【初めてのお弁当】
土曜日、朝起きてから、春里は張り切っていた。貴之にご飯を作ることはよくあったが、お弁当を作るのは初めてだ。だからこそ、気持ちが弾んだ。ふりかけを混ぜたおにぎりと、ミニハンバーグ、ポテトサラダ、チーズ入り卵焼き、ウインナー、ほうれん草のおひたし。それらを二つのお弁当箱に詰め込む。貴之のものは春里のものよりも倍くらい大きい。
「あら、おいしそう」
今日は夜勤の貴美は、いつもならもっとゆっくりと眠っているのに、早起きをして、貴之への荷物を作っていた。春里が持っていくのだから大量にはできないが、息子を想う母親の愛情だろう。バッグはパンパンだ。
「お弁当なんて久しぶりです」
「とてもきれいにできているじゃないの。貴之は幸せ者ね」
そう言って貴美は卵焼きの端を摘まんだ。
「うん、やっぱりおいしいわね」
「お墨付きですね」
貴美は春里が貴美用に作ったおにぎりを片手にダイニングへ行った。春里はそれを見届けると、仕上げにミニトマトを添え、お弁当箱を閉じた。
今日の春里の服装は珍しくジーパンだ。半袖のTシャツに長袖のチェックのシャツを着ている。とても好きな人に久しぶりに会いに行く服装ではない。だが、貴之の部屋に行くと思うとどうしてもこれだけガードをしてしまうのだ。別に貴之を信じていないわけではない。貴之の事だから、どんなことでも春里が嫌がることはしないだろう。それが分かるから余計なのだ。挑発するような、本能を擽るような、そんな服装だけはしたくなかった。春里は仕上げに髪をポニーテールにし、鏡で姿をチェックした。
「よし」
大きめのななめがけのバッグには、下着とTシャツ、あとはお泊りセットが入っている。貴美に渡されたバッグには梅干しやふりかけなど、ご飯のお供を中心に生活用品が詰められていた。そこにお弁当も入れ、準備オッケイだ。かなり重たいが、電車の中では座れるだろうし、問題はないだろう。それに、このバッグには春里の愛情と貴美の愛情がたっぷり入っている。
「では、行ってきます」
すでに緊張している春里とは反対に貴美はとても嬉しそうだ。
「いってらっしゃい」
外はすでに暑い。だけれど、この陽射しが歓迎されているようで嬉しかった。これから行く場所でこれから言わなければならないこと。緊張するけれど、それ以上にやっと伝えられることが嬉しかった。
およよ。まだ、返事には至りませんでしたね。まあ、仕方ありません。春里ですから。
次回はやっと、です。
次回もお付き合いください。




