【奏太の届いた想い】
貴之がケーキは和室で食べようと言ったので、紅茶を淹れて、春香のお骨の前で食べている。春香の元気だったころの写真を眺めていると、自然と春里は笑顔になれる。とても優しい笑顔をいつも春里に向けてくれていた。この写真も春里が撮ってあげたものだ。春里に向けた笑みなのだ。そう思えるようになったのは数日前。少しずつだが前を見られるようになった。時折落ちそうになるが、この写真を思い出すと掬いあげられる。それでも最終的には貴之の声が完全に春里の心を掬いあげるのだが。
「お母さんね、休日はいつも朝食も昼食も夕食も作ってくれたの。普段は作れないからって。ハンバーグもいっぱい作ってもらった。わたしのハンバーグなんて足元にも及ばないくらいおいしいんだよ」
春香に供えたハンバーグを見つめる。これをおいしいと言ってくれるかは分からない。だけれど、きっと笑顔で食べてくれているだろう。
「そういえばさ、奏太を誘ったんだ。どうせ暇だろうから、一緒に料理を作って、春里の手料理を食べようってさ。でもさ、用事があるって断られた。あいつ、特別に誘ってやったのにさ」
「ああ」
「何の用事か知っているような感じだな」
「え?あ」
言ってもいいのだろうか。もしかしたら内緒かもしれない。
十二月二十二日、奏太は砕ける事を覚悟してあの女性に告白をした。黒髪のきれいな華奢なクラスメイトの女性だ。名前は羽田紗和。そして、めでたく奏太の気持ちは受け入れられた。そして、クリスマスイブの今日、二人は同じ場所で同じ時間を過ごしている。
奏太が羽田に告白を決めた時、奏太は春里に照れるように言った。
「ずっと抱えているのも辛いし、気づいたらどんどん好きになっていくし。クリスマスイブがいいきっかけだと思うんだ」
照れた笑みはとても幼く見えて、春里は幸せを感じた。身近な人が恋をして、恋人になりたいと願い、告白をする。結果はどうなるかは分からないけれど、それは一つの幸せだ。誰かに恋心を抱くと言うことは奇跡に近い。春里はそう思うのだ。
そして、その恋心を受け入れられることはそれ以上に奇跡だと思う。だから、大切に育ててほしい。同じ時間を過ごし、同じ感情を育て、とっておきの時間を共に創り上げる。それはとても難しいが、とても素敵なことだ。
「奏太さんからは何も聞いていないの?」
「ずっと嬉しそうに笑っているだけ。何も言わないんだ。時折気持ち悪い程ニヤニヤしている」
奏太と同じクラスの女の子なら貴之とも当然同じクラスだ。そこに照れがあるのかもしれない。奏太が言わない事を春里が言うのには少し抵抗がある。
「今度、奏太さんに聞きなよ。きっと幸せそうに語ってくれる」
今日どんな時間を過ごしているのかは分からないが、きっと付き合い始めの恋人たちを絵にかいたような甘い時間を過ごしているだろう。
「あんなに春里の手料理を食べたがっていたのにな。それ以上の用事ってなんだよ」
貴之は自分だけ知らない事が気に食わないらしい。唇を尖らせ拗ねて見せる。
「わたしたちはわたしたちで楽しく過ごそう」
普段とそうは変わらない過ごし方だけれど、やはり春里には特別に感じた。
ここでは奏太と羽田の恋は書きません。もっと後で奏太の恋を書こうとは思っています。ふたつの恋を同時に書けたら、ということなのですが。
クリスマスイブはここまでです。クリスマス感が少ないのでこのくらいで。そして、次回は春里と俊介。
もう一話ですね。お付き合いください。




