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初恋の彩り  作者: みこえ
~始まり~
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【貴之の気持ちと春里の想い】

 貴之は今日とても早く目覚めた。興奮して、あまり眠っていないと言うのが正解だ。昨日の帰り、コンビニエンスストアでお菓子と飲み物は買った。掃除機もかけた。シンクも磨いた。部屋に変なものが転がっていないか何度も確認をした。それでも、時間はあまり、そわそわする気持ちを落ち着かせることができずにいた。もう一つ言えば、大学を休んだ。


「早く来て欲しいような欲しくないような。でも、あの笑顔を見たい。会って、あのかわいい顔を見たい」

 もう、一人暮らしに慣れてしまったのか、独り言が多いことは気にしない。こんな貴之を見たら日村も興醒めかもしれない。こんなプライベートな姿を見せることはしないけれど。


「あと何か忘れていないかな」

 貴之の癖がここでも出る。狭い部屋を右往左往して、時間を潰す。落ち着かない気持ちが一層落ち着かない。だが、せずにはいられないのだ。


「水でも飲もう」

 独り言もまた落ち着かない気持ちの表れでもある。多分。


 冷蔵庫から二リットルのペットボトルを取り出し、グラスに水を注ぐ。一気に飲み干すと、冷たい水が身体に這入っていくことが分かる、上気した身体を一気に冷やしてくれた感じだ。


 グラスを軽く水ですすぎ、籠に入れる。せっかく掃除をしたのできれいなままにしておきたかった。


 そうこうしているうちに時計の針は十一時半を過ぎた。時計の針をあともう少し早めたら早く来てくれるだろうか。などと幼い考えをして、貴之は溜め息を吐いた。


「馬鹿っぽい」

 力を抜くようにローソファに倒れ込み、仰向けで天井を見つめる。真っ白な天井。


「すっげー、緊張」

 貴之が呟くと、チャイムが鳴った。貴之は勢いよく起き上がった。一度深呼吸をし、気持ちを落ち着かせると、早足で玄関に向かう。勢いよくドアを開けると、そこには待っていた愛しい女の子の姿。


「いらっしゃい、春里」

 見事に笑う事を失敗した。そう貴之も分かり、バツが悪い気持ちになった。

 春里は先程まで伏せていた眼を上げ、少し困ったような表情を浮かべた。

「こんにちは。この荷物持ってもらえますか?お弁当も入っているので雑には扱わないでください」

 春里から手渡されたバッグはとても大きなもの。持つと結構重くて貴之は驚いた。


「他に何が入っているわけ?」

「うーん、日用品とか、ご飯のお供とか」

 ――お袋か。

 春里に持たせるのだからもう少し考えて厳選すればいいものを、どうしても絞れなかったのだろう。


「こんな荷物なら迎えに出たのに」

「いえ。大丈夫だったので」

 貴之はバッグを肩にかけて、キッチンへ向かった。春里は部屋で一人ずっと立ってキョロキョロと見ていた。初めて来たから興味があるのかもしれない。


「ソファにでも座って」

「はい。でも、お昼の用意をしないと」

「お弁当を持っていけばいいんでしょう」

「いえ、そのバッグの中に、インスタントのみそ汁が入っているんです。それを淹れましょう」

「分かった」

 貴之はケトルに水を入れ、お湯を沸かした。この動作はよくやることなので慣れている。


「それにしてもお袋、むやみやたらと入れているな」

「そう?必需品ばかりでしょう。インスタントのみそ汁にお茶漬け、ふりかけ、梅干し、カップスープに缶詰各種。歯ブラシにハンドソープ。本当はシャンプーとコンディショナーとボディーソープも入れたかったらしいけれど、入らなかったみたい」

「それ入れたら重たいだろう」

「まあね。でも、貴美さん楽しそうに準備しているから何も言えないよ。気持ちは分かるし」


 貴之は料理もそれなりにできるし、本来面倒くさがりでもないのだからそこまで心配することはない。今までは、春里の事もあり、面倒くさがりになっていたけれど。


「弁当とお茶を持って行って。お湯も沸いたからみそ汁淹れる」

「諒解です」

 春里は二リットルのペットボトルを脇に抱え、両手に弁当箱を持った。行儀とかそういうことは考えない。それが春里だ。


 弁当はなぜか箸付き。だから、貴之はみそ汁とグラスをトレーに乗せて運んだ。


 すでに春里はソファに座り、弁当箱を包んでいた袋から取り出していた。蓋はまだ開いていない。蓋を開けるのは弁当を食べる時の醍醐味の一つだ。だから、開けられているとそれだけで貴之はがっかりする。楽しみが半減すると言っても過言ではないだろう。多分。


「では」

 貴之はお弁当箱の蓋に手をかけた。春里はグラスにお茶を注ぐ。

「うわ、すごい。うまそうなものがたっぷりだ」

 色鮮やかなお弁当はとてもかわいらしかった。俵型のおにぎりも、小さなハンバーグも女の子らしい。ウインナーはお約束のタコだ。


「これすごいな」

「いい反応をしてくれますね。作った人間として嬉しい限りです」

 本当に嬉しいようで、春里はとてもにこにこだ。久しぶりに見るその笑顔に貴之は見惚れた。それに気づいた春里は心地悪そうに視線を逸らした。それでも、貴之はどうしても視線を逸らせられなかった。


