」

「おい」

「だって、わたしが意識し過ぎだと思うんだけど、なんて言うか、恋人同士の仕草だなって――」

 その後の言葉は続かなかった。


 ――うわ、すっげーかわいい。どうしようもないくらいかわいい。

 貴之は春里が見ていない事をいい事にニヤニヤと笑った。こんな春里を見られるのは今のうちかもしれない。慣れてしまえば、あの仮面をかぶった春里が復活する恐れがある。だからこそ焼きつけようとじっと見つめた。


「貴之さん、ずるいですよ。絶対にわざとやっていますよね。わたしを困らせようとしていませんか?」

 春里が焦っている事が分かる。それだけで貴之は得した気分になる。貴之はしゃがみ、春里の頭を撫でた。春里の顔がゆっくりと上がると、潤んでいる瞳が眼に入り、貴之は思わず頭を胸に引き寄せ、抱きしめた。衝動的だった。


「意地悪じゃない。でも、こんな春里も悪くない。いや、こんな春里をずっと見ていたい」

「そういうことを言わないでください」

「今だけでも許して」

 貴之が春里の耳元で囁くと、春里は貴之の胸元で唸った。


「意趣返しを考えているのに、頭が働かない」

 かわいらしい発言に貴之は笑った。

「復讐されるの?」

「仕返しです」

 ――もうかわいいなあ。

 言葉にはしないが、ずっと貴之は叫んでいた。こんなに幼くてかわいらしい女の子なんて思っていなくて、本当に嬉しくて仕方ない。


「春里、もうそろそろ作ろうか。俺はずっとこうしていてもいいけど、やっぱりはらは空くし」

 顔を上げた春里は口を尖らせて貴之を睨んだ。だが、その睨んだ瞳さえ、潤んでいてかわいらしいだけだ。貴之はにこりと微笑み、頬をそっと撫でた。


「その眼、かわいいだけだよ」

「貴之さんってそんなキャラでしたか?」

「うん、そうみたい。今日知った」

「騙された」

 春里は唸るように言って、貴之の胸に顔を埋めた。




 小さなテーブルにたくさんの料理が並ぶ。春里と貴之の合作である料理。この光景に二人は笑った。


「なんか懐かしい感じです」

 春里が恥ずかしそうに言った。

「確かに照れる。だけど、これからはこんな光景も当たり前になるんだ。毎週末は会いに来てくれるでしょう?」

「わたしが、ですか?」

「え?」

「わたしに会いに貴之さんが来てくれるんじゃないんですか?」

「やだ。なんかあの家は広すぎる。ここはべったりくっついていても不自然な感じがしないからいい」

「なんですか、その理屈」

 春里は呆れた口調で言った。そして、突然クスクスと笑いだした。


「でも、確かにここだと自然に寄り添えますよね。いいですよ。お父さんと貴美さんが許してくれれば来ます」

 春里の言葉に難関は俊介なのだと貴之は知った。すっかり俊介の存在を忘れていたのだ。春里の実の父である俊介はどう反応するだろう。少しだけ恐ろしかった。


「まずは食べましょう。せっかく作ったのに冷めてしまっては台無しですよ、お兄ちゃん」

「おい、それ止めろよ。なんか微妙な心情になる」

 春里はクスクス笑い、挨拶をした後、麻婆豆腐に手を出した。貴之もそれに続く。


「うわ、これからい。からくした?」

「はい。からくしましたよ」

「春里はからいのが大丈夫なのか。俺はちょっと苦手だ」

 貴之は冷たいお茶を飲んだ。それでも舌のしびれが消えない。はあはあ言っている貴之を見て春里は笑った。声をたてて楽しげに。


「麻婆豆腐は俺が作るんだった。以前もこんな感じだった事を忘れていた」

「わたしが作った方がおいしいって言ったのは貴之さんですよ。ご飯と一緒に食べればからさも中和されます」

 春里はそう言って棒々鶏を食べた。


「うん、このタレおいしくできていますよ。さすがですね、貴之さん」

 天使の笑みで言われ、貴之は何とも複雑そうに顔を歪めた。


「ありがとう。なんか俺、先が思いやられる」

「どういう意味ですか?」

「復活した春里は最強だってことだよ」

 貴之は卵スープを飲み、ご飯を勢い良く食べた。そう、春里には敵わない。どんな春里もかわいいと思ってしまう貴之は、いつまでも春里には敵わないだろう。だけれど、それがなぜか楽しい。きっと尻に敷かれても。


「まあ、悪口ではないならいいです」

 春里はおいしそうに麻婆豆腐を食べた。


甘くなっているといいのだけれど……。甘いと信じて書くのですが、読み返すと甘いのか甘くないのか分からなくなるという。


次回は両親の会話。


続けてお付き合いください。

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