【鈴木君は意外にいい奴かも?】
昼休み、春里と春は毎日の習慣のように、相談することもなく同じ場所に行く。階段下の薄暗い場所。二年生の時とは階数は変わったが、二人の落ち着く場所は変わらない。
「昨日、鈴木君と楽しそうに話していたね」
春はおにぎりにかぶりついた。
「まあね」
春里の方は太巻きだ。今日は貴美がお弁当を作ってくれた。
「わたしの周りにいた女の子たちがキャッキャ言っていたよ」
「キャッキャ?」
「そう。いい男をみんな篠原さんはかっさらっていくって」
春は楽しげに足をパタパタと動かした。
「それ聞いて噴き出しそうになったよ。抑えるのが大変。ブブブって感じ」
「確かに笑えるけど」
「呆れているね、春里ちゃん」
春は指についたご飯粒を食べるため、指を口に入れた。
「かっさらった覚え、ないけど」
「いい男をみんなかっさらったら、春里ちゃんめっちゃかっこいいよねえ。自慢だよねえ」
「めっちゃ、ねえ……」
「すごいの最上級だよ~」
春はにんまりと笑う。
「春的に、って事?」
「そう、春的にね」
まあ、『めっちゃ』は『滅茶』なのだから意味合い的にもそう間違っていないだろうし、『春的』にということはないのだが。それでも、春の弾け具合や話し方や言葉の選び方は、今まで春里の周りにいた人間には無かったもので、慣れるまでに時間がかかる。未だに疲れるのだ。耳は言わずもがな脳みそも。春の言い回しに。
「わたしは自慢だよ。春里ちゃんがもってもてなのはね。増永先輩から始まって本当にいい男ぞろい、粒ぞろい」
春はそう言って口の中に一口サイズのチョコレートを放り投げた。本当に最初の印象とは正反対で、活発なところが多い。いわゆる内弁慶と言うやつかもしれない。春里は春の言葉に苦笑を零しながら、ペットボトルのミルクティーを飲み干した。
「そういえば、竹原先輩は元気?」
「え?」
「わたしね、憧れていたんだ。お近づきになりたいって思っていたんだ。だから、ちょっとだけ情報ちょうだい」
こういったあけっぴろげで隠さない性格を春里は気に入っている。こういう態度をとられると、無下にはできなくなるのだ。
「今は一人暮らしだからね。あまり分からないけれど、声を聞く限りは元気にやっているみたいだよ」
貴之が元気かどうか知りたいのは春里の方だ。声は電話で聞いたが、顔は見ていない。顔を見て、元気かどうかを知りたい。そうしないと安心できないのだ。
「一人暮らしじゃやりたい放題だよね。女連れ込んでいたりして」
春は時折下品だ。遠慮なしに。
「ほら、高校時代は女性が簡単に近づけない立場だったでしょう、だから女遊びはできなかったけれど、それから解放されて――ね」
一応、言葉を選んでいるようだ。まあ、選んでいないようにしか春里には思えないのだが。確かに羽目を外してもおかしくはないだろう。だが、そんな事を少しでもしたら、春里は貴之を受け入れることはできない。そのくらいは貴之だって分かっているはずだ。分からないようにする程、ずる賢くはないはずだ。と信じたいと春里は思う。
帰る支度を万端にし、気持ちはもうこの教室には無い状態の時、隣の席から品のない笑い声が聞こえ、春里はそちらを向いた。
「今日も頑張るんだな。健闘を祈っている」
鈴木を春里は睨みつけた。
「鈴木君がわたしをガードしてくれてもいいんだけれど?」
「冗談。多くの男たちを敵に回したくないね。本気で愛した相手ならまだしも」
「本気で愛されたらわたしが迷惑する」
鈴木は机に伏せクツクツと笑う。春里は溜め息を零した。
「まあ、健闘だけでも祈っていて」
春里はそう言って、バッグの持ち手を掴んだ。
やはり、無駄な抵抗だった。靴を履いた途端に春里の眼の前に立ったのは、如月だ。
「こんにちは、先輩」
如月はきれいな笑みを浮かべていた。まるで、鏡の前で練習していたような笑みだ。
「すでに諦めなければならないみたいね」
春里は溜め息を吐き、歩きだした。
「後ろからももう少しでやって来るだろうし」
「そうですね。先輩だから無下にもできませんが、邪魔者ではありますね」
「あなたもね」
「やはりきついですね、先輩は」
「わたしのどこに興味を持っているわけ?」
特に興味を持ったわけではない。ただ、聞いてみただけだ。
「竹原先輩の妹で、増永先輩の信頼を一瞬で得た女性。そんな人がどのような人なのか興味を抱くものではありませんか?」
「貴之さんと奏太さんに憧れていた一人って事?」
「そういう簡単な言葉で終わらせてほしくないですね」
如月はわざとらしく苦笑を漏らす。総てに置いて演技のようだ。
「へえ。どちらに興味を抱いているの?」
「篠原先輩、あなたに、ですよ」
如月は春里の顔に顔をグイッと近づけ、囁くように言った。
「そりゃ、どうも」
「全然効き目ないですね」
「他の女性は顔を朱くした?」
「まあ、そうですね」
如月は薄く笑った。
「やっと捕まえた」
騒がしく後ろからやってきたのは小牧だ。
「抜け駆けはいけないよ、如月君」
わざとらしく如月の前に仁王立ちし、腕をしっかり伸ばし、如月を指さして言う小牧に如月は鼻で笑って返した。
「先輩は遅かったですね」
「仕様がないよ。鈴木にとっ捕まった」
「鈴木君?」
「そうだよ。なんかわけのわからない事を言われた」
小牧を引きとめてくれたのかもしれないと春里は思い、嬉しくなって笑った。それと同時に彼の努力も虚しく、とっ捕まってしまった自分を恥ずかしくも思った。
「なら、諦めずに走ればよかった」
春里の呟きに反応したのは小牧だ。
「逃げないで。俺から逃げずに真っ向から向き合って。俺の魅力でやられて」
「俺の魅力ってどのような魅力ですか?先輩」
「子供のおまえには分からない大人の魅力だよ」
「ああ、騒がしい」
わざとらしく春里が呟くと、小牧はそれに反応して俯き、シュンとした。
「小牧先輩は扱いやすいかもしれませんね」
――扱いやすい?この男が?確かに如月よりは分かりやすいし扱いやすいけれど。
「中型犬くらいかな」
春里の言葉に笑ったのは如月だ。クツクツと笑うその姿は小牧を馬鹿にしているようだ。
「やはり篠原先輩は最高ですね」
私が楽しむためだけのシーン。と言う感じですね。
次回は貴之サイド。大学で知り合った友人と。
次回もお付き合いください。