「なんか嬉しいよ。本当に」

 言おうと思って口にした言葉ではなかった。ただ、言いたかったから溢れだした言葉だった。貴之さえこの言葉を口にした途端驚いた。そう、ずっと気持ちは昂っていたのだ。高揚していて、落ち着かなかった。ずっと見たかった春里の笑顔を目の当たりにしてどうして落ち着いていられるだろう。


「貴之さん?」

「うん、ごめん。でも、もう少しこうしていたいんだ。春里の顔を見ていたい」

 春里は恥ずかしそうに俯いた。


「それじゃ、顔が見えない。大丈夫。抱きしめたりしないから。お願いだから願いを叶えてよ」

 貴之の甘い声が狭い部屋に響いた。春里はゆっくりと顔を上げた。潤んだ瞳が印象的だった。


 しばらく貴之は春里を確かめるように見つめていた。柔らかそうな唇に眼を奪われ、何度も瞬きをする瞳を見つめ、ポンとついているかわいらしい鼻に触れたい衝動を持った。


「貴之さん、そろそろわたしは限界です」

「え?何が?おなか空きすぎた?」

 貴之の言葉に春里は少し呆れた表情を見せたが、すぐに声を出して笑いだした。


「ええ、その通りです。おいしいお弁当が眼の前にあって、いい匂いが鼻を擽るんです。おなかが鳴りそうで大変ですよ。どうしてくれますか?おなかがストライキを起こしたら」

「起こさないから大丈夫。おいしい食べものなら食べられないっていう心配は起きない」

 食べ過ぎると言う事はあっても食べることを拒否することはまずない。だから、ストライキは起こらない。


「意地悪を言わずに食べましょう」

 春里はそう言って箸を持ち、「いただきます」と頭を下げながら言うと、お弁当を食べ始めた。貴之も春里に遅れてお弁当を食べ始める。


「うん、さすが春里だね。冷えてもやっぱりハンバーグはおいしいよ」

 春里は満足そうに微笑んだ。一緒に暮らしていた時は当たり前の光景だった。出逢ってすぐ春里に「わたしが真心込めて作った料理なんですよ。何か感想はないんですか?」と言われてからと言うもの貴之は料理の感想は欠かさなかった。ほんの少しの事だけれど、その習慣が今再現されている事に貴之は感動さえ覚えた。


 ――嬉しい。

 そう、またこうやって春里の手料理を食べる事ができたこと、料理の感想を口にできた事は最高の出来事だ。もしかしたら、当分そんな経験できないかもしれないと諦めていたからこそ、貴之は口に入れた料理を充分に味わった。



 二人、お弁当を食べ終え、お茶を飲み、まったりとし始めた頃、春里がそわそわし始めた。そう、きっかけがなかったのだ。貴之もどう聞けばいいのか分からなかった。でも、きっかけを作るのは貴之の役目だろう。勇気を持って電話をし、ここまで春里は来てくれたのだから。


「春里、俺覚悟は決めているよ。まあ、天にも昇るような返事がもらえたら最高だけどね」

 貴之はじっと春里を見つめた。春里の視線とぶつかると、愛しさが倍になって返って来る。貴之は姿勢をただした。そして、春里の表情がしっかり見えるように向き合った。


「もう一度言う。俺は春里が好きだ。あの時よりももっと好きだ。会えなかったから一層気持ちが積み重なった。だから、俺の気持ちに誠実に答えて」

「わたし、わたし貴之さんが好きです。やっと素直になる決心がつきました。ずっと返事を遅らせて、曖昧にできたらなんて甘い考えをしてしまって、すみません」

 春里の瞳が忙しなく動いた。


「何言っているんでしょうね。ちょっと、いえ、ちょっとではなく、テンパっています」

「つまり、俺の恋人になってくれるってことでしょう?」

 貴之の言葉に恥ずかしそうに春里は頷いた。

 ――最高だ。この瞬間が一番だ。

 貴之の鼓動は高鳴り、叫びたくて仕方なかった。だから仕方なかった。言い訳なんて何でもいい。貴之は思わず春里に抱きついた。ぎゅっと抱きしめ、存在を確認する。そして、ふと我に返った時、突然の衝動によっての自分の行動に照れた。春里を見ると、呆然としている。


 ――こんな春里もかわいいな。

 どんな春里だって貴之にとってはかわいい。でも、この慣れていない感が何とも言えない。


「ご、ごめん。思わず抱きついた。――ねえ、もう一度抱きしめてもいい?嬉しくてどうしても抱きしめたい」

 春里の返事を待たずに貴之はおもいっきり春里を抱きしめた。


「やっとだ。やっと春里を抱きしめられる」

 一段と手に力を入れた。やっと春里の温もりを味わう――なんか意味ありげ――ことができた。ずっとこうしていたい。貴之は本能のままずっと春里を抱きしめていた。


やっと二人は結ばれましたね。引っ張りすぎたけど、この二人だから仕方ない。


次回は貴之ってこんな奴だったの?きっと待たされた分だけそうなってしまうのでしょう。


次回もお付き合いください。

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