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初恋の彩り  作者: みこえ
~始まり~
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【二人に流れる時間は特別?】

 貴之が一日の講義を終え、家泉と一緒に大学構内のカフェテリアでお茶をしている時、一人の女が、貴之の隣に座った。貴之はその行動に驚いた。


「こんにちは、竹原君」

 とても大人っぽい女性だ。ショートボブの 黒髪、前髪は長い。ルビーのピアスにルビーのネックレス、そして当然のようにルビーのリング。総てにおいて華奢だった。顔も首も腕も総て。清楚な感じの服装で白いカットソーとロングスカート姿だ。しかも、きれいな口の形で笑みを浮かべている。一番眼が行くのはその口元にあるほくろかもしれない。


田路椿(たじつばき)というの。二年生よ」

「はあ」

 突然現れた女性に、どう反応していいのか分からず貴之は馬鹿っぽく口を開けたままだった。


「初めて見かけた時から気になっていたの。ずっと話しかけるきっかけを探していたんだけれど、見かけた時はいつも誰かがいて、一人の時がないんだもの。もう諦めて、邪魔者がいてもいいや、って感じよ」

 田路は口を尖らせ、貴之の腕に触れながら言った。邪魔者とは家泉の事だろう。本人を眼の前にしてよくはっきり言えたものだ。家泉も家泉で、言われてしまえば意地になるもの。邪魔者扱いされてもそんな事は関係なく、見事に笑みを浮かべてそこに居座った。さすが兵だ。


「俺に近づいてくる女って何でこういう奴ばかりなんだろうな」

 貴之の呟きに田路はきょとんとした表情をした。何を言われているのか瞬時には理解できなかったのだろう。


「ひ、ひどぉい」

 自立している女のように見えるが、人は見かけに寄らないらしい。先程から甘えるような口調が耳につく。まあ、他人(ひと)の都合も考えずに我が物顔で隣に座り、友人を邪魔者扱いする女が自立しているとは思えない。と言うのは貴之の偏見だろうか。


「わたしは本気で竹原君が好きなのよ。それなのにそんな言い方をしなくても」

「なら、はっきり言う。俺には大切な女性がいるんだ。彼女しか考えられない」

 田路から一瞬表情が消えた。そして、見る見るそれは悔しそうな表情に変わり、下唇を強くかみしめた。


「それでも諦めきれないわ。たかがわたしより早く出逢っただけじゃないの。わたしを知ればわたしの方が魅力的だと知るわ」

 貴之は鼻で笑った。

「それはそっちの自由だが、君と彼女では雲泥の差だよ。魅力が違いすぎる。君では足元にも及ばない」

「し、失礼ね」

 貴之は田路の顔を見ながら般若のようだな、と思った。そう思うと笑いが込み上げてくる。それを抑えるのに苦労した。


「失礼なのはお互い様。俺の大切な女性を軽視してほしくないね」

 貴之は席を立ち、歩きだした。

「おい、待てよ」

 家泉は自分と貴之のカップを両手に持ち、それを返却した後、貴之を走って追いかけた。

「待てって」

「すっげーむかつく。何あの女。最近の中では最強最悪だ。大学まで来てあれかよ」

 貴之の感情は抑えきれない。


「だから女は嫌いだ」

「どうして?」

 貴之の呟きにすかさず家泉が尋ねた。

「高校の時、口うるさい女たちが俺の周りをうじゃうじゃしていたんだ。俺に話しかけてきた女を一人残らず叩き潰す女たちを見てきたんだよ。俺の感情なんて無視してさ、竹原貴之共有条約だぜ。ふん、そんな姿見ていれば嫌いになるものだろう?」

「でも、好きな女はいるんだろう?」

「俺は別に同性愛者なわけじゃない。魅力的な女性がいれば惹かれる」

 春里に敵う女などいない。そう、家泉に言おうとして、貴之はやめた。春里の魅力は貴之が知っていればいいことだ。それに、春里に直接接しなければ魅力など分かりっこないのだ。言葉で表現できる程薄っぺらではないから。


