【奏太の知らなかった貴之の表情】
かわいい寝顔をじっくりと眺めながら、二人がいつの間にか急接近している事に驚く。
「まるで人形だね」
本当は柔らかそうな頬を突きたくて仕方ない奏太。だけれど、突いたら最後、貴之に何をされるか分からない。そんな命知らずな事はできない。まだ、この場所に奏太はいたいのだから。
貴之の手は優しく春里の頭を撫でていた。本当に恋人同士だ。こんな二人なのに、まだ恋人同士でない事が不思議でならない。自信家の貴之が、告白に二の足を踏んでいる姿は結構楽しめた。初心なその姿を見つめながら、二人の恋の行方を近くで見守る事が奏太の楽しみだった。少しは二人の恋に関われたのではないだろうか。貴之の感情をいっぱい煽ってみたし。なんて思いながら、貴之の優しい表情を見つめる。いつの間にかこんな表情を見せるようになった。女の前では冷めた表情しか見せず、それが痛々しく感じていたが、今は全くそんな感じはなく、春里を見つめる貴之の表情は見ている奏太が恥ずかしくなるくらいデレッとしている。感情が駄々漏れだ。愛しくてかわいくて抱きしめたくて大切で宝物で――ともろもろ続く。
「告白はするの?」
「ああ。引っ越す直前に」
「へえ、やっとだね」
「一緒に暮らしている間は気持ちは伝えられなかったんだ。どちらに転んでも居心地悪いだろう?」
「確かにそうかも」
何も考えずに貴之の感情を煽ってしまったな、と奏太は申し訳なく思ったが、結果的には悪い方向には転んでいないので、よしとした。
「ずっとそばにいるのが辛かったのに、離れると思うと、淋しく感じる」
本性を見せない貴之が珍しく素直に弱気な言葉を口にするものだから、思わず奏太は笑ってしまった。ずっと傍にいる事は辛かったかも知れない。でも、それ以上に幸せだったのではないだろうか。気持ちを伝えたくても伝えられない、その辛さ以上に、きっと一番近くで支えて、見守れる幸せを感じていたはずだ。
「笑い事じゃない」
「分かっているよ。だけれど、貴之もかわいいところあるなって思ってね」
春里を撫でていた手でおもいっきり頭をはたかれ、奏太は顔を歪ませながら頭を擦った。
「本気で殴るなよ」
貴之は奏太を無視して、春里を見下ろしている。
「うまくいくといいな。うまくいくと信じているけどね」
奏太の言葉に貴之は苦笑を零した。
「うまくいかなかったら俺、結構負抜けるかも」
「そんな感じするかも」
もう外は暗い。貴之の心に優しい風と光を与えた春里。彼女がどんな選択をするか楽しみだ。
それと共に、貴之は奏太とも離れる。二人の友情が距離によって消えるとも薄れるとも思ってはいないが、毎日のように会っていた親友と当分会えないと思うと奏太自身も淋しい。春里と一緒に貴之をからかう事はとても楽しかった。一緒に騒ぎ、笑いあった。そんな時間が心地良かった。だが、そんな心地良い時間を当分は過ごせないのだろう。次はいつ感じられるのだろうか?まあ、いつまでも同じ場所にとどまることはできないのだから、仕方ない。だけれど、きっと貴之は親友であり続けるだろう。そして、春里も。男女の友情など信用していなかったが、春里となら友情をはぐくめる気がしていた。
身近な仲の良い二人がうまくいけばいい。そうすれば、また違う心地良い時間を感じられるだろう。二人は大切な親友だ。そんな風に奏太が思っていることなど、貴之は露も思わないだろう。今の貴之の心には春里への想いだけが占めているのだから。だけれどそれがいい。今の貴之の方がいい。春里を大切に思い、愛しく思っている貴之は魅力的だ。だからこそ、穏やかな二人の空気がこのまま続けばいいと思う。二人が恋人同士になってもきっとその空気の中に奏太は自然に存在できると思うから。
ということで、次回も2話同時更新です。そして、次回更新で出逢い編が終わります。始まり編が続くのですが、まだ読み返していない感じで、多分少し時間をいただくことになるでしょう。そう時間はかからない感じで。
次回は告白。さて、どうなることやら。
次回もお付き合いください。




