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初恋の彩り  作者: みこえ
~始まり~
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【自棄はもういらない】

 春里からまだ連絡がなく、どうしたらいいのか分からなくなっていた。貴之は家に一人でいると様々な嫌な事を考えてしまうため、家泉に誘われるたびに遊びに出かけた。それが合コンもどきだろうとなんだろうと関係なかった。


 今日の夜はカラオケだった。盛り上げ役の家泉は忙しそうに動き回っている。その姿を見ると気が利いていて感心する。貴之には到底まねのできないことだ。あんな家泉を馬鹿にする人間もいるが、こんな風に動ける人間はそうはいない。


「ねえ、このまま二人で抜け出さない?」

 以前、やはり合コンのような食事会の時、貴之の隣にいた女がやはり貴之の隣を陣取っていた。最近は貴之の隣は彼女の特等席だ。名前は日村楓(ひむらかえで)。貴之は最近知った。別に貴之から聞いたわけではない。日村から言ってきたのだ。


「抜け出さない」

「もう、冷たいんだから」

「そう?」

「そういうところも素敵だけどね」

 日村は貴之の腕に縋りつき、上目遣いで見つめる。ぷっくらとした唇を少しだけ開け、色気を出す。そんな技を遣ったところで貴之には通用しない。


「わたしは竹原君が大好きだから」

 きゃっと言いながら、わざとらしく顔を腕になすりつける。その時、貴之が眉を顰めていることにも気づかずに。


「おい、貴之、そういちゃいちゃするな。むかつく」

 家泉が貴之を指差しながら言った。どこをどう見たらいちゃいちゃしているように見えるのだろう、家泉の感覚が理解できない。


「俺、帰ろうかな」

 耳聡い日村は顔を上げた。

「一緒に帰ろう」

 とても嬉しそうな笑みだ。


「何で一緒に帰らないとならない?」

「それで家まで送って。コーヒーくらいはご馳走するから。まあ、ついでに」

「要らない。だから送らない。他の男でも誘えば?」

 貴之は立ち上がった。

「ちょっと」

 貴之の腕を引っ張る日村を貴之は睨みつけた。


「うざい」

 日村の手を払い、カラオケの画面の前を通り、家泉のところまで行く。

「今日は帰るよ。ちょっと気分悪い。化粧と香水の臭いでやられた」

「そう?じゃあ、また今度」

 わざとらしい笑みを家泉は浮かべた。


「日村さんはいいと思うよ。遊び相手として」

 家泉に好きな女性がいる事を告げて以来、家泉は貴之を本当に誘わなくなっていた。だが、ダメでもともとと言う感じで、貴之を誘った時、貴之は悩むこともなく頷いたのを見て、何かを感じ取ったようだった。それは多分間違った感じ取り方をしたのだろうが、家泉なりに貴之に気を遣ってくれているようだ。何かがあるたびに貴之を誘いに来る。家泉としても女の子に半分脅されてのことらしいが。


「それ、卒業したから」

 貴之は家泉の肩を叩き、部屋を出た。一瞬見えた家泉の驚いた顔を思い出すと笑える。

「その遊びはつまらないんだよね」



 七月に入り、夏休み直前になったが、まだ夜は過ごしやすい。貴之はゆっくりと歩きだした。

 時間を確かめるため、ポケットにしまっておいた携帯電話を取り出した。携帯電話は点滅していて、着信があったことを知らせていた。


「春里だ」

 待ちに待った春里からの連絡を受ける事ができなかった事を悔しく想いながら、ベンチに座り、春里に電話をかけた。


『もしもし』

 かわいらしい声が聞こえて思わず貴之は微笑んだ。

「ごめんな。せっかく電話をくれたのに」

『いいえ』

「何か久しぶりだな、声を聞くの」

『何かすみませんでした。それで、土曜日にお会いできないかと』

 この言葉をどのくらい待っていただろう。やっと結論が出る。それはずっと貴之が待っていたものだ。怖いけれど、もう待ちぼうけは御免だった。

「うん、もちろん」

『よかった』

「で、どこで会う?」

『じっくりお話ししたいので、その……貴之さんの部屋に行ってもいいですか?』

 一瞬貴之の頭は真っ白になった。


『あ、無理ならいいんです。そうですよね。ちょっと唐突すぎですし、失礼ですよね。いろいろと』

「それって――覚悟をしてきてくれるって事」

『え?』

「い、いや、なんでもない」

 お互いがぎこちなくなるのは意識しているからだろう。貴之のところに来るからと言って、色々な事を飛び越えて関係を結ぶなんて事を春里がするはずがない。貴之は気持ちが昂り過ぎて、すごい事を口走ってしまった事に焦った。ずっと待っていたのだ。一つの行動で総てをぶち壊す事だけはしたくない。


「駅で待ち合わせをしよう」

『いいえ。いろいろ心構えをしたいので、部屋まで一人で歩いていきます』

「でも、分かるの?」

『迷ったら連絡を入れますから心配いりません』

「そう?なら待っているよ、春里」

『はい。待っていてください。御弁当作って伺いますから』

「春里のお弁当か。それはいいな」

『一緒に夕飯も作りましょう』


 貴之が思い描くのは新婚夫婦のような光景。春里と貴之があの狭いキッチンに並んで夕飯を作る。去年はよくやっていた事なのに、なぜか今は特別なことのような気がするから不思議だ。


「ああ」

 何もかもが楽しみだった。先程までささくれ立っていた心が今は穏やかであることに、春里の力を貴之は知った。もう帰る事が嫌だなんて思わない。家に帰って、掃除をしなければならない。キッチンもきれいにしなければならない。もしかしたら、今日は眠れないかもしれない。


 その後、念を押すように貴之のもとに貴美から電話があった。うんざりするくらい念を押され、力尽きた。


もう一つ投入します。


春里、貴之にお弁当を作る。


お付き合いください。

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