「へえ、女嫌いの貴之君の心を射止めたって言う女性に会ってみたいな」

「駄目だ。絶対におまえも惹かれるから」

「なに断言しているんだよ」

「それだけ最高な女って事なんだよ」

 恥ずかしげなく口にしたものの、言った直後、貴之は途端に恥ずかしくなった。すごい事を口にした。


 ――俺、怒りにまかせて。

 顔が熱くなった。それを見て家泉が笑った。

「うるさいぞケイチョウ」

「お、ケイチョウって呼んでくれた」

 弾けた家泉の声に苦笑し、貴之は逃げるように走り出した。




 貴之に奏太から電話があったのはその日の夜。大体話の内容は予想できる。コンビニエンスストアで買った唐揚げ弁当を一気に平らげた後だった。


『どうお過ごし?もしかして毎日浮かれているんじゃないだろうね。心がふわふわしていて勉強どころじゃなかったりして』

 奏太はからかうように言う。すでに二人は付き合っていることが前提なのだ。それが想像できたから貴之は電話に出たくなかった。


「奏太、落ち着け。まだ、春里からは返事はもらっていない」

『はあ?』

 素っ頓狂な声が耳元に聞こえ、思わず貴之は笑った。


『おまえ、笑い事じゃないぞ。何のんびりしているんだよ、二人して』

「本当にな」

『あのなあ、貴之が告白して何ヶ月経った?普通そこまで待たせるか?待つか?なあ、おまえたちの時間は通常よりゆっくり流れているのか?』

 貴之の耳に大きな溜め息が届いた。


『俺たちの二ヶ月がおまえたちの二日って事はないよな。――二人して似ているな』

 奏太が呆れるのも無理はない。

「俺は急かせないよ。春里だって色々考えることもあるだろうし、何も言えない」

『そんな呑気な事言っていられるのか?考える余地を与えない方がいいんじゃないか?迷い始めたらぐるぐるしそうだ。春里ちゃんはこういったことには慣れていなそうだし』


 奏太の言う通りだ。だから貴之は言い返せなかった。あの場ですぐに答えを求めるのは酷のようで、春里の事を考えて言ったように思えるが、実は貴之自身返事を聞くのが怖くて逃げた。それを見事に指摘されているような気もして心地も悪い。早くこの立場から逃れたいと思う一方で、この宙ぶらりんが心地良くも感じる。求めない返事を口にされたら、立ち直るのにどのくらいの時間が必要だろう。それを考えたら怖くて仕方なかった。


『貴之、逃げるなよ。覚悟を決めなよ』

「覚悟を決めたつもりだったんだけどな」

『気の強いおまえがそんな弱気になるとはね。傍から見たら面白いんだけどさ。それと同時にもどかしいよ』

 奏太の口調は穏やかだった。


「俺も同じ思いだよ。俺自身にイライラするし、もどかしい」

『まあ、春里ちゃんを煽ってあげるよ。だから、俺に感謝して』

「煽るって?」

『ビビらせるだけ。まあ、悪いようにはしないから信じてよ。俺は貴之と春里ちゃんはお似合いだって思っているんだからね』

 貴之はテーブルに置いてあったペットボトルの炭酸飲料を飲んだ。


「俺もどうしようもないよな」

 頼りない呟きに奏太の笑い声が貴之に届いた。

『そういうところが人間味があっていいんじゃないの』

「どうだかね」

『二人を見ているとじれったいけど、おもしろかったんだよね。でも、もう限界だよ。そろそろ二人揃ったところを見たいからさ』

 貴之はローソファに倒れ込み、天井を眺めた。


 ――そうだよな。そろそろ俺も限界。

『一緒に遊びに行きたいでしょう?』

「ああ」

『なら、急かしなよ。急かしちゃえよ』

 奏太は楽しそうにケラケラと笑った。


「ところでおまえの方は?」

『うーん、とりあえず、当分いらない。そのくらいなんかどん底まで落とされた感じ』

「相当、ひどかったみたいだな」

『まあね。あの映像は心臓に悪過ぎた』

 急に声のトーンが落ち、貴之は奏太の今の表情が想像できた。

『まあ、俺はいいんだよ。俺はね。今は貴之と春里ちゃん』

 わざとらしい明るい声に、貴之は何て言っていいのか分からなくなった。


奏太は書いていて楽しいです。だから、いっぱい活躍してもらいたい。


次回、サル軍団のボスが久々に登場。彼女の名前も判明。そして、春里を待ち伏せしていた人は?


次回もお付き合いください。

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