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初恋の彩り  作者: みこえ
~出逢い~
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【悲しみが薄れる時間】

 子供のように泣いていた春里は疲れたようで眠ってしまった。貴之には春里を抱えて階段を上る力はないので、その場で布団を敷き、そっと春里を横たえる。顔にかかった髪を払い、涙の跡を指で拭う。涙は枯れる事を知らない。春里がおもいっきり泣き、元気を少しでも早く取り戻してくれればいいと願う。貴之はそっと春里の額に唇を当てた。


「春里が笑ってくれますように」

 春里が起きないようにそっと布団をかけ、貴之は部屋を出る。起きた時に悲しさが少し和らいでいればいい。そう願う。




 貴之はキッチンで夕飯の支度をしていた。貴之が作れる料理など高が知れている。それでも、春里が元気になってくれるならばと腕をふるう。今日は肉じゃが、ブロッコリーと卵のサラダ、白菜と油揚げのみそ汁。


 すると、携帯電話が鳴った。奏太からだった。様子を窺う電話だろう。

「もしもし」

『おまえの家の前にいる』

「分かった」

 チャイムを鳴らせばいいのに鳴らさないところが奏太だ。玄関の扉を開けると、無表情の奏太が立っていた。


「どうした?」

「もう少しでテストだけど、大丈夫なのか?」

 奏太は尋ねながら手に持っていた手提げ紙袋を貴之に渡した。貴之はそれを覗きこむ。紙袋の中には箱が入っていた。中身はどうやらドーナツのようだ。

「大丈夫だろう。春里だって特別勉強しなくてもいい点数がとれるはずだ。気持ちさえ落ち着けば問題ないはず」

「おまえは?」

 奏太は当然のようにリビングのソファに座る。


「俺だって大丈夫だよ」

「そうだよな」

 奏太はパサリと紙の束をテーブルの上に置いた。

「おまえが休んでいた時のノートのコピー」

「ああ、サンキュー」

「で、これが春里ちゃんの分」

 奏太は貴之に見せびらかすように紙の束をひらひらとなびかせて見せた。


「誰から?」

「えっと、姫川さん。彼女が俺のところまで持ってきた」

「すごい勇気」

「おどおどしていたよ。でも、家が分からないからって言って、お願いしますと頭下げてきた」

「へえ」

 貴之はその紙の束を奏太から奪い、眺めた。読みやすい几帳面な字だ。春里に見せることを意識して書いている事が分かる。しかもコピーではない。だから、女の子らしくさまざまな色が遣われていた。


「春里ちゃんは?」

「泣き疲れて寝ている」

「そうか。まあ、そうだよな」

「でも、大丈夫だよ」

「それも分かっているよ。ちょっと顔を見たかったけれど、無理そうだな」

「まあ、ゆっくりして行けよ。コーヒーならすぐに用意できるから」


 奏太も心配して春香の葬式に来てくれた。消沈している春里の手を握り、微笑んで見せると、春里も微笑み返していた。それを貴之は春里の隣で見ていた。いつからだったか、奏太と春里の距離がぐっと縮まり、気心知れた友人同士のように話をするようになっていた。いつの間にか『増永さん』から『奏太さん』に呼び方も変わり、春里は本当に奏太に笑いかけることが多くなった。二人の間に何があったのか貴之は知らない。ただ、何か大きな変化があったのは確かだった。


「はい、コーヒー」

 コーヒーと一緒に奏太が持ってきてくれたドーナツを二つ皿に乗せて出した。

「ありがとう」

 奏太は一口コーヒーを飲み、息を吐いた。


「春里ちゃんは他人に弱いところを見せないから、あんな姿を見ちゃうと気になってね」

 確かにその通りだ。貴之は何度か泣いているところを見ていたが、やはりあそこまで弱っている姿は初めてで、どうしていいのか分からないでいた。だから、抱きしめる。言葉ではなく触れることで伝える。春里が嫌がらないから、触れて、抱きしめて、勇気づける。きっと、皆こうやって励まし合うのだろうと思いながら。


 そしてただ、時間だけが解決してくれるような気がしている。どんなに貴之が励ましたとしても、きっと時間しか春里の悲しみを薄らげる事はできない。悔しいけれど、貴之は春里が立ち直れる決定的な言葉を持っていない。持っていないからこそ出来るだけそばにいようと心に決めていた。


「もう少ししたら学校も行く。そこまでにはなっているよ」

 何がスイッチになっているのか未だに分からないが、春里は突然静かに泣き始める。ふとした瞬間に。でも、それがなければ結構落ち着いているのではないだろうか。とそばで見守ってきた貴之は感じてもいる。まだ、時間は必要だ。だけれど、あともう少しだ。そう信じたい思いでいっぱいだった。


「それもあまり心配していない。――それより、いい匂いがするな」

 奏太はわざとらしく鼻をぴくぴくさせる。その姿がおかしくて貴之はケラケラと笑った。奏太が来てくれてよかった。気が落ち込んだ時、奏太は掬いあげてくれる。そういう明るい性格の持ち主だ。

「夕飯を作っていたからな」

「貴之が?」

「そうだよ。他に誰がいる?」

「腹を壊しそう」

 奏太がぼそりと言った。

 ――失礼な。

 春里直伝の料理がまずいはずがない。貴之は思いっきり奏太の頭を叩いた。

前回と比べたら長いですね。

私のお話の書き方は、とりあえず書く。書き終えたら読み返しながら一話ずつ区切り、サブタイトルを付けていく。と言う感じなのです。今回どうして後半が小刻みなのか、と言いますと、開き直ったから。ということです。

一人称の場合は大体基本文字数を考えて区切って行くわけですが、今回は三人称だったので一番簡単な区切り方をしようと思っていました。それが視点ごと、ということになるのですが、そうすると書くときに文字数を結構考えなくてはならなくて。後半は欲が出たんです。せっかくの三人称なのだから、もっといろいろな視点で書きたい、と。その結果開き直って小刻み。ということで、最後まで小刻みです。今、掲載しながら後悔もしています。あまりにも小刻みだから。


あともう一話お付き合いください。

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